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Mit der Familie besprechen

 リップは落ちついたローズ系で、チークは落ちついたピンク系。アイシャドウはベージュかグレーの落ちついた色で、いつもよりも大人っぽい雰囲気のある小那愛は体育館で秋央のことを見ている。


 転校について父親と話さなくてはいけない。それを小那愛は分かっている。でも話しづらいから、まだ言い出せていない。


「陽里花ちゃん、パス」


「はい」


 今日小那愛の友達である夏保はいなくて、陽里花と秋央の2人で部活動をしている。


 今日はそれもあってか陽里花と秋央が2人で話していることが多い。


「陽里花ちゃん、ここからシュートして」


「やってみます」


「あっ入ったね」


「入りました」


 秋央と陽里花。2人でわいわいとバスケットボールをしているところを、小那愛は1人で見ている。


 陽里花はノーメイクでジャージ姿なのもあって、小那愛よりもかわいいわけではない。


 それでも秋央が親しく話すのは、陽里花なのだ。ただ見ているだけの小那愛に対して、秋央が話しかけてくることはない。


「私もバスケットボール部に入ればよかった」


 色々なメイクが似合うし、おしゃれも努力している。そこで男なら小那愛のことを好きになることが多いはず。


 でも秋央は小那愛よりも陽里花の方を見る。その事実が小那愛を傷つけている。


「やっぱり転校はしたらだめ。転校したら、波野くんとますます距離が離れる」


 きっと距離が近づけば、秋央は小那愛のことを好きになるはず。小那愛の方が陽里花よりもかわいいのだから、それ以外のことはありえない。


 そこで小那愛はバスケットボール部の活動が終わってから急いで帰宅する。そして慌ててメイクを全部取ってから、またする。


 ラベンダーの日焼け止めに同じくラベンダーカラーのパウダーをはたく。そして黒のマスカラでまつげを若干上向けにしてから、くちびるに透明なリップを塗る。服装は白のフーディにピンクのロングスカートをあわせて、派手さや露出をなくす。


 いつもよりもメイク薄めだから、大人受けするはず。そこで親に転校しないよう、頼めるはず。


 小那愛は中高一貫校に通っているから、高等部に本来は進む予定だった。そして高等部に入ってからも『リュビ』でお手伝いをしながら、メイクを楽しみながら生活する。そうするつもりだった。


 よく知らない学校に通うことも、東京から離れることも、小那愛は予定してなかった。そこで小那愛が転校と引っ越しに賛成できるはずがない。


「小那愛ご飯よ、手伝いなさい」


「はーい」


 小那愛は元気に返事をして、リビングへと向かう。


 ビーフシチュー、ご飯、サラダ。それらを並べたあとで、父親も含めた3人で食事を始めた。


 引っ越しが近いということもあってか、父親は最近帰ってくるのが早い。


「もうすぐ引っ越しでしょう。今お片づけ頑張っているわ」


「引っ越し先の家はここよりも大きいから、物を捨てなくても大丈夫だぞ」


「そうなの。それはうれしいわ」


 母親と父親は楽しそうに話している。


 2人にとって引っ越しするってことは変えることのできない事実だ。そこでそれ以外のこと、例えば引っ越ししないってことはありえないと2人は考えている。


「そういえば雪木市の隣にある姫海村にはおしゃれな飴屋さんがあるんですって。インスタ映えするりんご飴があるらしいから、小那愛も気に入ると思うわ」


 と母親はおっとりと言う。


「雪木市は東京よりものどかだけど、市だからな。今と生活は全く変わらないはずだぞ」


 父親は楽観的に話す。


「私は今まで通りの生活がしたいの。メイクをして学校に通って、時々『リュビ』でお手伝いをする。その生活が幸せで、それ以外は考えられない。だから私は引っ越しや転校はしたくない」


 と小那愛ははっきり言った。


 小那愛の幸せが、小那愛の恋が、今取り上げられようとしている。それはもう引っ越しや転校を反対するしかない。


「きっと新しい生活も楽しいわ。それに『リュビ』じゃなくて、喫茶店でお手伝いをすればいいし、小那愛はメイクしない方がかわいいわ」


「そうだ。もう決まったことだから変えられないぞ。それに中高生がメイクをするなんて早すぎる。まだ大人じゃないからメイクなんてするもんじゃない」


 母親と父親は、小那愛の意見をバッサリ否定する。


 小那愛の両親は、子どもは親に従えばいいと思っている。しかも母親は『倫理』の勉強をしているから、家族のことを大切にする。そういうわけで母親は家族と離れて、小那愛が1人暮らしをすることも認めてくれない。


「普通は中高一貫校に通ったら、高等部に進むんだよ。私みたいに高等部に進まず、親が勝手に決めた高校へ入る人なんて普通はいない」


 小那愛は必死に話す。なんとかして引っ越しと転校を阻止したい、その強い気持ちで話している。


「引っ越すのだから仕方ない」


「そうよ。高校生だった引っ越しの都合で転校することはあるわ。大丈夫、小那愛なら新しい学校にもすぐ慣れるわ」


 父親と母親は小那愛の話を聞こうともしない。


 小那愛がほどこしたいつもよりも薄いメイク、それは無駄だった。


 いや小那愛の話を聞こうとしない両親だから、メイクがなんだってどうしようもないかもしれない。


 でも小那愛にとって引っ越しや転校したくないのは事実だ。


 それによって小那愛は秋央と離れたくないのだ。初めての恋を、諦めたくないのだ。


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