第1話:獣と美女(?)と、最初の仲間!
「危ないっ!!」
考えるより先に、私は手近にあったコンクリート……じゃなくて、なんか石っぽい瓦礫の塊を、渾身の力でブン投げていた! 目標は、今まさに目の前の女性――たぶん、スラぽんのデータにあった「シホ」さん(仮)――に襲いかかろうとしていた、狼みたいな、でもなんかこう、もっと凶暴でキモい感じの獣!
ポイっと投げた石塊は、放物線を描くこともなく、ヘロヘロ~っと飛んで……獣の脇腹あたりに、コテン、と当たった。
……うん、我ながらしょっぼい攻撃! 効果音つけるなら「ペチッ」って感じ!?
「グルルルァ!?」
でも、意外にもその獣は「え、なに今の?」みたいな感じで一瞬こっちを向いた。その隙を見逃すほど、シホさん(仮)はヤワじゃなかった!
「せいやぁぁぁっ!!」
気合一閃! シホさん(仮)は手に持った鉄パイプ(に見えるけど、なんかちょっと魔法の杖っぽくもある?)を獣の頭部にフルスイング! ゴンッ!と鈍い音が響き、獣はキャン!と情けない悲鳴を上げて数メートル吹っ飛んだ。つ、強い! 見た目ふくよかなお姉さんなのに、あのパワーはどこから!?
《ナイスアシスト、マイコ! あの個体、どうやら側面からの不意打ちに弱いみたいだね。あと、あの女性の立っている地面、やっぱり微弱な魔力フィールドが発生してる。自己強化系か、あるいは土地との親和性が高いスキル持ちと見た》
「スキル!? さすがスラぽん、分析早っ!」
でも、安心するのはまだ早い! 周りにはまだ同じような獣が三匹もいやがるんですけど!
一匹が私に気づいて、低い唸り声を上げながらこっちに向かってくる! ひぃぃ、こっち来んなし!
「マイコ、伏せて!」
スラぽんの鋭い声! 私は反射的に地面に突っ伏す! その瞬間、スラぽんが私の頭上をピュンッと飛び越え、獣に向かって何かをプッと噴射した! え、なに今の? スライム汁!?
《ただの粘着性ゲルだよ。一時的な目くらましにはなるはずだ》
獣は顔にネバネバしたものを浴びて「グギャァァ!」と混乱してる! よっしゃ、スラぽん、グッジョブ!
その隙に、私はもう一個、さっきより大きめの石塊を拾い上げて、別の獣に「ええい、ままよ!」と投げつける! 今度はちゃんと当たって、獣が怯んだ!
「お嬢ちゃん、なかなかやるじゃないか!」
シホさん(仮)が、残りの一匹を鉄パイプで殴り飛ばしながら、ニッと笑ってこっちに声をかけてきた。
え、今の私、ちょっとは役に立ってた!? やった!
獣たちは、仲間がやられたのと、謎の粘着ゲル攻撃、そして何よりシホさん(仮)の圧倒的パワーにビビったのか、残った二匹は「キャンキャン!」と退却の遠吠えを上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ふぅ……なんとかなったかねぇ……」
シホさん(仮)は、肩で息をしながら鉄パイプを杖みたいについて、額の汗を手の甲で拭った。その拍子に、彼女の豊満な胸がたゆんと揺れる。おお……これが噂のお色気担当(物理)ってやつですか……! って、見てる場合じゃない!
「だ、大丈夫ですか!?」
私は慌てて駆け寄る。シホさん(仮)の腕には、獣に噛まれたらしい痛々しい傷があって、血が滲んでいた。服もところどころ破けて、泥と汗で汚れている。
「ん、ああ、これくらい平気平気! アンタこそ、怪我はないかい?」
シホさん(仮)は豪快に笑い飛ばすと、今度は私の心配をしてくれた。やだ、この人、めっちゃいい人……!
「私は大丈夫です! あの、助けてくれて……っていうか、私も助けようとしたんですけど、あんまり役に立たなくて……」
「いやいや、あの石っころがなかったら、今頃あたしゃ美味しく頂かれてたかもしれないよ? あんたのおかげだ、ありがとね!」
そう言って、シホさん(仮)は私の肩をバンバンと叩いた。痛いけど、なんだか嬉しい。
《自己紹介がまだだったね。私はマイコ。こっちは私の相棒で、元スマホの……えっと、スラぽんだよ!》
私がスラぽんを指差すと、彼はぷるんと揺れて《よろしく。見ての通り、ただのスライムではない高性能なやつだ》とテレパシーを送る。
シホさん(仮)は、宙に浮くスラぽんを見て目を丸くしたけど、すぐに「へぇ、喋るスライムかい! そりゃまた珍しいねぇ!」と面白そうに笑った。
「あたしはシホ。見ての通りの、ただのサバイバーさ」
シホさんはそう言って、悪戯っぽくウィンクした。
「シホさん……あの、さっき足元が光ってたみたいですけど、あれって……」
スラぽんの分析が気になって尋ねると、シホさんは「おや、目敏いねぇ」と少し驚いた顔をした。
「ちょっとしたお守りみたいなもんでね。この土地が、少しだけあたしに優しいのさ。おかげで、ああいうケダモノ相手でも、なんとかやっていけてるってわけ」
スキル、ってやつなのかな? やっぱりこの世界、ゲームみたいだ!
とりあえず、いつまでもこんな危険な場所にいるわけにもいかない。私たちは、近くにあった半壊した建物の中に移動して、少し休憩することにした。
シホさんは手慣れた様子で、破れた服の袖をちぎって自分の腕に応急処置を施す。その手際の良さに、私はただただ感心するばかり。
「それにしても、お嬢ちゃんたちはどこから来たんだい? こんな寂れた場所に若い子が一人で……しかも、喋るスライム連れなんて、初めて見たよ」
シホさんが、水筒に残っていた貴重な水を少し分けてくれながら尋ねてきた。
「えっと……それが、話すと長くなるんですけど……気がついたら、ここにいた、みたいな……?」
異世界転生とか、元スマホとか、どこまで信じてもらえるかわからない。とりあえず、当たり障りのない感じで答えてみる。
「ふーん、記憶喪失ってやつかい? そりゃ大変だねぇ」
シホさんは特に詮索するでもなく、あっさりとそう言ってくれた。助かる……!
代わりに、私はシホさんからこの世界のことを色々教えてもらった。
やっぱり、ここは「大崩壊」とかいうので文明がメチャクチャになった後の世界で、そこら中にヤバい魔物(獣って呼んでたけど、どう見てもファンタジーのモンスターです、はい)がウヨウヨしてるらしい。生き残ってる人間は少ないし、みんな小さな集落を作って、なんとかカツカツで生きてるんだとか。
「安心して眠れる場所なんて、そうそうないのさ。あたしもね、ちゃんとした寝床を求めて、ここ数日さまよってたんだよ」
シホさんの言葉に、私は大きく頷いた。わかる、わかりすぎる! あの硬い石の床と、いつ襲われるかわからない恐怖! もう二度とごめんだ!
《マイコ。プロローグで話した、比較的安全そうな建造物群……ここからなら、半日もあれば到達できるはずだ。シホさんも誘ってみてはどうかな? 人手は多い方がいい》
スラぽんがナイスな提案をしてくれる。
「あの、シホさん! 私たち、ちょっとアテがあるんです! 安全な場所、見つかるかもしれないんですけど……一緒に行きませんか?」
「おや、本当かい!?」
私の言葉に、シホさんの顔がパッと明るくなった。
「そりゃあ、願ってもない申し出だよ! もちろん、ご一緒させてもらうさ!」
こうして、私とスラぽん、そして新たに出会った頼れる(そしてちょっとお色気もある)お姉さん、シホさんの三人(二人と一匹?)パーティが、ここに爆誕した!
目的地は、スラぽんが「安全かも」って太鼓判(?)を押す、謎の建造物群!
そこに何があるのか、どんな危険が待ってるのか、全然わかんないけど……でも、一人(と一匹)よりは、ずっと心強い!
「よし、それじゃあ腹ごしらえ……といきたいところだけど、まずは出発だね!」
シホさんがパンッと手を叩き、力強く立ち上がった。
私も頷き、スラぽんを肩(?)に乗せて、新たな希望と、やっぱりちょっとの不安を胸に、再び荒野へと足を踏み出した。
私たちの本当のサバイバルは、まだ始まったばかりだ!
……って、なんか主人公っぽいこと言ってみたけど、とりあえず今夜は屋根のある場所で寝たい!切実に!