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明日もし晴れたなら・・・

作者: アヤタカ

外が騒がしく、校舎が静かな夕暮れ時

僕は一人その教室にいた。

最後の点検をし日直の仕事を終える。

「窓よし、黒板よし、鍵よし。」

マメな性格が口からでている。

高校生活一年目の春ももう終わる。

始まりはそんな夕暮れ時。

日誌を担任の教師に渡すべく教員室の扉を開けた時、丁度向こうからも人が来ていたらしくお約束の展開へ。

ぶつかった瞬間に体が硬直する。

「いたたたたっ・・・」

手を差し伸べるべきだ。

(大丈夫?怪我はない?)

その一言が発せられない。

視線は彼女に吸い寄せられ、体は未だに硬直し続け動けない。

「大丈夫か?澤田。」

教師が彼女を呼ぶ。

「大丈夫です先生。あなたも大丈夫?ごめんね、急いでてぶつかっちゃったみたい。」

硬直は解けた。

「あ・・・いや・・大丈夫です。君は大丈夫?」

何とか話かけられた。

「うん、大丈夫。私って体が丈夫なのだけが取り柄でね。」

そういうと、すれ違いざまウインクをされる。

・・・・僕は魔法にかかっていた。

「おい、大丈夫か?」

恋と言う魔法に・・・。

「おい、しょうがないやつだな。」

日誌を取られて教員室を追い出された事すら気づかず視線は彼女の去った下駄箱へ。

「澤田さん・・・か。」

僕はフラフラと同じ方向へ向かう。

下駄箱を開けた時、外から悲鳴が聞こえる。

女子が慌てて部室へと走り去って行くのが見える。

先ほどの夕暮れの空からすると突発的な雨だが、朝の天気予報は降水確率50%。

持ってきていた傘を鞄から取り出す。

皆が駆け抜ける中、ゆっくりと静かに体育館裏から出てきて帰る女生徒。

僕は慌てて走った。

(話かけるチャンスだ。)

「澤田さん。」

勇気を振り絞って話しかけたことを後悔した。

彼女は泣いていた。

まるで、空は彼女の心に共鳴したかのように雨脚を強める。

「・・・・傘使って。」

そういうのがやっとだった。

彼女はひたすら涙を流していた。

抱きしめたい。

そんな感情が湧き上がってきた。

けれど、それはきっと望んだ結果にはならない。

「なんで、私・・・。ごめん・・・ほっといて。」

「ほっとけない。風邪ひくよ。」

僕は彼女が濡れないように傘をさす。

「・・・優しいんだね。さっきあったばかりなのに。」

「・・・・・」

言いたい言葉が言えない。

ゆっくりと、校門を2人ででる。

彼女は少しずつ話し始めた。

彼のこと、彼の浮気相手のこと、自分が知らないふりをしていたこと、別れを言われた事。

ズキリと心に刺さる。

一言、一言が心に刺さる。

彼女に彼が居た事に・・・そして未だにそんな顔をしている事に。

彼をどれだけ好きだったかわかる顔をする。

その表情が心に刺さる。

「変だね。今日始めて会ったのに、こんな事。」

彼女はニコリと笑う。

そんな辛そうな顔でニコリと笑う。

「じゃあね。ありがとう。」

彼女の家の前につく頃には一つの決心をしていた。

「澤田さん。お願いがあります。」

「えっ?」

「明日の放課後、屋上に来てください。」

僕は正面から彼女をまっすぐにみる。

彼女は何かを感じたのだろう。

「今は・・・」

「だから明日、僕はあなたに言いたいことがあります。嫌なら来なくてもいいです。多分澤田さんの想像している通りだから。」

「・・・・わかった。」

僕はニコリと笑う。

そして、走り去る。

間に合うだろうか?

そんな事をしても彼女は喜ぶわけはない。

わかっている。

けれど、学校を目指す。

逆に嫌われるかもしれない。

わかっている。

(ああ、馬鹿だな・・・もっとモテる奴を見習って少しずつ励ましていって落としていけばいいのに。)

苦笑いを浮かべる。

だからもてないのかもな。

でも、今は走る。

部活が終わるのは確か後10分後だったはず。

走る手の拳に力が入る。

彼女は・・・明日屋上に来てくれるだろうか。

明日の降水確率は確か40%だったなとふと数値が頭をよぎる。

学園についてからは大変な状況だった。

「はは・・・」

僕は笑う。雨の振る体育館裏で空を仰ぎながら。

勝てるかっての・・・ガチガチの運動部に。

でも、すっきりした。

何発もいいのを入れてやった。

ハンサムな顔が明日は崩れているだろう。

「ぷ・・・はははは、こっちはさらに酷い顔を明日はしているだろうな。」

彼女の泣きそうな顔が目の前にある。

「・・・ばか。」

「・・・・なんでいるんだよ。」

「電話あったから、お前に惚れてる馬鹿が校舎裏に倒れているから助けとけって。別れた彼氏の友達から。オレまでスッキリした。アイツとは違っていい奴だなって。」

「・・・・怒ってる?」

「当たり前でしょ。・・・でも、ありがとう。」

今度は逆になっていた。

「さっきと逆だね。私が傘をさしてる。」

「・・・ボロボロだしな。」

苦笑いで返される。

一言余計と叩かれる。

「明日・・・・屋上にいくから。」

「・・・期待しないでいる。」

「うん、そうしてて。」

彼女は涙を光らせながわ笑う。

「明日・・・晴れるかな?」

「あなたの顔よりは腫れてないんじゃない?」

「・・・なにげに酷いね。」

「そう?」

そして、2人で笑う。

明日もし晴れたなら・・・・。






塾の帰りに雨に濡れた好きな子がいました。

傘を持っていた僕は声をかけようとして、かけられなくて・・・

帰り際にチラリと目が合った時の罪悪感というか自分の情けなさというか・・・

そんな青春の日を思い出して書いてみました。

あと一歩の勇気が欲しかった。

僕の場合、また次に雨が降っていたなら・・・でしたけどね。 

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