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ブラッド・ビースト  作者: 船越夕木
第一章 眠るは人間 身に纏うは厄災
20/28

独立

少し投稿間隔があいてしまい申し訳ありません。




 違和感を感じたのはアラヤ自身であった。

 無意識に近しい感覚で行動を起こした自分に驚きと昂揚が湧きあがり、その感覚に身を任せることに一切の躊躇をしなかった。


 (なんだ?理解できる。戦況が、次の手が、敵の行動が、わかる!)


 いつもより加速する思考のなかでアラヤがとった行動は、いたって単純で、効果的な強襲≪アサルト≫だった。

 前衛二人が攻撃を始めた瞬間に舞い込んできた思考がアラヤの体を動かした。


 (血獣が二人に注目してる。

 アサヒがフォローに入った。

 俺もフォローに?いや、あの出力なら大丈夫だ。万が一ダメでも後退するだけの隙はできる。

 じゃあ俺は?!

 血獣が下≪討伐隊≫をターゲットにしてる。

 じゃあ、死角になるのは、上!)


 それからの行動は早かった。

 足に目いっぱいの力を込めたアラヤは、右の壁に向かって大きく跳躍する。そして、壁に足がついた時点で次は反対の壁へ。それを数度繰り返し、建物の屋上にまで到達すると、状況を一度眺めた。


 眼下では、アサヒの銃が血獣の腕を破壊し尽くし、三人が後退していた。

 そして、アラヤは気が付く。


 (血獣の腕の再生が遅い?)


 それに気が付いた瞬間、アラヤは思考を回した。考えれば、わかるとなぜか自身があったからだ。


 (俺らが銃で攻撃したとき、血獣で腕で受け止めた。その時は一瞬で再生してたけど、今度はわけが違う?

 腕が破壊されたからか?

 だとしたら、ある一定以上のダメージで回復が遅れるのか?

 それとも・・・

 検証する必要があるな。このタイミングがちょうどいい)


 アラヤは思考をしながら銃をホルスターにしまう。

 アラヤはリュウヤと同じ仮説を立てているなど思いもせず、ビルの屋上から躊躇せずに落ちた。

 重力がアラヤの落下を後押しする。地上から三十メートルほど落下する間にアラヤの速度エネルギーは上乗せされ続けていく。


 そして、アラヤは中空にて剣を構えた。


 「『血装励起』」


 アラヤの剣が紅く発光する。

 溢れ出した赤い液体は、一つの形を作り出す。それは通常のアラヤの剣よりも一回り大きくなった剣の刃だった。


 「『赫奕燐尽』」


 日々剣の中に注ぎ、圧縮し、貯めこみ続けたアラヤの血液がシステムによる疑似的な指向性を持って形を作る。

 その刃は赤く輝き、たとえ切る相手が人ならざるものであろうとも、その生を狩り尽くすものである。

 流星の如く輝く剣は、落下エネルギーと相まって絶大な威力を得る。


 「もう一本落としとけ」


 アラヤの剣が血獣の腕を肩から切り離した


 『?!!?!』


 なにが起きたのかわからないまま腕を落とされた血獣が困惑した様子で背後を見る。


 そこには血獣の顔面に向けて銃を構えるアラヤの姿がある。

 血獣が振り向くのにタイミングを合わせて放たれる弾丸は、血獣の眉間から少しずれた場所に着弾する。


 「くそ、ちょっとずれたか」


 だが、それでもアラヤの放った弾丸が血獣の目を瞑らせた。

 その隙にアラヤが血獣の背後へと回り込み、がら空きの背中へと飛びつく。そして、銃口を血獣の肌に当てて、そのまま発砲。反動を使いつつ血獣の背を蹴って大きく後退した。


 「アラヤ、気づいたのか?」


 驚いた表情を浮かべながら、リュウヤが質問する。


 「ああ。あいつは多分・・・」




 「?!佐藤隊長!」


 一人のオペレーターの声がざわめく管制室をかき分けて佐藤の耳に届いた。


 「どうした?」

 「来ていただいてよろしいですか?」


 その言葉に佐藤は肯定をしながらそのオペレーターのもとへと駆け寄った。


 「これを見てください。今は、反応が五つですが、先ほどまでは七つ存在していました」


 コンピューターを手慣れた様子で操作したオペレーターが佐藤にモニターを見せた。


 「これは・・・」


 そこに表示されていたのは、一か所に複数の赤いポイントが存在していると観測されたセンサーの様子であった。

 このセンサーは血獣内に存在する核を観測し、表示するものである。

 つまり、画面が示しているのは複数の核がその場に存在しているということであるのだ。


 「どういうことだ?」


 佐藤は困惑する。なにせ、血獣にはどれだけ強力な個体であったとしても必ず核は一つなのだ。


 「存在値の反応はどうなっている?」

 「それが、存在値は血獣一体として換算されてるんです」

 「おかしいな。バグはないかい?」

 「はい。調べてみましたが、それらしい異常は何ら発見できませんでした」

 「そうか、ありがとう。この情報は討伐部隊の四人に渡すよ」

 「そうしてください。彼らが死ぬには早すぎる」

 「ああ、ボクもそう思うよ」


 佐藤は、早速アラヤたちに連絡を試みたのだった。




 「あいつは多分・・・」

 『皆、度々済まない!』


 アラヤの言葉を遮るように佐藤の声が四人の耳に飛び込んだ。


 『こちらで、血獣を解析してみた。

 するとね、君たちの目の前にいる血獣には、一つの体に複数の血獣の反応が存在していることが確認された』

 「「「「!!」」」」


 アラヤとリュウヤが目を見合わせる。


 「佐藤隊長!」 

 『ん?どうしたんだい?』

 「反応の個数はわかりますか?」

 『ああ。わかったよ。

 レーダーの反応では目の前の個体一体で、七体の反応が確認されている。だが、先ほどその反応が二つ消えたところだよ』

 「ありがとうございます!」


 この瞬間、アラヤとリュウヤの仮説が完成した。


 「・・・!」


 だが、血獣はアラヤたちを待つことはしない。

 両腕をなくし、アンバランスな体系となった血獣が、アラヤとアサヒを明確な敵として認定し、二人に向けて肉薄する。

 まず初めに狙いを定めたのはアラヤだった。

 アラヤ以外の三人が後退する。

 アラヤは血獣が放とうとする、大振りの蹴りを体をかがめて回避した。蹴りが頭部を素通りした瞬間、アラヤが血獣の股下を潜り抜けて血獣の背後へとまわる。


 「隊長」


 アラヤが血獣の相手をする中、リュウヤがアラヤの代わりに言葉をつづけた。


 「多分、今回の血獣は、体の部位がそれぞれ独立した生命のような役割を保持していると思われます」

 「「?!」」


 ミハルとアサヒが思わずリュウヤに視線を送る。


 『なんで、そう思ったんだい?』

 「血獣の体です。

 猫や犬のような足。鳥の頭に翼。人間の胴体に腕。

 それぞれ、路地裏から見えなくなった、もしくは血獣に襲われたとされる人物や生物の特徴を有しています。

 そして、アサヒとアラヤが血獣の両腕を破壊したところ、反応が消失しました。

 それらを考えると、多分ですがそれぞれの四肢、翼、胴体、頭が独立した血獣になっているものだと思います」

 『なるほど。確かにそう仮定すれば辻褄があうね。

 それじゃあ、リュウヤ君の仮定を採用し、こちらで作戦を立案してみるよ!』

 「お願いします!」

 『避難完了までの時間はあと十分ほどだ!それまで何とか耐えてくれ!適宜こちらも支援やサポートをしていくからね!』

 「はい!」


 通信が切れ、リュウヤたちが血獣の方を見る。

 アラヤが戦闘を継続し、ダメージを与えている。だが、やはりというべきか、生半可なダメージでは瞬時に回復され、血獣は意に返さずに行動を続けている。

 そして、先ほど切った両腕も肘ほどまで回復しかかっており、元の状態に戻るのも時間の問題である。


 (まずいな。

 部位ごとに破壊していけばいいことは分かったが、それでも倒せるだけの火力が足りない。

 アサヒも、体力が回復するまである程度は休ませないとだめだ。

 ミハルの『血装励起』も未だ溜まってないだろうし。

 俺の『血装励起』一度使うとその日は動けねぇ。頼みの綱は、アラヤのみか・・・

 だが、あいつ力の使い方わかってんのか?というか、あいつの性格だ、無意識のうちに制御してるかもしれねぇ。

 そもそも、この状況でアサヒの一転集中砲撃以上の広範囲攻撃を仕掛ければ周りの建物が崩壊しちまう。そうなれば、被害が拡大するだけじゃねぇ、最悪俺らも巻き込まれて死ぬ・・・!

 今は、ただ耐えるだけしかできねぇ・・・!)


 「みんな!とにかく今は耐える!

 長期戦になる!今は無理に削らなくてもいい!

 周りの避難が終わって、作戦が立案されたらそこからは短期戦に持ち込まれるはずだ!

 それまで自分のリソースを管理!無駄な消費は押さえろ!」

 「おう!」

 「おっけ!」

 「了解です!」


 長い持久戦が始まる。


 災禍の夜はさらに深くなっていく。




さぁ、アラヤ達はこの血獣をどのように倒すのでしょうか。(まだ悩んでる)


血装励起

血獣の身体的特徴を武器として形にしたもの。異能を使う血獣であればその特徴を武器の性能という形で引き出せる。

ただ、かなりの血液を消費するため、使う際は戦闘を決着させるときに使われる。絶大な効果や能力、威力を誇るが、使用者に負担を強いるものもあるため使いすぎには注意が必要だ。

様々な形状があり、性能は千差万別である。アラヤの剣のようにシンプルな能力もあれば、佐藤のような特異的な能力を持つものもある。

武器にも優劣はあるものの、結局は使うものの腕次第だ。なにせ、血相励起を発動させずに血獣を討伐する人間もいるのだから。

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