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三章 ~アネルマ~ (3)

「ですから、いつも言っているように、身分証がないと受けられませんから。」


「こんなに可愛くお願いしてるのに!?」


「なんでいけると思ったんですか?」


 なにやら受付で誰かが揉めているようだな。


「はぁ~、また来たのかアイツ。」


 ガランは()だるそうに立ち上がると、彼女に近づく。


「お前なぁ、毎日毎日仕事の邪魔しにくるなよ。」


「あんたらが仕事受けさせてくれないからでしょうが。」


「だから身分証があれば受けさせてやるって言ってるだろ?なんで持って来ないんだよ。」


「家出してきたんだから取りに帰れるわけないでしょ?バカじゃないの?」


 だいぶ好き勝手言う人だなぁ。ガランはぐっと拳を握りしめて、今にも殴りそうだ。揉めてる女性は二十歳ぐらいだろうか、身なりは整っているが中身はすかすかっぽいな。


「ていうかさぁ、何だっけ、えーっと…あっこれこれ、この熊の魔獣っての倒したらめちゃくちゃお金貰えるんでしょ?これ受けたいんだよね。」


 女性は入口近くの掲示板に貼られた紙を指差す。どうやら例の魔獣には懸賞金が懸けられているみたいだな。


「バカ野郎!よりにもよってそれを受けたいって…この街に何があったか知らないわけじゃないだろ?」


「なんとなく聞いてはいたけど、えっそんなヤバいのコイツ?」


 知らなかったのかよ。自信家なのかただのバカなのか。ただ彼女の持っている武器は気になるんだよな。あれは猟銃、魔導銃か。かなり珍しいものを持っているな。もしかしたら中々の実力者の可能性がある。


「でももうお金がないし…」


 どうやら金に困っているようだな。どうせ熊の魔獣とは戦う予定だったし、彼女の腕も気になる。助け船を出してやるか。


「なあ、その熊の魔獣の討伐、俺が受けてもいいか?」


 急に後ろから声をかけられたガランは驚いて振り返る。


「あのなぁ、さっきも言おうとしたがこんな危険なことに首突っ込んだら、ただじゃすまねえぞ。いいから大人しくしてろ。」


「受けさせないならなんでそんな貼り紙出してんだよ。自分たちじゃそいつを倒せないからだろ?だったら子どもだろうがなんだろうが、なりふり構わず頼るべきなんじゃねえの?」


 ガランは何も言い返さずに俺を見ている。


「あんたら大人が俺たち子どもを心配する気持ちはわかるよ。それは悪いことじゃない。でもこのまま街が壊されていってもいいのか?」


 俺は続ける。


「俺はこの街の誰よりも強いぞ。だから俺にやらせろ、ガラン。」


 ガランはため息をついて頭を抱える。


「資格は持っているのか?」


 資格とは貼り紙に書かれている狩猟資格のことだろう。一部の森では魔法を使うためにこの資格が必要になる。俺は小さい頃から森に入っていたし、当然この資格も持っている。


「狩猟資格ならこの通り持ってるよ。それに当然身分証も。」


 俺は収納空間魔法から資格書と身分証を取り出し、ガランに見せる。


「わかった。この仕事はお前に受けさせてやる。…ただし、俺とニックもついていかせてもらう。お前たち二人だけで行かせることはできない。」


「それで構わないよ。」


 ガランはしぶしぶ折れてくれた。俺を完全に信用したわけではないだろうが、このまま待っていても何も解決しないからな。正直俺たちの実力を測るために、ガランたちと一戦交える可能性も視野に入れていたが、自信満々の俺から何かを感じとってくれたのかもな。


「ところでニックって誰だ?」


「ん?いやアイツだけど、名前言ってなかったか?」


 ガランは一緒にいた青年を指差す。アイツ、ニックって名前だったのか。そういや聞いてなかったな。


「いやいやいやいや、ちょっと待ってよ!何割り込んできて勝手に私の仕事奪ってんのよ、このクソガキ。」


 女性はここまで大人しく話しを聞いていたが、我慢ならずに割り込んできた。


「お前はそもそも条件を満たしてない。」


 ガランが冷静に(さと)すと、彼女はキーーと地団駄を踏み始めた。大人だよな?この人。ドン引きだ。


「なあガラン、フィリ…俺と一緒にいるあの子な、彼女は資格を持っていないし、身分証も今持っていないんだが、俺に同行させても構わないよな?」


 狩猟資格を持っているものが一人いれば、資格を持たないものも、資格者の責任で同行していい決まりになっている。俺も資格を取得するまで森で魔法を使うときは、資格を持つルークに同行させてもらっていたからな。


「ああ、仕事を受ける本人が持っていれば構わない。」


「だ、そうだけど?」


 俺は地団駄を踏む女性を見る。彼女は落ち着くと目を丸くして俺に近づく。


「えっ、マジっ、そういうこと?」


「俺に何か言うことがあるんじゃないか?」


「クソガキとか言ってすいませんでしたーー。私も連れてって欲しいなー。」


 彼女は深々と頭を下げると、そのまま上目遣いで可愛くお願いする。掌が一気に返ったな。


「ガラン、彼女も俺が連れていっていいか?」


「もう好きにしてくれ。」


 ガランは呆れながら許可してくれた。熊の魔獣の討伐は、俺とフィリ、警備隊のガランとニック、そして彼女の五人で行くことに決まった。

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