第4話 冷姫と放課後
かろうじて近衛くんに集合場所を伝えれたけれど、果たして本当に来るのかな……。
唯は学校の帰り、集合場所(勝手に決めた)にて琉生の到着を待っていた。
午前中は優しかったけれど、いきなり冷たくなっちゃったな。 もしかして私の事嫌いになっちゃったとか……。
そう思った途端、胸の奥がチクリと痛むのを感じ、すぐに首を横に振り雑念を払う。
わ、私は今近衛くんのことを待ってるのよ。 せっかくなんだから楽しいことを考えてなくちゃ!
マイナスな考えを自分から頭の外へ叩き出して、スマホで現在の時刻を確認する。時刻は四時半を過ぎた頃だった。
琉生も、唯も部活動に所属していないので、四時には学校を出ることができる。しかし中々琉生は姿を表さない。
もう来ないと思い、唯はその場を離れようとしたその時──
「ご、ごめん! 遅くなった」
遠くから琉生が走って集合場所にやってくる。
唯はもう来ない、と思っていたので来てくれた事を凄く嬉しく感じた。
「大丈夫だよ。 それより遊びに行きましょ」
「ありがとう!」
走ってこの場にやって来た琉生は、少々息を切らしていたので、琉生の息が整うのを待ってから二人は歩き始めた。
「近衛くん、どこか行きたいところとかある?」
「行きたいところかー、対してないな。 アウトドアよりかはインドア派だからな。 伊織さんはいつも友達とはどこに行ってるんだ?」
「そうね、いつもはカフェで話してたり、この頃学校の近くにできたアクアモールで服を見たりしてるかな」
ちなみにアクアモールとは、琉生の祖父が代表取締役社長を務める近衛グループの経営するショッピングモールだ。
「そっか。 ならとりあえずアクアモールにでも行ってから決めるか」
琉生は祖父の事業が上手くいっていることを肌で感じ、少し嬉しく思った。
太陽は傾いて、あと少しで沈んで周りの建物に隠されそうだが、六月半ばということもあって、まだまだ気温は高い。
「ねぇ、今日近衛くんって早いうちに学校を出てたよね。 それから集合した時まで何をしていたの?」
いきなりの質問に、琉生はあー、うー、といった母音を並べることしか出来なかった。
「あ、別に言いにくいことだったら無理して言わなくてもいいからね」
「じ、実はな──」
琉生はゆっくりと、唯と集合するまでに何があったのかを説明する。
最初は無表情だった唯だったが、次第に表情が柔らかくなっていった。
「ふふふ。 近衛くんって優しいんだね」
可愛らしく微笑みながら褒める姿に、琉生は少しドキッとしたのはここだけの話。
「いやいや、おばあさんの荷物を運んであげただけだよ?」
「私だったら近衛くんほど、周りに目配りして過ごせないよ。 しっかりと周りを見て助けてあげるのは凄くいいことなんだよ!」
小さい子供に教えるかのように優しい口調の唯を見て、琉生は怒ってなくてよかった、とホッと息をついてからありがとう、と言ってから照れくさそうに右手で首の後ろを触った。
他愛のない会話をしていると、気づいた時には目の前にアクアモールが見えていた。
「近衛くんと話してたら時間が一瞬で過ぎたように感じたよ〜」
「ほんと? 俺も伊織さんと話してたから時間が早く感じるよ」
唯は自然と視線を集めるが、二人はそんな視線に気づくことなく、仲睦まじく話していた。
アクアモールに着くと、二人は館内マップを睨んでいた。
「どこに行こっか」
「そうだね。 近衛くんってゲームセンターとか行ったことある?」
「ゲームセンター? うん、よく来るよ」
「だったら……」
唯はいきなり俯いてボソボソ呟きだした。
自称、勘のいい男の琉生はすぐに伊織さんはゲーセンに行きたいんだな、と理解して提案した。
「じゃあ、《《今日は》》ゲーセンに行こうか」
「──え? ……うんっ!」
唯はゲームセンターに行けることが嬉しいのか、それとも琉生とこれからも遊べることが嬉しいのか、太陽のような明るい笑みを浮かべて唯は頷いた。
唯は周囲からは好奇の視線を、琉生は羨望の眼差しを浴びた。
家族の容姿が整っているということもあり、なんども視線を集める機会のある琉生であったが、やはりこの視線には慣れることは出来ないなと思ったのだった。
ゲームセンターに行くと、他ではあまり耳にすることのない、明るい効果音がそこかしこから聞こえてくる。
「してみたいゲームを探してみたらどうだ?」
「わかった。 そうしてみるよ!」
そう言って目を輝かせて楽しそうなゲームを探す唯。そしてそれを微笑ましそうに眺める琉生の姿は、傍から見たらそれはもう付き合いたてのカップルの様だ。
「──あ!」
一通りゲームセンター内を回ったら、唯はお目当てのものを見つけました、というような驚きと嬉しさに満ちた声を上げた。
琉生は、唯の視線の先を見てくしゃりと表情を曇らせる。
なぜなら唯が見ていたものとはプリント倶楽部通称プリクラだったからだ。
あー、まさかあれをしたいとか言わないよな。
琉生は内心そんなことを思っていたが、それがフラグになったのか唯は口を開いた。
「近衛くん。 一緒にプリクラ撮らない?」
あーあ、嘘だろ……。
写真自体苦手な琉生にとっては、苦痛の数分間が始まる気がしたのだった。