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放浪者-2 『称号はやはりチートでした』

魔石を抜き取られ、寒気を感じる俺は兵士に担がれて深い・・・・底が見えない谷底を覗いていた。


「魔石を抜き取られてもまだ生きているとは、スクラップになっても異世界人ということか。だが、お前はこれで終わりだ。恨むなら、仲間に見捨てられたテメーを恨めよ」


「・・・く・そ・・・が・・」


「あばよ。スクラップ野郎」


そう言って、兵士はまるで不法投棄するマネキンでも捨てるかのように俺を谷底に放り投げた。







王城に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。

そんな中、椎名輝幸は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしていない。

もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば、親友を失って激しく落ち込んでいるように見えただろう。


だが実際は……


「フフ、フヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。半端物のくせに……出しゃばるから……こ、これは天罰だ。……俺は間違ってない…これで、アイツは俺を見てくれる……そ、それにあれは……俺達が生き残るために必要なことだったんだ……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」


暗い笑みと濁った瞳で言い訳しているだけだった。


その時、不意に背後から声を掛けられた。


「へぇ~、やっぱり君だったんだ。クラスメイト・・・しかも親友を裏切るなんて、最低だね」


「ッ!? だ、誰だ!」


慌てて振り返る輝幸。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。


「お、お前、いつからそこに……」


「そんなことはどうでもいいよ。それより……フレンドリーファイヤーした今どんな気持ち?親友兼恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」


その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。輝幸自身がやったこととは言え、ここまで苦楽を共にしていたクラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。

船の中では、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。


「……それが、お前の本性か?」

 

 呆然と呟く輝幸。

 それを、ソイツが馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。


「本性?そんな大層なものじゃないさ。誰だって、仮面の一つや二つ被っているのがものでしょ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」


「ッ!? そ、それは・・・」


「君の職業『傀儡王』・・・。それだけでも証拠になるんじゃないかな?そ・れ・に」


『ア、アイツが悪いんだ。半端物のくせに……出しゃばるから……こ、これは天罰だ。……俺は間違ってない…これで、アイツは俺を見てくれる……そ、それにあれは……俺達が生き残るために必要なことだったんだ……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ』


「な!?」


「証拠はバッチリ確保済みさ♪」


ソイツが取り出した記録水晶に輝幸は追い詰められる。

まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言動。

まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。

二重人格と言われた方がまだ信じられる。

目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。


「ど、どうしろってんだ!?」


「うん? 心外だね。まるであたしが脅しているようじゃないか? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、あたしの手足となって従ってくれればいいよ」


「そ、それは・・・」


実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する輝幸。

当然断りたいが、そうすれば容赦なく巧を殺したのは輝幸だと言いふらすだろう。

葛藤する輝幸は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。

しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔が口を開く。


「いっておくけど、あたしを殺すことは愚策だよ。何しろ、瀬之口が犬井の件を怪しんでアンタを疑っているみたいだしね」


「何?」


「ホント邪魔な女だよね。あたし、アイツが嫌いなのよね。だから、手を組まない」


「ッ!? な、何を言って……」


暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する輝幸。そんな輝幸の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。


「アンタとアタシでは欲しい物が違うけど、どちらも瀬之口が障害になっている。だから、手を組まないかって言ってるのよ」


「……欲しいものだと?」


 あまりに訳の分からない状況に輝幸が声を荒らげる。


「それは、君に関係のないことだよ……で? 返答は?」


 あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた輝幸は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。


「……手を組もう」


「アハハハハハ、それはよかった! あたしもクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」


 楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、輝幸は「ちくしょうが……」と小さく呟いた。

















長い浮遊感の終わりを告げるように、「ガッシャ―ン!!」というまるでお皿やコップが落下して割れたような音と衝撃が暗い谷底に響き渡る。


「・・・・我ながらしぶといね」


俺は落下の衝撃で壊れた手足が破損して、胸を中心に大きく罅割れた陶器のようなボディを見下ろす。

あの高さから落ちて壊れないとは、パペットマン・・・・いや異世界人から生成された人工魔獣は思っていた以上より頑丈なようだ。

だが・・・・


「それも此処までだな」


急所である魔石を抉り取られた状態で、落ちたのだ。ここから生存できるわけがない。何より・・・・・


「状況的に詰んでるだろ。これ」


俺の・・・無機物になった眼光が、自分を取り囲むように群がる亡霊たちを見る。


「・・・ゴミ捨て場と言っていたし、お前等もあの屑に玩具にされた挙句捨てられた口か?」


亡霊は何も答えず、半壊した俺を物欲しそうに見つめる。


「・・・喰いたきゃ喰えよ。ただし、俺も抵抗するから覚悟しろよ」


その言葉が呼び水になったのか亡霊たちが濁流となって俺に押し寄せてきた。


「ひっ─────っぎゅいやぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああggっがあぁぁぁぁぁあsがががxxがっがっががっがああっぁぁぁっぁっぁぁっぁx─────っっ!?!?!?」



玩具にされて捨てられた者の憎悪が

元から谷底住んでいたが生存競争に敗れて殺された魔獣の生存本能が

魔王への復讐を果たせず、嬲られた者の怒りが

能力足らないというだけで忠義を裏切られた者の悲しみが


痛みと共に俺の魂に雪崩れ込み、内側から喰い千切られる感覚を味わう。

まずい。気持ち悪い。痛い

まるで、餌ではなく、生きた害虫を無理やり腹に詰め込まれているような気分だった。

これが死。

何が用済みだ。何が親友だ。何が救済だ。

こんなクソみたいな世界は滅んでしまえばいい。


だが、俺の想いを無視して、亡霊たちはドンドン俺の中に雪崩れ込み、内側から俺という存在を食い散らかし終わらない痛みが俺を襲う。

魂が壊れかけている影響なのか、俺の罅割れたボディが壊れ始める。


「ふ、ふざけんな!」


本能的に、俺は内側で暴れる亡霊共を胃液で溶かすイメージを思い浮かべる。

何処かの小説ではないので、この行為に何の意味はないだろうが、むざむざ殺されるよりかはマシだ。

だが、俺の中に土足で踏みにじる奴らが苦しんでるように思えて溜飲が幾分かさがり、この形容しがたい痛みに耐えることが出来た。













どれくらいの時間が流れたのだろうか。

時間の経過もおぼろげになり、喰われ続けてから何分、何時間、何日経過したのかわからないが、俺はまだ自我を保てていた。

痛みが麻痺してきたのか、あれだけ痛かった攻撃が気にならなくなってきた。

どういうことだ。

するとその疑問に答えるように頭の中に声が響いた。


『生命力3%以下及び部位破損状態を維持して666時間以上経過しました。固体名・犬井巧は称号『武蔵野弁慶』を獲得しました』


『666時間以上、精神攻撃に抵抗しました。固体名・犬井巧は称号『グレゴリー・ラスプーチン』を獲得しました』


『1万体以上の怨霊を吸収しました。固体名・犬井巧は称号『アドルフ・ヒトラー』を獲得しました』


『魔石の喪失から666時間生存しました。固体名・犬井巧は称号『ネロ・クラウディウス』を獲得しました』


お、おう。一時は死にかけたというのに、いきなり超激レアの称号が4つも。

というか、称号って偉人や英雄、独裁者の名前なんだ。

ちょっと、というかかなり意外だな。

そんなことを思っているとアナウンスがまた鳴り響く。


『称号『武蔵野弁慶』を得たことで、固体名・犬井巧は『ナイト・ドール』に進化できるようになりました』


『称号『グレゴリー・ラスプーチン』を得たことで、固体名・犬井巧は『モンク・ドール』に進化できるようになりました』


『称号『アドルフ・ヒトラー』を得たことで、固体名・犬井巧は『ポイズン・ドール』に進化できるようになりました』


『称号『ネロ・クラウディウス』を得たことで、固体名・犬井巧は『ローズ・ドール』に進化できるようになりました』


お、おう。何かすごい急展開だ。

えーと、ドレにしようかな。


『警告!!魂の破損が98%に達しました。5分以内に進化できなければ、固体名・犬井巧は魂ごと消滅します』


ちょ、ちょっ!?展開急すぎません。5分って、ほとんど時間ないじゃん!!

破損しかけている自分のボディに『生命眼』をかけ、進化先と称号を確認する。

まずは、称号だな


称号『武蔵野弁慶』

獲得条件:生命力が3%以下かつ部位破損した状態で666時間闘い続けること

効果:ノックバック・状態異常攻撃をすべて無効化


称号『グレゴリー・ラスプーチン』

獲得条件:666時間、魂に直接作用する攻撃を受け続けること

効果:幻術を始めとした精神攻撃をすべて無効化


称号『アドルフ・ヒトラー』

獲得条件:1万体以上の怨念・憎悪をその身に受けること

効果:すべての攻撃に精神作用の効果が付与することができる


称号『ネロ・クラウディウス』

獲得条件:魔石の喪失から666時間生存すること(魔物限定)

効果:6時間ごとに魔石を体内で製造し、最大3個まで体内に貯蔵できる


・・・流石、称号。

効果もさることながら、獲得条件もぶっ壊れてやがる。

というか、あれだけ苦しかった怨念による攻撃が気にならなくなったのは、『グレゴリー・ラスプーチン』だったのか。ありがとうございます。ラスプーチンさん。

じゃぁ、お次は進化先だな。


『ナイト・ドール』

ランク:D+

パペットマンの特殊進化形態。

防御力に特化している人形。ドラゴンの一撃にも耐える肉体を持つ。

ただし、重い鉱石を纏っている為、敏捷性が低い


『モンク・ドール』

ランク:D+

説明:パペットマンの特殊進化形態。

攻撃力に特化している人形。一撃で相手を叩き潰す腕力を持つ。

ただし、図体が大きい為、小回りが利かない


『ポイズン・ドール』

ランク:D+

説明:パペットマンの特殊進化形態。

すべての攻撃に毒属性を付与させる人形。敏捷性が特化している代わりに、腕力と防御力が低い


『ローズ・ドール』

ランク:D+

説明:パペットマンの特殊進化形態。

体が軟体化している人形。鞭のように手足を伸ばして攻撃することに長けていて、遠距離攻撃を得意としている。ただし、防御力と敏捷性が低い


よし!!

『ナイト・ドール』と『モンク・ドール』は論外だな。

敏捷性や小回りが利かないって、弱すぎでしょ。

やっぱ、敏捷性は大事だよね。

ということは、やはりここは『ポイズン・ドール』一択しょ!!

リーチも捨てがたいけど、やっぱ今の時代スピード命でしょ。

というわけで、『ポイスン・ドール』でお願いします。


『固体名・犬井巧の懇願を確認。固体名・犬井巧がポイズン・ドールに進化します』


俺の肉体が黒い靄に包まれ、パキパキと壊れかけたボディが修復し始め、俺の意識が遠のいたが、俺は生まれ変わる幸福感にワクワクしていた。

これが後に、この異世界を恐怖のどん底に堕とす大魔王の誕生に繋がると知らずに。


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