表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

Der Liebe verfallen sein

「さなっち、今日はいつもとちょっとメイクが違う?」


「うん、オレンジっぽい色の日焼け止めをはじめて使ったのと、涙袋を強調させるようにアイシャドウやコンシーラーをがっちり塗っているし、リップも赤みが強いピンクを使っているからかな?」


「なんかちょっとギャルっぽいね、さなっち」


「そう、今回はギャルっぽい感じにしてみた。やっぱりちょっとでもかわいく見られたいから、挑戦してみた。るあちゃんもかわいいよ。もしかして今日はアイシャドウ、ブルーにしてみた?」


「そう。いつものメイクはピンクが多めだから、今回はちょっと冒険してみた」


 放課後、月杏(るあん)小那愛(さなあ)は歩いている。


 夏保(かほ)は部活へと行ったので、この場にはいない。そこで今は2人だけでここにいる。


「ごめん、今日は用事があるから」


「用事って何?」


「ひ・み・つ」


「あっもしかして恋とか? さなっち、好きな人がいるの?」


「それもひ・み・つ」


 小那愛は明るく笑い、歩いて行く。


 小那愛は下駄箱ではなくて、体育館へと向かう。そこで慣れたように体育館の中を見る。


白松(しらまつ)さーん、こっちにパス」


「分かりました」


 夏保と後輩の陽里花(ひりか)がパスをしている。


 夏保と陽里花は同じジャージ姿でノーメイク。でも夏保はショートヘアーでかっこよくて、陽里花はハーフアップの髪がかわいらしい。


 夏保は小那愛の友達だ。でも小那愛は夏保ではなくて別の人を見ている。そうひたすらゴールにボールを入れている、秋央(あきお)のことを。


 秋央はかなりバスケットが上手というわけではなくて、何度もボールがゴールから外れる。


 それでも小那愛はそのことを気にせず、ひたすら秋央のことを見ている。


波野(なみの)くんのことが好きなの?」


 さっき別れたはずの月杏が、気がつかないうちに小那愛の隣にいた。


「そういうわけじゃないよ」


「でも最近は『リュビ』にもこないからさ。わたし気になってたんだ。もしかして『リュビ』に来ないときはここにいた?」


「まあね。じゃあ今日は『リュビ』のお手伝いをする」


 小那愛は答えをはぐらかして、月杏から離れる。


 そのまま小那愛は帰宅して、服とメイクを変える。青のフワッとしたワンピース、メイクも服装にあわせてガーリー風にアレンジする。


 メイクが終わってから急いで、小那愛は『リュビ』へと向かう。


「ここ最近はこなかったので、久しぶりですね」


 小那愛が店番をしていると、都露(とろ)が話しかけてきた。


「実は4月に遠くへ引っ越すんです。その関係で色々あって、お手伝いにこれてないのです」


 実は小那愛、秋央を見るために時間を費やしているので、お手伝いをしている時間がない。でもそのことを都露に話したくないので、ごまかしている。


「引っ越すのですか? 確か梶井(かじい)さんは今中3で4月から高1でしたよね? 中高一貫校に通っている人は大抵中等部から高等部に進むはずなので、その時期に遠くへ引っ越しはしないはずです。通学圏内にお引っ越しなのでしょうか?」


「学校には通えないほど遠いところです。そうですね、私もそう思います」


 小那愛にとってこの引っ越しは不本意なことだ。できることならこのまま東京に住んでいたいし、高等部にも進みたい。


 それでも父親の意見を変えることが、小那愛にはできないので仕方ない。


「親の仕事の都合ですか? 親が単身赴任もしくは梶井さんだけ寮に入るとかできないのでしょうか?」


「できない、というかその選択肢はなさそうです」


 小那愛の両親には娘の意見を聞くという発想がない。子どもは親の言うことに従うのが当たり前であり、そうじゃないことを考えてくれない。


「高校をどこにするのかは子どもが決めるのが普通です。それにせっかく中高一貫校に入ったのなら、よっぽどの事情っていうか本人が外部進学したいと思わない限りは、高等部に進むのが普通です」


「そうですね、私もそう思います」


 都露の意見に同意する、小那愛。


 小那愛は東京で暮らし続けること、高等部に進むことを望んでいる。雑誌やSNSを参考にしてメイクをして登校し、東京のお店で買い物したり『リュビ』でお手伝いしたりする。それが小那愛にとっての幸せ。


 その幸せを小那愛の両親は理解しようとしてくれない。いや小那愛の幸せが間違っている、そう両親は考えているかもしれない。


「だったら親と一度話してみたほうがいいかもしれません。絶対親が間違っていますから」


「そうしてみます」


 両親が小那愛の話を聞いてくれる可能性は全くない。恐らく両親は小那愛が何を言っても、東京から離れて雪木市へ引っ越すつもりだ。


 だとしても小那愛は諦めることはできない。


 今までの生活を送ることが小那愛にとって大事で、それは何よりも大切。それに加えて、今はある事情もできた。


 秋央のことが好き、秋央の近くにいたい。


 そのためにも東京に小那愛は残り、高等部に進むことが大事だ。


「あっもしかしてメイク変えた?」


「そうなんです。うるおいが強い茶色のマスカラを使ったりやさしいピンクのチークを塗ったりして可愛らしくして、それでいて目元は強めのギャルっぽくしてみました」


 とお客さんに聞かれたらメイクのことを強く語ってしまう、それくらいの押しの強さがあっても小那愛は両親を説得できないかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ