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第2話 モブとストーカー

 視線に気づかれたと分かってから、唯は隣にちらちらと視線を送る回数を減らした。


 どうしてバレちゃったの……。絶対私変な人だと思われた。昨日のハンカチ、ちゃんと洗濯してアイロンかけたから返したいだけなのに……。


 ★★★


 唯が引いたことにより、今日もいつもと変わらない日々が訪れるのか、と肩を落とした琉生は帰りのホームルームの終了と同時に直ぐに教室を出た。

 わざわざ教室に居座ったところで、友人と呼べる人はいないからだ。


 季節は夏に向かっていく。風が物語っている。それを肌で感じながら河川敷を歩いた。ゆっくりとした時間が過ぎていく。

 友人がいたらこういう所一緒にを歩き、帰るのかと肩をすぼめていると、ふと足音のようなものを地獄耳が捉えた。


 住宅地に向かうべく曲がり角を曲がった際に、長い白髪が見えた、気がした。

 なぜ曖昧なのかと言うと、学校での謎の視線が原因だ。

 脳が未だに奇跡を願っている。馬鹿馬鹿しいので現実を見るべきなのだが、人間なのだから仕方がない。パチンコや賭け事だって、奇跡が起きるかも、という気持ちから始まるものなのだから。


 住宅地に入ってから何度も曲がり角を曲がった際に姿が見えた為、可能性がいつしか確信へと変わった。後ろを歩いているのは、冷姫こと伊織唯だ。

 どうしたのだろうか?俺に用……?いや、偶々家の方向が同じだけだろう。


 にしても喉が渇いた。まだ六月だと言うのに気温が高すぎる。地球温暖化の影響だろうか……?


 琉生は鞄から財布を取り出し、近くにあった自動販売機に千円札を挿入した。

 そこでお気に入りのオレンジジュースを購入し、一口喉に流し込んだ。

 オレンジの甘酸っぱさが、乾いた喉を(うるお)す。そしてオレンジに含まれるクエン酸が体の疲れをさらっていく。体が少し軽くなる気がした。


 疲労が回復したので、もう一度足を進めたその時、琉生は不振な点に気づいた。

 それは自動販売機にてジュースを買っていた間、唯が電柱の陰に隠れて、動かなかった店だ。

 恐らく琉生に用があるのだとこの時確信し、気づいてないふりをしてメリットが見当たらなかったので、綺麗な白髪が隠れきれてない電柱に向かって足を進めた。


 隠れることに必死で琉生が近づいてきていることに気づいていない唯は、自分は隠れるのが上手いと誤解していた。

 しかし目の前にターゲットの琉生が現れ、度肝を抜かした。


「──伊織さん、さっきからつけてるみたいだけどどうかした?」


「え、あの、これを!」


 そう言って制服のスカートのポケットから無地の綺麗なハンカチが取り出された。

 それを見て直ぐに要件を理解した琉生は、わざわざ返しに来てくれたんだ、と言ってハンカチを受け取った。


 ハンカチを渡し終えた唯はなぜか動こうとしない。帰ろうにも帰りにくいと思った琉生は、動けない。


「どうかしたか?」


「そ、その、せっかくなので──私が友達になってあげるわ──じゃない!」


 いきなりの上からな言葉に加え、すぐに否定してから頭を抱える唯の姿に混乱を覚え、琉生は首を傾げることしか出来なかった。


「取り乱してごめんなさい。私の学校での様子を見たらわかると思うけれど、私友達少ししかいないの」


「うん。そうだね」


「調子乗らないで、アナタは一人もいないでしょ?」


 理不尽すぎる。共感を求めてるような言い方だったから共感しただけなのに……。


「──で、少し寂しい思いをしてるの。だから良かったら私と友達になってくれませんか」


 願ってもいない言葉だった。琉生はモブと罵られ、クラスでの居所はなく正直辛い思いをしていた。

 だから友達になってくれませんか、と言われてとても嬉しく思った。心のどこかで何かが変わる気がした。


「……」


 突然言われたものなので、琉生は口を開くことが出来なかった。


「そうだよね、嫌だよね。私みたいに恥ずかしがり屋で誰とも話せない女子なんて……」


「いや、違うんだ!」


「……え?」


「俺は伊織さんに友達になってほしいよ。今までこんなこと言われたこと無かったから、少しびっくりしただけ。俺からもお願いします、俺と友達になってください」


 その言葉を聞いた途端、唯は綺麗なものを見たかのように目をぱぁっと見開き、うん!と言わんばかりに大きく頷いた。

 その姿は、学園内での表情や対応からは想像できないくらいに眩しく、魅力的なものだった。


 ★★★


 その晩、琉生は自室で余韻に浸っていた。


 今日俺に小学校以来初めての友達が出来た。しかもその子は女の子で、クラス内で誰よりも可愛い子だ。


 それは琉生の人生にとってとても大きな出来事だった。

 琉生は明日からいいことあるかも、と胸が高鳴るのを感じたのだった。

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