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二人の使用人

カルロは十歳になった。本格的に魔法を学び始めて五年経つが、その実力はかなりのものだ。


「ちょっとは手加減してくださいよ。坊っちゃん。」


 使用人のルークは俺に蹴られた腹をさすりながらそう言った。


「これでも手加減してる。防御魔法の発動が遅いんだよ。」


「さすがです。坊っちゃん。」


 そう言って俺に抱きつこうとしてくるもう一人の使用人のビショップを俺はひらりとかわす。

 屋敷の裏の森に少し開けた場所があり、俺はよくここで魔法や武術の鍛練をしている。ルークとビショップは俺の御付きの使用人で、お世話をしてくれたり、遊び相手、もとい修行相手になってくれる。

 ルークは二十歳の好青年で、雰囲気イケメンといった感じ。使用人の中では一番若く、同性なのもあってとても接しやすい。ビショップは二十四歳の女性で、子ども好き。ことあるごとに俺に抱きつこうとしてくるが、抱きつかれると豊満な胸が体に当たって理性が大変なので、なるべく避けるようにしている。なるべくなのは、まあそういう時もある。


 ブライト家には六人の使用人がいるが、二人のことは俺が自分で選んで御付きになってもらった。理由はルークには魔法を、ビショップには武術を教えてもらうためだ。ルークは王都の魔法学校で魔法を学んだ経験が、ビショップは王都の防衛班で働いていた経験があり、魔法や戦闘の基礎をはじめ、多くのことを教えてくれた。今では二人よりも強くなってしまったが、二人が師匠であることに変わりはない。


「俺が遅いんじゃなくて、坊っちゃんが速すぎるんですよ!気づいたら腹蹴られてて、何が起きたのかわかりませんでしたよ。」


「攻撃魔法でお前の動線を誘導しながら、なるべく死角へ移動するようにして、最後は木の影で待ち伏せしてお前に蹴りを入れたんだ。」


 攻撃魔法は空間に凝縮したエネルギー体を作り出し、それを相手にぶつける魔法。エネルギー体がある場所は空間が歪むため視認可能。時間はかかるがエネルギーをより凝縮すればより強力になり、ぶつけた対象を削り取ることができる。といってもそれほど強力な魔法を扱える人は稀だろうけど。以前俺が使ったときは木にキレイな穴が開き、人間相手に使うのは控えようと思った。


「発動が間に合わないなら、俺みたいに身体強化魔法と防御魔法を同時に発動しておいたらいいんじゃないか?」


「それが出来るの世界中で坊っちゃんだけだと思いますよ。」


 身体強化魔法は文字通り身体能力を強化する魔法。その人の魔力に応じて強化されるため、魔力次第では子どもでも大人以上の力を出すことができる。

 防御魔法には空間に壁を作り出すタイプと自分自身の強度を上げるタイプがあり、俺が身体強化魔法と同時発動させているのは後者の防御魔法である。この二つの魔法はどちらも自分自身に付与する魔法のため、同時に使うのはかなり高度な技術が必要となる。

 ちなみに前者の防御魔法で作られる壁は硬い透明な膜のようなもので、触れることが可能。


 この世界には他にも様々な魔法が存在するが、魔法を使う上で大切なのは魔力だ。その人の魔力量によって強力な魔法を使えたり、より多くの魔法を同時に使えたりする。魔力の量は生まれつきの才能次第だが、魔力が多いからといって強くなれるわけではなく、魔力を扱う技術も大切である。


 魔法を使うにはまず自分の魔力を媒介物に流し入れ、次に媒介物内に魔法式を構築することで発動できる。

 媒介物は言ってみればノートのような存在だ。開いたノートの左側のページに攻撃魔法などの外部に影響を及ぼす魔法の魔法式を、右側のページに身体強化魔法などの自分自身に付与する魔法の魔法式を書くイメージ。いくつもの魔法式を書くことで複数の魔法を同時に発動することができるし、使った魔法の魔法式は消えて新たに書くスペースが作られる。

 ノートの大きさはその人の魔力量が多い程大きくなるが、書く魔法式の大きさはその人の魔力を扱う技術次第である。要するに小さいノートでも小さく魔法式を書ければたくさんの魔法を同時に使えるし、大きいノートでも大きくしか魔法式を書けなければ少しの魔法しか同時に使えない。

 自分自身に付与する魔法の魔法式はページをまるまる一ページ使って書く必要があるため、基本的には一度に一つしか使えない。俺はページの裏面を使うことで身体強化魔法と防御魔法の二つの魔法の同時発動に成功した。(ノートの例えはあくまでイメージであり、実際にどうやっているかを口で説明するのは難しい。感覚としか言いようがない。)


 俺は生まれつき魔力の量が多く、勉強や実戦練習によって魔力や魔法への理解も深くなり、今では強力な魔法の使用や魔法の多数同時発動なんかもできるようになった。俺が生まれつき優れた才能をもっているのは、転生特典的なやつなのだろうか。だとしたらありがたい。


「もう十分強いですし、俺たちでは相手が務まりそうにないですね。」


 ルークは、どうやらもう俺にボコられたくないようで、もう相手しなくていいですよね?と暗に言ってくる。が、そういう訳にはいかない。俺はハンカチで大事に杖を拭きながら二人に伝える。


「そんなことはないから安心しろ。俺はまだまだ強くならないといけないし、それに二人にももっと強くなってもらわないと。」


 マジかよ。といった様子でガックリするルークに対し、ビショップは少し首をかしげて聞いてきた。


「私たちにも強くなってもらわないとというのは、どういう意味ですか?」


 俺はハンカチを上着の胸ポケットに、杖を内ポケットに大事にしまう。


「ああ、俺は十四になったらこの家を出るつもりだから、二人がみんなを守ってくれるぐらい強ければ、安心して出発できるんだよ。」


「えっ!?」と二人は同時に驚く。


「家を出るって、理由は?アルベルト様とエレナ様はご存知なんですか?」


「理由は世界を見て回りたいからかな。父さんにも母さんにもまだ言ってないんだ。自分から伝えるから、それまで二人とも内緒にしてね。」


 と唇の前に人差し指をもってくる。魔王を倒す目的は、言ったら反対されるだろうから伏せておいた。

 このことは勇者の存在を知ったときから決めていたことだ。なるべく早く、かといって実力不足では意味がない。ベストなタイミングを考えた結果、魔界誕生から百年目、二十代目の勇者が選定される前に魔王を倒す。これが最善だと考えた。


カルロが十歳のこの年、十九代目の勇者が魔王討伐に挑んだが、失敗したことが報じられた。これを聞き、カルロは一人ほっと胸を撫で下ろすのだった。

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