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第3話:鉄音の正体


遠くで聞こえた、金属が擦れるような音。気のせいであってほしかったけど、どうにも耳に残って、熟睡できたとは言い難い朝を迎えた。

「んー……よく寝た……かな?」

身体はだるいし、寝汗もかいてる気がする。隣のシホさんは、相変わらず豪快な寝息を立てている。逞しいなぁ、このお姉さん。

私の頭上では、スラぽんがすでに起動していて、ぷるぷると小さく震えていた。

《マイコ、おはよう。昨夜の音だが……どうやら気のせいではなかったようだ》

「やっぱり!? 何だったの、あれ?」

嫌な予感が的中したことに、私の眠気は一気に吹き飛んだ。

《建物の外、北側の方向に複数の金属反応を感知。何かが接近している可能性が高い。音も、恐らく金属同士が擦れ合う音だろう》

「まさか、魔物!? あんな音を出す魔物なんて……」

ファンタジー世界の魔物って、もっとこう、グロテスクな咆哮とか、魔法的な音を出すイメージだったんだけど……。

シホさんの肩を軽く叩いて起こす。

「シホさん、シホさん! ちょっと起きてください!」

「んー……あと五分……」

「大変なんです! 変な音が聞こえて……スラぽんが、何かが近づいてきてるって!」

私の焦った声に、シホさんはむくりと身を起こした。

「なんだい、騒がしいねぇ……変な音って?」

寝ぼけ眼を擦りながらそう聞くシホさんに、私は昨夜の音とスラぽんの分析を伝えた。

シホさんはすぐに顔色を変えた。

「金属が擦れる音……そんな魔物は聞いたことがないねぇ。もしかしたら……魔物じゃないのかもしれない」

「え? じゃあ、一体……?」

私の問いに、シホさんは険しい表情で窓の外を見つめた。

「このご時世だ。一番怖いのは、同じように生き残った人間さ」

その言葉に、背筋がゾッとした。魔物も怖いけど、知恵と悪意を持った人間の方が、もっと恐ろしいかもしれない。

私たちは警戒しながら、そっと建物の窓から外の様子を窺った。まだ朝靄が立ち込めていて、はっきりとは見えない。スラぽんは、そのスライムボディを小さくして、窓枠の隙間から偵察に向かってくれた。頼りになる相棒!

数分後、スラぽんがテレパシーで報告してきた。

《視認できた。北側の街道らしき場所に、複数の人影……そして、武装した車両を確認。装甲車のようなものもいる。旗のようなものも掲げているが、紋様は不明》

「武装車両!? 人間だ……やっぱり!」

シホさんの声にも緊張が走る。

《連中は、この建造物の方に向かっているようだ。数……少なくとも十名はいる。武器は、剣や槍の他に、旧文明の遺物と思われる銃器のようなものも所持している》

銃器!? このファンタジー世界にもそんなものが残ってるんだ……!

「どうする、シホさん? 戦うの? それとも隠れる?」

私の問いに、シホさんはしばらく考え込んだ。

「相手の目的が分からない以上、섣불리(そっぶるり:軽率に)戦うのは得策じゃないね。まずは様子を見るのが一番だ。この建物は頑丈だし、隠れる場所はいくらでもある」

私たちは、スラぽんの指示に従い、建物の一階の奥まった倉庫のような場所に身を潜めることにした。窓のない部屋で、入り口には壊れた棚を積み上げて簡易的なバリケードを作った。

息を潜めて待っていると、外から徐々に近づいてくる金属音や、低い話し声が聞こえてきた。

やがて、建物のすぐ外で足音が止まった。

「おい、ここはどうだ?」

男の声が聞こえる。

「廃墟だな。だが、まだ使えるかもしれない。念のため、調べてみるか」

別の男が答えた。

ドキドキと心臓が早鐘のように鳴る。まさか、いきなり見つかったりしないよね……?

しばらくの間、外は静かだった。もしかしたら、別の場所に行ったのか? そう思った矢先――

「ガシャン!」

けたたましい音と共に、一階の扉が強引にこじ開けられた音が響いた!

「誰かいるかー!?」

荒々しい男の声が、建物の中に響き渡る。

「くそっ、見つかったか!」

シホさんが ছোট声(しょうこえ:小声)で呟く。

私たちはバリケードの陰で身を寄せ合い、息を殺して様子を窺った。足音は徐々に近づいてくる。複数いるようだ。

やがて、倉庫の入り口まで足音が聞こえた。積み上げられた棚の隙間から、外の様子が少しだけ見える。

そこに立っていたのは、革の鎧を身につけ、いかにも荒くれ者といった風貌の男たちだった。腰には剣を佩き、手には錆び付いたような銃を持っている者もいる。彼らがスラぽんの言っていた「武装した車両」から降りてきた人間たちだろう。

「こんなところに、まだ誰か 숨어있나(すもおいんな:隠れているのか)?」

リーダー格らしき、顔に傷のある男が、周囲を警戒しながら声を上げた。

私たちは、息をすることすらためらうほど静かにしていた。どうか、気づかないでくれ……!

男たちは倉庫の中をざっと見回したが、積み上げられた棚が邪魔をして、私たちの姿には気づかなかったようだ。

「チッ、誰もいやしねぇか。無駄足だったな」

傷のある男が吐き捨てた。

私たちは、心の中で安堵のため息をついた。このまま立ち去ってくれるだろうか……。

しかし、彼らはそう簡単には諦めなかった。

「念のため、他の部屋も探してみろ! 何か使える物資があるかもしれねぇぞ!」

リーダーの指示で、男たちは散り散りになって建物の中を探索し始めた。

足音が、私たちのいる倉庫のすぐ近くの部屋でも聞こえ始めた。このままでは、見つかるのは時間の問題だ!

「どうする、シホさん!」

私は ছোট声(しょうこえ:小声)でシホさんに問いかけた。

シホさんは、鉄パイプを握りしめ、覚悟を決めたような表情で頷いた。

「仕方ないね……やるしかないか」

その時、私の頭の中で、スラぽんの声が響いた。

《マイコ、落ち着いて。私が何とかする。シホさんは、あの人たちの注意を引きつけてくれ。その隙に、マイコは……あの棚の裏に隠れている、壊れた箱の陰に潜んでいてくれ》

「え? スラぽん、何を……?」

《いいから、私の言う通りにして! これは、君とシホさんを安全に逃がすための、私の……作戦だ》

スラぽんの声は、いつもよりずっと真剣だった。

私は、スラぽんの言葉を信じるしかなかった。

シホさんに ছোট声(しょうこえ:小声)でアイコンタクトを送ると、彼女は力強く頷き、鉄パイプを構え直した。

次の瞬間――

スラぽんが、倉庫の入り口に向かって、強烈な光を放った!

「うわっ! なんだ!?」

入り口にいた男たちが、突然の閃光に目を瞑った!

「今だ、シホさん!」

スラぽんの声と同時に、シホさんがバリケードを蹴り倒し、鉄パイプを振り上げながら飛び出した!

「何者だ!」

目潰しを食らった男たちが、慌てて武器を構える!

その騒ぎに乗じて、私はスラぽんの指示通り、倉庫の奥の壊れた棚の裏に身を潜めた。心臓がドキドキと激しく脈打っている。

外では、シホさんの叫び声と、男たちの怒号、そして金属がぶつかり合う音が響き始めた。

シホさん、一人で何人相手にしてるの!? 大丈夫!?

私は、棚の隙間から外の様子を窺おうとした。その時――

私の真横に置いてあった、ただの古びた箱だと思っていたものから、かすかに光が漏れていることに気づいた。

なんだろう、これ……?

好奇心に駆られて、そっと箱を開けてみると――

中には、信じられないものが入っていた。

それは、古びた、しかしどこか神秘的な輝きを放つ……一冊の魔導書だった。

表紙には、見慣れない古代文字が刻まれている。

まさか、こんなところに……!?

外の騒ぎは、ますます激しくなっている。シホさんのピンチかもしれない。

でも、この魔導書は一体……?

私は、一瞬だけ葛藤した。

助けに行くべきか。それとも、この謎の魔導書を持ち去るべきか。

その時、スラぽんの声が、再び私の脳内に響いた。

《マイコ! その魔導書を持って、屋上へ急げ! 屋上からなら、何とか逃げられるはずだ! シホさんのことは、私が 시간을 벌어볼게(時間を稼いでみよう)!》

スラぽんの言葉に、迷っている暇はないと悟った。

私は魔導書を掴み、音を立てないように立ち上がると、倉庫の裏口からこっそりと抜け出し、屋上へと続く階段を探し始めた。

外の騒ぎは、まだ収まりそうになかった。シホさん、無事でいて……!

そして、スラぽん、あなたはいったい何を企んでいるの……!?

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