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動き出す者たち-1 『決意と寝返り』

細かい説明回を含めます

巧に片思いしていた刹羅視点から始まります。

『固体名・白波刹羅のレベルが2に上がりました』


「これって・・・」


職業『見習い傀儡師』である私が操作する傀儡の腕が巨大なテントウ虫の腹を貫いてしばらくして頭の中に声が響く。


「・・どうした?白波」


私の言動に不審に思った犬井くんが声を掛ける。


「うん。なんか頭に女性の声が響いてレベルがあがったみたいなの?」


「マーサさんが言っていたレベルが上がった場合や称号を手に入った時に聞こえる声という奴か?本当にゲームみたいな世界だな」


「そうだね。でもゲームと違って・・・・」


息絶えたテントウ虫の死骸を見ていた私の言葉に同調するように、犬井くんも頷く。


「あぁ、一度死んだら終わり、コンティニュー要素がないという点だな」


その言葉に私は改めてここは日本と違い死が身近にある世界だと自覚する。


「・・・犬井くんは死なないでね」


その言葉に、犬井くんは肩を竦める。


「・・そう思うなら雑魚キャラである俺をしっかり守ってくれよ。その代わり、お前や輝幸に最強の人形を提供するからさ」


「・・・うん。任せてよ」


私の返事に犬井くんは静かに笑みを零した。



「・・・犬井くん」


王国王宮内、転移者達に与えられた部屋の一室で目を覚ました私は、部屋の隅に立てかけられた傀儡人形たちに目を向ける。

不格好に修復された傀儡人形たちの姿に、私は改めて思い知らされる。

彼らを作った製作者である犬井くんが、もうこの世の何処にもいないということを。

そう思うと心が重くなる。


「・・・刹羅、大丈夫?」


私の親友である楠木真由美が隣のベットから心配そうな表情を向ける。


「うん。大丈夫だよ」


「・・・・辛くなるようなら、人形を変えたら、製作者である犬井くんがいない以上、補修はできても完全な修理はできないんだから」


そう。傀儡人形の強度や特性は、鎧や武器と違い製作者の魔力の分量、質、性質によって変化するため、完全な修復はできない。

その為、どんなに優秀な傀儡人形であろうと製作者がいない状態で破損した場合、その人形は破棄するのが通例になっている。

現に、彼の親友である椎名くんは、犬井くんが制作した人形を破棄して新た人形を使っている。最も、彼の場合その想いれが強すぎると意味もあるのだけど。

だけど、私は・・・・


「ううん。この子たちで戦うよ」


「でも、その人形たちはーーー」


そう。完全な修復が出来ないという事は、本来の性能を発揮出来ないということを意味する。


「わかってる。でも、この子たちだけは捨てられないの」


もし、捨てたら彼が生きた証がなくなって、わたしはもう二度と立ち上がれないのだから。

私の固い決意に根負けしたのか真由美が肩を竦める。


「ごめんね。真由美ちゃん」


「いいわよ。塞ぎこまれるより幾分かマシだもん」


ねぇ、犬井くん。気付いてる?

生産職でありながら、戦闘のサポートだけでなく心のケアまでしてくれる犬井くんに私がどこまで励まされていたか?

本当は闘いが嫌だったけど、君が後ろにいてくれるだけで私がどれだけ心強かったか?


だから、私は戦うよ。

君の残した人形で今度こそ魔王を倒す。

だから、いつものように私の後ろで見守ってください。


私は新たな決意を胸に、不格好な形になった人形を手入れする為、タオルと油の入った瓶を引き出しから取り出した。



「・・・君、一体何を企んでいるの?」


魔王城のその王の間にて、魔王ディノバルトは眼前にいる少年・・・・甲斐大介を訝しむ。


「・・おや聞こえませんでしたか?私を魔王軍の末席に加えてほしいといったのです。魔王様」


ディノバルトの問いかけに、甲斐が膝まついた状態でアイテム袋を開き、中から大量の魔石・・・・それも高ランクの魔石を積み上げる。


「聞けば、魔王様の持つその人形の原動力は高ランクの魔石だと聞きました。どうぞ、お納めください」


「ふーん。ちゃんとお土産は用意しているんだね」


「当然でございます」


「しかし、なぜ魔王軍につきたいんだい。君たち転移者の目的は、故郷への帰還。すなわち、僕を倒すことで、帰る為の称号を手にすることが目的だったはずだけど」


当然の疑問に甲斐が笑みを零す。


「確かに俺の当初の目的は故郷への帰還だった」


「当初?今は違うといいたいのかい」


「ご存じかどうかは知りませんが、俺たちがこの世界に来て既に1年半の歳月が経過してしまいました。つまり、向こうの世界では、1年半もの空白の時間が出来てしまったんです」


「そうだね」


「それだけの期間が空いた以上、十中八九、俺たちの退学処分になっている。つまり中卒が決定した。今更、戻ったところで、碌な職にありつけず苦しい人生が待っているだけだ」


「なるほど。つまり君は既に帰還を諦めていて、僕を倒したところで帰るつもりはなかったんだね」


「はい。俺は、他の奴らと違い、帰還目的ではなく魔王を倒した英雄になることで裕福な暮らしを得ることが目的でしたから」


その返答にディノバルトは笑みを零す。


「・・・君、真正の屑だね」


「だけど、天上院・・・・勇者では貴方には勝てないことがあの決戦でハッキリした以上、負け陣営につくメリットはなくなりました」


「流石は屑。共に戦ってきた仲間を損得勘定で裏切るとは恐れ入るよ」


「俺は勇者と違い、勝ち馬に乗る主義なんですよ」


「いいだろう。君を僕の直属部隊に加える」


「ありがたき幸せ」


「ま、魔王様!?」


ディノバルトの決定に傍に控えていた侍女が慌てる。


「虚言の秤が傾いていない以上、彼の言葉に嘘はない。口先だけの忠義を語る奴より、こういう屑のほうがよっぽど信頼できるよ」


そう言って、ディノバルトはショーテーブルに置いていた金色の秤を一瞥し


「じゃぁ、甲斐。君の元仲間のステータス情報や居場所などを教えてもらえるかな」


その命令に甲斐は笑みを浮かべ


「畏まりました。ですが、その前に――――」


甲斐がヒップホルダーに仕舞っていたショートランスを取り出し、天蓋の窓ガラスに投げつけた。


「かっ!?」


硝子と一緒に鳥型モンスターが玉座の間に堕ちる。


「相変わらずの諜報能力だね。磯田」


「・・・甲斐。相変わ・・・らず鋭・い奴・・だ・・・ね・・」


心臓をショートランスで貫かれた鳥型モンスター・・・・に憑依した磯田が忌々しそうに睨み付ける。


「そのモンスターも元仲間かい?」


「はい。名前は磯田姪。職業『憑依師』。低位の動物やモンスターに自分の意識を移植するの特技を持っていて、勇者パーティーの情報支援を担当していた女です。諜報能力は一級品ですが、戦闘は勇者パーティ。いや人類最弱の域に入ります」


憑依神にジョブチェンジする前の職業『憑依師』についてペラペラしゃべる甲斐に磯田が舌打ちをつく。


「・・・こ・の・・おしゃべり・・くそ・・や・・ろう・・・」


「人を品〇みたいに言うなよ。それとキャラは忘れているぞ」


「は、屑に演じるキャラなんかないね」



「天上院に伝えなよ。恨むなら力のないお前を恨めってな」


そう言って、甲斐はトドメとばかりに、磯田の首を槍で貫いた。


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