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第3話 モブと友達

 昨夜の予感はた正しかった。

 そう感じたのは二限目の物理の授業だった。


 ★★★


「──今日は隣の席と二人一組で行う」


 おじいさん先生の合図によって、クラスメイト達は各々隣の席と机を繋ぎ合わせる。


 隣が唯である琉生は周りから羨望せんぼうの眼差しを向けられたが、あえて気付かないふりをした。

 すると所々でこのモブが、と陰口を叩かれたが動じない。なぜなら琉生は進化したからだ。

 羽が生えたり、角が生えたりした訳ではない。琉生の果たした進化とは、友達が出来たことだ。


 他のクラスメイトが一日、いや数分で果たしたことに二ヶ月かかった。しかし高校生活初めての友達はクラス内で誰よりも可愛い女の子だ。

 それでだけで琉生は嬉しかったのだ。


 先生が話し始めると、時折隣の席から机を指で優しく叩く音がした。

 なんだ、と首だけを動かしてそちらを見てみると、ノートの端に小さく文字が書かれていた。


『机くっつけると体が当たりそうで、どきどきするね』


 その文字は琉生にクリティカルヒットした。

 見えない矢が、胸を貫く。


「そ、そうだね……」


 辛うじて声は出たものの、不意打ちは心臓に悪すぎる。

 特に女子との関わりのない琉生にとってはとても苦しいものだった。


 ★★★


 授業の内容が全く入ってこない。なぜなら近衛くんと肘が当たりそうなくらい距離が近いから。

 横目に近衛くんを盗み見ると、眠いのか瞼が重そうに見える。


 唯は男の子の顔をまじまじと見たことがなかったから少し心臓が跳ねる。


 授業の難易度は高いが、二人とも学力がいい方なので簡単に理解することができた。

 ちなみに五月の下旬に行われた中間テストでは、二百八十九人中、琉生が一位で唯が十二位だった。


 テストで一位だった琉生だが、モブすぎた故に周りからは誰こいつ、とだけ言われて時間とともに忘れ去られた。


 唯はと言うと、容姿もいい上に学力がいいなんて完璧じゃないか、と言われていた。しかし氷姫と呼ばれるほどに対応が冷たすぎるため、誰も勉強を教えてもらおうとはしなかった。


 ん、近衛くん寝てない!?──そう気づいたのは授業終了十分前。先生が問題の答えを生徒達に当てている。

 もしかしたら近衛が当てられるかもしれない。……でも起こしたら気を悪くしてしまわないかな。

 一体どうしたらいいのォー!!


「──じゃあこの問題は近衛、分かるか?」


 当てられちゃったじゃない!


 唯が慌てて近衛くんを起こそうとした時、琉生の目はパチリと開き、問題の答えを答えた。


「7.2Nです」


「さすがだ。引っ掛け問題だったけどよく間違えなかったな」


 えー!!寝てたんじゃなかったの?ただただ私が恥ずかしい思いをしただけじゃない……。


 先生が黒板に向き直ってから、唯はボソッと琉生に疑問をぶつけた。


「さっき寝てたんじゃないの?」


「寝てたけど……、どうかした?」


 なんかおかしな事を言ってるように言い返されちゃった。

 それに首をこてんと傾げてるし……。


「でも目を開いたらすぐに解けたじゃない」


 すると目をはっと見開いて、唯の質問の意味をようやく理解した。


「あぁ、俺は耳がいいんだけど、どうしてか寝ている時も耳が活性化してるんだよね。 だから答えれたってこと」


「なるほ、ど……」


 まさかそんな特技があったなんて……。近衛くんが寝ている時に可愛いと密かに思っていたけれど、口に出さなくて良かった。


「──おい、近衛と伊織、喋ってないで授業に集中しろ!」


「「す、すいません!」」


 誰にもバレていないと思っていたが、教科担任にはバレており、あの氷姫が男と話すなんて、と周りからは好奇や、嫉妬の目をそれぞれ向けられ、二人は顔に熱が上るのを感じた。


 先生が話し始めたことによって、視線は二人から外れた。

 その後に密かに笑いあった事は二人だけの秘密だ。


 ★★★


 んー、やっと終わった。眠かった……。

 琉生は教室の端で小さく伸びをし、次の授業の準備に取り掛かろうとしていた。


「ねぇ、近衛くん。せっかく友達になったんだし今日の放課後遊ばない?」


 誰にも聞こえないような、小さな呟きだった。

 しかし唯の視線などで自分に言っているのだと理解した琉生は、周りにバレぬよう手で小さく丸を作った。


 その瞬間、唯はぱぁっと眩しい笑顔となった。

 それと同時に周りがザワついた。


 たまたま伊織さんを見ていたクラスメイト達から、生きてて良かった、などと言う言葉が聞こえる。

 それと同じくらいモブの分際で、と妬むような声も聞こえてくる。


 それからというもの、二人の会話はあまり無かった。

 それは唯が話しかけたりしなくなった。などということではない。

 唯が周りからモブと仲良くしている所を見られると、お互いにまずいと思った琉生が話が続かないようにしたからだ。


 唯は寂しそうな顔で琉生の横顔を見つめているが、琉生は気付かないふりをすることしか出来なかったのだった。

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