第6話 冷姫と真剣勝負
「近衛くん、次はどれをしよっか! 何かオススメはある?」
「なら体を使う系か、頭を使う系どっちがいい?」
琉生が聞くと、唯は人差し指を顎に当て、可愛らしい表情で考え込む。
「じゃあ体を使う系で!」
「分かった。 少し着いてきて」
「うん!」
周りからはゲーム機の大きい音や、そのゲームで遊ぶ人の明るい声がゲームセンター内に響いている。
琉生は隣りに歩く唯の視線が、ゲームセンター内のあちらこちらに移っていることに苦笑し、お目当てのゲームの元へ行く。
「これだ」
「おー。 見た事ある!」
琉生が紹介したのはリズムに合わせて太鼓を叩くゲーム。
唯のお望み通り体を動かすが、それと同時に頭も使う。
琉生はこのゲームを小さい頃から使用しているため、液晶画面を見なくともリズム通り叩くことが出来る。
ここで琉生は自分の凄さを見せつけようとしているのだった。
「運良く人はいないから、始めちゃうか」
「うん、そうだね!」
こっそりと嫌らしい笑みを浮かべる琉生。それに対して、やる気満々の唯。
お金を入れると、明るいゲーム音と共にキャラクター設定などが始まる。
「伊織さん。 良かったら勝負しない?」
「え〜、私初めてだから下手だよ?」
「大丈夫、大丈夫。 このゲーム簡単だから」
息を吐くように嘘をつく琉生。
そして唯は完璧に騙され、分かった!と目に炎を宿す。
曲が始まるのと同時に、ドンドンカッカッ、と太鼓を叩く音が響く。
難易度は琉生が勝手に一番難しいものに設定した。
しかし何事もないように涼しい顔で叩く唯。
その横には、選曲ミスった……、と焦ったような表情をうかべる琉生。
周りにはあの二人上手すぎ、と集まる人々。
何とか二人は最後まで叩くことが出来たが、難易度が高く、琉生はスコアを見るのを忘れていた。
「ど、どっちが勝つかな……」
初めは自信満々だった琉生だが、何故か弱々しい声で唯に話しかける。
「どうだろ、分かんな──」
『結果発表〜!』
唯の声を完全に遮るほどに、大きな音がゲーム機から鳴る。
負けていたら恥ずかしい。 頼む神様! 俺を勝ちにしてくれ、と内心神頼みにしている琉生の隣には、可愛らしく胸の前で手を握っている唯の姿が。
初めはあの二人上手いな、という思いで集まった人々は完全に唯の虜となっていた。
液晶画面にはコンボから順に表示されていく。お互いに何度もミスをしたから、結果はあまり変わらなかった。
そして最後にスコアが表示される。
たくさんの人が見守る中、買ったのは──
「やったー!!」
琉生、ではなく唯だった。
唯は嬉しくなり、その場で飛び跳ねる。
「oh……」
飛び跳ねたことにより、唯のたわわに実った果実が元気に飛び跳ねる。
たとえ友達だとしても、琉生には刺激が強すぎたようで、顔に熱が上っていくのが分かった。
「近衛くん、このゲーム本当に簡単だったね!」
純真無垢な瞳でそう口にする唯。
琉生は内心、いや簡単ではないぞ?と呟くが、敢えて黙っておいた。
「な、なぁ伊織さんや。 今日はもう遅いから帰らないか?」
「えぇ〜」
少し嫌そうな顔をしながら、唯はスマホで時間を確認する。
「まだ五時だよ?」
「俺今日、夕食を作らないといけないんだ」
「え!? あ〜、それなら仕方ないね」
唯は男の子でも料理できるんだ、と感心し、今日のところはお開きにすることに同意した。
★★★
家の方向が同じだと言うこともあり、二人は途中まで一緒に帰ることにした。
「──近衛くん、言いたくなかったらいいんだけどね。 今日学校でどうして避けだしたの?」
「えと、それはな……」
完全に忘れていたことを思い出してしまい、琉生は若干眉間に皺を寄せる。
「俺が伊織さんと話している時、周りから嫌な視線を向けられてたから」
「へ?」
すぐに言葉の意味を理解できなかった唯は、つい変な声が出てしまう。
「今まであまり人と関わってこなかったから、あういう視線が他の人よりも苦手なんだ」
「そ、そうだったのね……」
上手く返す言葉が見つからず、唯は簡単に相槌を打つ。
「せっかく友達になってくれたのに、言うのは申し訳ないんだけど、学校で話しかけるのをやめてくれないか」
「え」
唯は目の前が真っ暗になった。 いつも周りからは冷姫と呼ばれ恐れられ、そしてやましい目で見られてきた。
次第に男子と話すことが怖くなり、自分から距離を置いた。
そんな中、琉生は初めて男子の中で普通に話せる人だった。
だから琉生から学校では話しかけるのを辞めてくれないか、と言われて凄くショックだった。
琉生の気持ちを尊重したいと思う気持ちと、もっと仲良くなりたいと思う気持ちが、胸の中でぶつかり合っている。
せっかくの縁が途切れないような提案を考えるが、全く思いつかない。
結局唯の口から出たのは、たった二文字──
「やだ」
子供のわがままにすぎない、そんなことは分かっている。 けれどここで簡単に下がるほど、唯の意思は弱くはなかったのだった。
次回2月 1日 午後8時30分(予定)
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