第8話 モブと可愛い妹
「ん……」
左半身に違和感を感じ、琉生はいつも起きている時間よりも少し早い時間に目が覚めた。
違和感を感じる方へ視線を移動させると、自由に乱れた『黒』が目に入った。
「おい……」
琉生にはその『黒』に見覚えがあった。
「何をしている《《朱莉》》……」
「あれ〜? バレちゃったか〜」
琉生のベッドに潜り込んだ朱莉は、てへっと舌を出しておどけた顔をしている。
「バレちゃったかじゃないんだわ。 狭いから早くベッドから出てってくれないか?」
「え、酷い! 酷いよおにぃ! ──せっかくベッドの中に可愛い少女が居るんだから弄ばなくていいの?」
「弄ばねぇよ」
「え、弄ぶだって? きゃ〜っ怖い!」
そう言って朱莉は体を起こし、自分の体を両手で抱きしめる。
「違ぇよ!」
「まぁまぁ、分かるぜおにぃよ。 同じベッドの中に、このCカップのボンキュッボンがいるんだからな」
「いやいや、Cカップはボンキュッボンに入らないだろ」
「はぁ!?」
朱莉は胸の前で腕を組み、頬を膨らませ分かりやすく怒った《《フリ》》をする。
「まぁまぁ、お前と変なやり取りしてたらもう朝食を作らないといけない時間じゃねぇかよ」
「ん、朝ごはんはもう作ってあるよ?」
当然だろ?と言いたげな顔で言う。
料理の"り"の字も知らない朱莉が自分から料理をしたと言ったのだ。
「朱莉、嘘つきは泥棒の始まりだよ?」
朱莉に対して琉生は真面目な顔をして言う。
「残念だがおにぃ、今日の朱莉ちゃんは大真面目、本当に朝ごはんを作ったんだよ」
「ま、まじか……。 こんな所で話していても時間が無駄だ、キッチンに行こ」
「そ、そうだな、兄貴!」
兄貴?と琉生は一瞬思ったが、この妹相手にツッコミをするのは養分をあげるのと同じだと考え、体をベッドから降ろす。
キッチンに向かうにつれて、何かは分からないが美味しそうな匂いがする。
「まじか妹よ。 本当に朝食作ってんじゃん」
せ、成長したんだな、涙が出そうだぜ……。
「ふふん。 とにかく三ツ星レストランにも並ぶ朱莉特製ステーキを召し上がれ」
ちなみにこのステーキは、遠くに住む祖父からの差し入れだ。 冷凍庫に眠っていたものを朱莉が調理したのである。
「い、いただきます……」
琉生は朱莉に促され、先に椅子に座り合掌をした。
ステーキを一口サイズに切り、口え運ぶ。
「ん、これは!」
「どうだ! 味付けも完璧だろ!」
「生だ……」
「え」
そう、朱莉の人生で初めて作ったステーキは半生だったのだ。
流石祖父からの差し入れ。 普通の肉と比べ味の旨みが全然違う。 でも生だ!
「おにぃ、安心して。 これは肉屋から一度も解凍されてないから菌は繁殖してないはずだよ!」
「安心できねぇわ! 腹壊すわ!」
琉生は机をバンと叩きながら立ち上がり、キッチンへ向かう。
手際よくフライパンの上に油を垂らし、広げる。
そして朱莉特製、半生ステーキを焼き直す。
「ん〜!! いい匂いぃ〜」
「そりゃそうだろ。 朱莉の作ったステーキは焼いただけで何も調味料入れてなかったからな」
「え、ステーキに調味料使うの?」
「別に無くてもいいけど、下味に塩を振りかけるだけで全然変わるからな?」
「し、知らなかった……!」
朱莉はふざけているが根は真面目なので、琉生の説明をしっかり聞いて、脳内にメモしている。
数分後。 琉生はIHの電源を落とし、皿の上にステーキを盛り付ける。
「朱莉、食ってみろ」
「は、はい……。 いただきます」
朱莉はパクッとステーキにかぶりつく。 その姿を、琉生は目の前で可愛いな、と思いながら見つめる。
もしかしたら琉生はシスコンなのかもしれない。
「ん、んめぇ……。 おにぃ美味しい!」
目をキラキラと輝かせた朱莉はそう言ったが、琉生は間を空けずつっこむ。
「ん? 俺は美味しくないぞ」
そしてツッコミが決まった!とドヤ顔を決める。
しかしその目の前にはジト目をする朱莉の姿があった。
「おにぃ、私はそんなつもりで言ったんじゃないんだけど……」
「「ふふふ」」
最後には二人して笑う。 これが近衛兄妹の日常だ。
学校ではモブだの言われている琉生だが、心を開いた人の前ではとても面白くて、明るいのだった。
琉生は朝食を済ませると、さっさと制服に着替えたり支度を済ませた。
今日も学校か。 何か嫌なことが起きる気がするが、大丈夫だろう!
よし、今日も頑張るぞ!
「行ってきます」
琉生は朱莉よりも少し早く家を出る。 妹と言えど、実は琉生と朱莉は双子なので同じ学年だ。
そして同じ学校に通っている。 だから一緒に登校してもいいのだが、一緒に学校に通わないのは、周りからの視線が関係しているのだった。
「行ってらっしゃい!」
リビングの方からは明るく元気な声が聞こえてくる。
学校での朱莉はモブとは真逆の存在なのだから仕方ない。 朱莉も一応は女子なので準備には時間がかかるのだろう。
朱莉の行ってらっしゃいを受けて、琉生は外へ力強い一歩を踏み出すのだった。
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