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第5話 冷姫とゲームセンター

「近衛くん。 一緒にプリクラ撮らない?」


 あーあ、嘘だろ……。

 プリクラなんて家族としか撮ったことないんだが……?


 小学校卒業後、友達のいない琉生は、少々乗り気ではない。


 伊織さん……。 俺なんかと撮っても楽しくないぞ?悪くは言わないから、やめておこうよ。


「えと、伊織さん? 本当にあれをしたいのですか……?」


「え、あれがいい! 近衛くんとあれを撮りたい」


 百点満点の眼差しで放った言葉は、琉生の胸にクリティカルヒット。

 琉生が気づいた時にはもう遅く、プリ機の中にいた。


「近衛くん。 もっと笑って、笑ってー」


「笑ってるよ」


「むむむ、前髪が長すぎて表情が全く見えないな〜。 えいっ!」


「や、やめっ──」


 琉生のことなど考えず、唯は琉生の前髪をクイっと持ち上げた。

 それだけなら良かったのだが、前髪を持ち上げた途端シャッター音が、プリ機内に響く。

 二人の初めての写真は、一ミリもカメラ目線ではなかった。しかし見つめ合っていたのでこれはこれで良かったのだろう。


「あ、あはは……。 カメラ見るの忘れちゃったね。 次こそはちゃんとカメラ見ようね」


「そ、そうだな……」


 ぎこちない空気が時間と共に流れる。


「ポーズどうしよっか」


「そうだな。 一番無難なピースとかどうだ?」


「いいね! 最初はピースにしよう」


「ん」


 琉生の提案が通り、二人はピースをしてプリクラを撮ることにした。

 最新のプリ機なので機能が凄いらしいが、二人はあまり使わないので、ほとんど意味がなかった。

 しかし二人はそれでも楽しむことが出来ている。それだけでもう充分だろう。


「ん〜、楽しかった! さてさて、加工タイムといきましょうかね」


「そうだな」


 唯は俺は分からない、と言って何もしない琉生の隣で、タッチペンを片手に液晶パネルをカツカツ叩いている。

 普通は二人でするものを一人でしているのだから、まるで職人のように唯は頑張っている。

 そんな姿を横目に見ていた琉生は、少し口角を上げて微笑んでいた。


「ねぇ、近衛くん。 写真全部編集してみたんだけど、これでいいかな……?」


「俺は何もしてないんだから、つべこべ文句を言う筋合いはないが、これはすごくいいと思うぞ」


 それは嘘偽りのない、琉生の心の底からの言葉だった。


「伊織さんの肌は白くて綺麗だけど、加工でもっと白く、透き通るように見えるよ。 ツヤのある白髪と相まって、いつも以上に綺麗だな」


「綺麗……」


 唯はここまで褒めて貰えると思ってもいなかったので、みるみる顔に熱が上っていくのが分かった。


 近衛くんって、こんなに女の子を褒めることが出来たのね。もしかして学校では誰とも話してなさそうだけど、遠距離の彼女でもいるのかしら。


 唯は勝手に妄想を広げ、これは違う、と首をぶんぶん降って頭から叩き出す。


 変な妄想をした自分が恥ずかしい……。 それに頑張ったことを褒めて貰えたのが嬉しすぎる。

 顔が熱い。──特におでこはやばい。今ならおでこで焼肉なんか出来そうな気がする。


「あ、ごめん。 友達になったばかりなのに、こんなに褒めたら気持ち悪いよな」


「ぜんっぜん! 嬉しかったけど、心の準備が出来てなかっただけだから」


「ほ、ほんとか?」


「ほんとだよ! ありがとね」


「良かった」


 この時口からこぼれた『良かった』は、心の底から思ったことだった。

 せっかくの友達をこんなことで失ったら馬鹿馬鹿しいからな。


「さて、近衛くん。 この画面の中には八枚の写真があります。 しかし困ったことに現像できるのは二枚だけです。 どれとどれにしますか?」


「そうだな。 二枚なら一人一つ選ぼうか」


「うん。 分かった!」


 それから琉生は液晶パネルと睨めっこをするのだが、どれを選ぶべきなのか分からない。

 いつもなら家族が選ぶのだが、今は唯以外誰もいない。


 一番二人の表情が柔らかいのはこの写真だな。 伊織さんはどれを選ぶのかな。


「伊織さん、俺は決まったぞ」


「奇遇ね。 私も決まったよ」


「じゃあせーので指を指すか。──せーの!」


 二人が指を指した写真は幸いにも違っていた。琉生は最後に撮ったお互い自由なポーズの写真を、唯は最初に撮った唯が琉生の前髪を上げて見つめ合ってる写真を選んだ。

 ちなみに琉生の選んだ写真は、琉生が右手ピースを、そして唯は顔の横でガオー、と動物の手のポーズをした写真だ。


「おー、被らなかったね」


「そうだな。 でも悩まなくていいんじゃないか」


「んー、そうだね!」


 そう言って唯はもう一度液晶パネルをカツカツ叩く。

 するとプリ機側面から、現像されたものが落ちてくる。


「「わぁ〜!!」」


 二人はそれを見るなり、心からの歓声を上げる。

 琉生にとっては小学校卒業後初の友達とのプリクラ。そして唯にとっては初めての異性の友達とのプリクラだ。


 だから二人にとって心に深く残るものとなったのだった。


「近衛くん! 一緒にプリクラ撮ってくれてありがとね!」


 琉生が思っている以上に唯はプリクラを撮れたことが嬉しかったらしく、満開の桜のような笑みを浮かべてお礼を伝えた。

 こんなに喜ばれたら誰だって嬉しくなるだろう。

 少なくとも琉生は嬉しくなった。


「こちらこそありがとう!」


 ゲームセンターにはまだまだ多種多様なゲームがある。どんなことをしても唯は喜んでくれそうな気がして、琉生は早く違うところも回りたいと思った。

次回、1月29日午後8時30分!

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