第10話 割り振りに困る人
レンバート冒険者ギルドの掲示板前で、ミアは腕を組んでいた。
「……ねえ、アレン」
「はい」
「最近、気づいてる?」
「何をですか?」
「依頼が、微妙なのしか残ってない」
掲示板を見渡す。
初心者向けは、アレンが受けると一瞬で終わる。
中級向けは、被害ゼロで片付く。
上級向けは――まだ回されない。
結果。
「地味なのばっかり」
「そうですね」
アレンは特に不満もなさそうだ。
「でも、数はありますよ」
「そういう問題じゃないのよ……」
ミアは頭を抱えた。
受付のハロルドが、気まずそうにこちらを見ている。
しばらくして、意を決したように声をかけてきた。
「アレンさん、ミアさん。
少し、いいですか」
「はい」
即答。
「最近の依頼処理についてなんですが……」
ハロルドは、言葉を選びながら続ける。
「早すぎる、というか……
被害が、なさすぎるんです」
「それ、問題ですか?」
アレンが首をかしげる。
ハロルドは一瞬、言葉に詰まった。
「問題……というより……」
助けを求めるように、奥を見る。
支部長が、静かに近づいてきた。
「君たちの仕事ぶりは、非常に助かっている」
支部長は率直に言った。
「だが、他の冒険者との“比較”が難しい」
「比較、ですか」
「依頼の難易度設定が、崩れ始めている」
ミアは小さくうなずいた。
「……やっぱり」
支部長は続ける。
「君が初心者向けを受けると、
初心者が受ける依頼が減る」
「そういうものなんですね」
「中級向けも同様だ」
支部長は、少しだけ困った顔をした。
「つまり……
どこに割り振ればいいか、悩んでいる」
沈黙。
ミアが口を開いた。
「……ねえ、アレン」
「はい」
「あなた、便利すぎるのよ」
「そうですか?」
「そう!」
即答だった。
アレンは少し考える。
「じゃあ……
困ってる場所を教えてもらえれば」
支部長は、目を瞬いた。
「困っている場所?」
「はい。
依頼になってないけど、
後回しにされているところとか」
ミアは、思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
(ああ、この人……)
支部長は、しばらく黙り込んだ後、静かに笑った。
「……なるほど」
「ありますか?」
「あるとも。
山ほどな」
ハロルドが、慌てて書類を抱えてきた。
「調査未満、注意喚起止まり、
誰も手を出したがらない案件が……」
「じゃあ、それで」
アレンは、あっさり言った。
ミアは肩をすくめる。
「ほらね。
こうなると思った」
支部長は、二人を見て言った。
「君は、冒険者というより……
調整役だな」
「調整、ですか」
「世界の、だ」
アレンは少しだけ考え、首をかしげた。
「……難しそうですね」
「いや」
支部長は微笑んだ。
「君がやると、なぜか簡単になる」
ギルドを出た後。
ミアは歩きながら、ぽつりと言う。
「第1章、終わりって感じね」
「そうなんですか?」
「そう。
これからは――」
ミアは、掲示板の方向を親指で示した。
「“依頼”じゃなくて、
“困りごと”を拾う番」
アレンは空を見上げる。
「……歩く距離、増えそうですね」
「あなた、それ喜んでるでしょ」
「少しだけ」
ミアは、深くため息をついた。
「ほんと……
基準が狂う」
でも、その顔はどこか楽しそうだった。
こうして。
アレン・クロウは、
冒険者ギルドが一番“割り振りに困る存在”になった。
――それでも本人は、
相変わらず普通の一日だと思っている。
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