Meine erste Liebe
「バスケットボール部の活動は体育館でしているよ」
いつものようにノーメイクの夏保はジャージ姿。これから夏保は部活動に参加するから。
「運動部の部活を見るのははじめて」
小那愛ははしゃいだように話す。
小那愛はいつもよりもチークが濃いめでくちびるはリップと口紅の2つで赤く染まっている上に、アイシャドウが紅茶色でマスカラもしっかりつけている。昨日と違って派手なメイクだが小那愛にはあまり似合っているわけではなくて、これは小那愛がメイクのことをしっかり考えられていないということをしめしている。
2人の友達である月杏はとっくに帰った。月杏はメイクができない高校に通う予定の小那愛に気を使ったのか、今日はメイクが薄めで、透明な日焼け止めに緑系のトーンアップクリームで肌の色を明るくした上にクリアパウダーをはたいただけ。そういうこともあるから、帰宅してから月杏はがっつりメイクをするかもしれない。
「ここで見学してね。じゃあ私は部活するから」
夏保は体育館の中へ入っていき、小那愛は1人で残される。
体育館の中はがらんとしていて、ゴールにボールをいれようとして失敗している女の子が1人だけいる。何度もバスケットボールのゴールにボールをいれようとしているから、この子も夏保と同じくバスケットボール部の人に違いない。
その練習をしている女の子は黒ゴムで髪をハーフアップにしているところはお洒落だけど、ノーメイクで色つきの日焼け止めとかも塗っていないようなシンプルな見た目をしている子だ。とはいえかなりかわいいので、小那愛はその子のことがつい気になってしまう。
小那愛は今日2つのお団子を作るという凝った髪型をしていてメイクもバッチリだから、その子よりもおしゃれだという事実は変わらない。でも小那愛はその子が気になってしまう。
「陽里花ちゃん、ゴールの練習お疲れ様」
「波野先輩は今日も部活ですか?」
体育館に入ってきた男の子が、元からいた女子と話してかける。
「そう今日も練習するつもり」
話の内容から2人は同じバスケットボール部の人らしい。そして2人は一緒にゴールにボールをいれる練習を始めた。
男の子が波野秋央で小那愛達と同じ学年、女の子が白松陽里花で小那愛達の後輩。同じ部活なのもあって、仲よさそうだ。
「うまくゴールに入らないので、波野先輩がうらやましいです」
「練習すれば大丈夫だよ」
男の子は後輩女子をなぐさめつつ、ボールをゴールにいれていく。
秋央がかっこいいことに小那愛は気づいたらしい。小那愛は男の子をよく見る。
モデルになってもおかしくないような、雑誌に出ているメンズモデルよりもかっこういいような。それほど秋央はイケメンだ。確か部員の男子がイケメンと夏保も言っていたし、誰が見ても秋央はかっこいいかもしれない。
「白松さん、波野さん。今日実は友達が部活の見学をしているけど、いいかな?」
夏保が現れて、小那愛を指さす。
「いいですよ。三島先輩のお友達ですから」
「俺も良いぜ」
2人もあっさり了承した。ここで3人が同じバスケットボール部の部員であり、秋央が夏保が紹介したイケメンだってことに小那愛は気づいた。
「ありがとうございます」
小那愛はお礼を言って、体育館に座る。
ミニスカートに足首丈の靴下だから、ジャージよりも身体が冷えやすい。それでも小那愛は寒さにまけず、楽しそうにバスケットボール部の活動を見ている。
「じゃあ体操しようか。全員揃ったし」
「はい」
「そうですね」
秋央が中心になって、部活動を進めていく。
ラジオ体操をしてから柔軟運動をして、さっきと同じくゴールにボールをいれていく3人。秋央と夏保はうまくゴールにボールをいれることもあるけど、陽里花は全然ボールがゴールに入らない。
「次はドリブルしようか」
秋央の指示に従って、3人はドリブルを始める。
秋央は上手にドリブルをして、夏保と陽里花はやや危なげだ。
「陽里花ちゃん。昨日よりもドリブルが上手になっている」
秋央は笑顔で、陽里花をほめた。
「そうですか? そうだとしたらうれしいです」
ドリブルを終えた陽里花は、はにかんだように笑う。
「じゃあ最後にちょっとした試合をしようか」
秋央がそう言うと、夏保と陽里花は真剣そうな顔になる。
まずは陽里花が攻めてゴールに近づこうとする。だけど秋央があっさりゴール前でボールを止める。夏保が攻めても同じ。2人の攻撃を、秋央は簡単そうに止める。
男女差があるから、この展開は当然かもしれない。それを除いても、秋央がこの中でバスケットボールが一番上手だ。そこで小那愛は秋央から目が離せなくなった。
「これで練習終わり。お疲れ様でした」
3人は片付けをすると、それぞれ更衣室へと向かった。
メンズモデルよりもイケメンがバスケットボールを真面目にしている。そこに小那愛はときめいてしまったらしい。
「バスケットボール部はどうだった?」
制服に着替えた夏保が小那愛に近づく。
「あの男の子、格好良かった」
小那愛は夢見る表情で、うっとりと語る。
「男の子は波野秋央さん。私達と同じ中3」
「同じ年なんだ。かなりかっこいい」
小那愛はカラコンをいれたようなうるんだ目になる。それほど小那愛は秋央のことを好きになってしまったみたいだ。
「波野さんはイケメンだからね、おまけにバスケットボールも上手だし」
夏保は軽くうなずく。
「だからまた部活みたい。波野くんのことを応援したい」
小那愛の声は明るくなる。
それはまるで初めての恋に浮かれているようだった。