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ある特定のフィクションな例

人間の取り扱い

作者: 藤村 託時

 ある男は考える。

 自分は何のために生きているのかと───


 男が住む世界には既に人間が居なくなっていた。

 世界中で戦争により人口が大幅に減少したのちに人類は繁栄することを諦め子供を産まなくなっていった。

 彼の両親は世界で最後の一組となる男女のペアであった。

 男は両親以外の人間を見たことがなかった。

 両親が亡くなってからは男は理由もなく生きるようになった。

 寂れた街には熊や犬などが餌を求めてやってくる。

 その度に男は襲われないように身を隠す。

 無人の施設にある保存食を食べることで男は生きる事が出来ている。

 男は起きている間はずっと本を読んで時間を潰している。

 本をひたすら読んでいるうちに本の世界と自分が生きている世界の境界がぼやけていくように感じることが増えていった。

 本にはたくさんの人間が登場し、人間の男女が恋や友情を育んでいる。

 男は両親が生きている時に貰った写真に映る知らない人間を本の登場人物に見立てて勝手に愛着を持つようになっていた。


「私以外にも誰か人間はいるのだろうか・・・・・・」


 男は日頃から1人でも言葉を発するようにしている。

 言葉を発しない期間が長くなると声が出なくなることを自覚してからは独り言を呟く習慣がついた。

 いつか自分以外の人間と会った際に会話が出来なくては困るからだ。

 実際は世界でこの男以外の人間は存在しないが、男がその事実を知る術など無かったのだ。


 ある日の夜男は山へ行くことにした。


 本を読んでばかりの生活に飽きてきたため、冒険することに決めたのだ。

 両親からは山へ行く時は1人で行ってはならず、武器を持つようにしろと言われていたので武器として薪割りに使う斧を持っていくことにした。

 また、夜に備えて火をおこすための道具もカバンに入れ山へ向かう。

 目的地は山頂に決め、山を登り始めると普段からの運動不足によりすぐに息切れを起こした。

 登り始めて数十分ほどで山へ来たことを後悔し始めたが、どうせ他にやることもなかったことを思い出し休憩を適度に挟みつつひたすらに山を登った。

 獣の気配がすると、身を隠しやりすごした。

 普段から獣の気配を察知することには慣れていたので、斧を使う機会はなさそうだと男は思った。



 私はこの星に1か月前から調査でやってきた。

 仕事としてこの星に私たちの1部が映り住めるかどうか確認するために調査だ。

 私たちの星では生物の数が増えすぎたことにより、食糧不足と居住区の奪い合いが常に起こっている。

 これを解消する手段として他の星への移住が上がったのだ。

 各担当エリアが決められており、それぞれのエリアで安全性を確認することになっている。

 今日はこの山を調査するのだが、やる事としては攻撃性の強い生物は殺し環境に不要なゴミを取り除くだけである。

 山に入りこちらに向かってくる凶暴な生物を殺していく。

 スティック状のアイテムの先端から私たち以外の生物を気化させることのできるレーザーを出すことこの星の生物は殺す事が出来る。

 山の半分ほど調査が終わり夜を迎える。

 不思議なことにどこかで明かりと煙が出ていることに気がついた。

 様子を見に明かりの場所へと向かうとそこには予想外の生物が存在していた。

 それはかつてこの星を支配していた人間と呼ばれる生物だった。

 私たちの事前調査では人間は既に絶滅しているため、移住に最適だという話になっていたのだが生き残りがいたらしい。

 近くに武器を所持しているのを確認した。

 人間は私たちほどでは無いが知能が高く攻撃性も高いため厄介であるためここで殺してしまおう。

 スティックを持とうとした時、目の前の人間がどうやら何か言葉を発していることに気がついた。

 気にはなるので翻訳機を耳に当て言語を解読する。


「あなたは人間ですか?」


 私たちは目が3つあり人間の手と足と呼ばれている部分が触手でできている。

 人間のような指などという不完全な棒ではなく触手が用途に合わせて変形するようになっているのだ。

 人間に間違われるのは気分が良くは無いが、単調な調査に少し飽きてきていたところなので返答をすることにする。


「私は人間ではありません。違う星から来た者です」


 翻訳機を口に当てることでこちらの言語もこの星に合わせたものに変換される。


「あなた達人間はあとどのくらい生き残っているのですか?」

「私以外の人間とは親以外会ったことはありません。やっと人間に会えたと思ったのですが残念です」


 やはり人間はほとんど絶滅していることは確かなようだ。

 まぁ人間一人くらい大した驚異にならないので生かしておいてもいいか・・・・・・

 斧を破壊だけして、放置することにした。


 翌日、引き続き調査の続きを行う。

 人間は私の後を付いてくるようになった。

 更にしつこいくらいに私に喋りかけてくる。

 うっとうしくはあったが、ペットのような感覚を覚えたまに返答をしてあげることにした。


 山の調査も終わり、私の担当エリアの調査が完了した。

 私は人間にこれから元の星へ戻ることを伝える。


「もうあなたと会えなくなるのか?」

「少し時間はかかるが、私たちの星の者がこの星へ移ってくるのでその時会えるでしょう」


 調査を担当したものは調査したエリアに星の者たちを連れて移住する手筈になっている。

 その時会うことも可能であろう。

 人間に別れを告げ、星に帰ることにした。

 人間はやはりペットが飼い主を見送る時のような目をこちらに向けていた。


 そこから5年が経ち、私たちは移住を行った。

 私から移住者たちに人間が1人生き残っているが敵意は無いため交流をとっても大丈夫だと伝えた。

 移住をした後も私はこのエリアの環境を整えたり、私の星の各種族の取り決めを決定するために忙しい日々を送った。


 そこから更に2年が経ち、調査の際会った人間のことを思い出した。

 あの人間は今何をしているのだろうかとなんとなく気になり、人間の場所を聞き会うことにした。

 久しぶりに会った人間はそこに住んでいる同種族の仲間達と仲良く交流をしていた。


「久しぶりだな人間」

「久しぶり!また会えて嬉しいよ」

「私の仲間たちと仲良くしているようだな」

「本当に話せる人が増えてありがたいよ」

「良かったな」


 人間は幸せそうな顔をしてまた地元の仲間たちの元へ戻って行った。

 それを見てなぜか胸がざわついた。


 その日の夜、私は人間を殺した。


 地元の仲間たちは人間が消えたことに困惑していた。

 だが、3日もすれば特に気にしなくなっていた。

 私は殺した後もどこかで気にかかっていた。

 なぜ無害な下等生物を殺してしまったのか自分でも少し不思議に感じていた。

 私はその後パートナーと子供を産み、家族と新しい星での生活を満喫した。

 ただ、自分の子供がペットを飼いたいと言い出したのでこの星の無害な生物である猫を飼うことにした。

 猫を見ていると、たまにあの時の人間のことを思い出してしまう時がある。

 その際に、猫を殺してしまおうかと考えてしまうことがあるが子供の悲しむ姿を想像し実行には移すことは無かった。


 人間を殺した時に地元の仲間はそれほど悲しんではいなかった。

 私はそれに対しても何故か苛立ちを覚えた。

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