魔法の存在
空井世界が転生したのは、カルロ・ブライトという少年だった。彼の父アルベルト・ブライトと、母エレナ・ブライトは、一代で富を築き上げた、いわゆる成金であった。田舎のロカレスタという街の大きな屋敷に暮らし、使用人を数人雇う余裕もあるかなり裕福な家庭であり、彼の異世界転生は恵まれたスタートになったといえるだろう。
叶の予想通り、俺の記憶が定着したのはカルロが三歳の時だった。だんだん思い出したというよりは、あの教室から急に場面が切り替わったといった感じ。おかげで三歳までの赤ちゃん体験をせずに済んでなによりだ。
とりあえず言語の習得からだと思っていたが、意外とすんなり両親のことをパパ、ママと呼べた。叶が肉体にも記憶が刻まれると言っていたため、これは三歳までのカルロの肉体に刻まれた記憶なのだろう。
子どもの学習能力はやはりとても高く、四歳になる頃にはこの世界の言語と文字はだいたいマスター出来た。習得はそれほど難しいものではなく、高校生が英語を学ぶというよりは、小学生がひらがなを学ぶようなものだったので、勉強するのも楽しかった。
五歳になるまでの次の一年は、この世界の常識や地理、歴史について学ぶことにした。両親や使用人からはかなり溺愛されていたため、欲しい本を買ってもらったり、頻繁に近くの街の図書館まで連れていってもらったりと、勉強するのに苦労はなかった。
この世界と元の世界の一番大きな違いは魔法の存在だろう。魔王がいるということは、魔法もあるんだろうなぁとは思っていたが、やはりあった。
魔法は生まれつき誰もが使える力で、俺自身も基礎的なものはすでに何度か使ったことがある。魔法の使用には媒介物が必要で、例えば部屋の明かりを点ける時にはスイッチが、水を出す時には蛇口が媒介物として作用している。
父さんに魔法を学びたいと言ったら、高級ブランドの高っかい杖を買ってくれた。さすが成金。杖はメジャーな媒介物で、仕事で魔法を使う人は杖を携帯していることが多い。父さんが買ってくれた杖は三十センチほどの長さで、某有名魔法映画シリーズで主人公たちが使っていたような杖だ。杖の値段の相場は知らないが、俺の想像の十倍以上の値段だったため、使い始めた頃は手が震えた。
魔王は魔法の扱いに長けているようなので、どれだけ魔法を極められるかが、魔王を倒す上で重要になりそうだ。