放浪者-1『家畜になった者』
主人公視点に戻ります。
ツイッターが壊れたけど、頑張りますよ
腕も足も切られ、槍であらゆる場所を貫かれた俺に、魔王が問うた。
「言い残すことはあるか?」
「・・・・ドイツもコイツもくたばれクソ野郎」
その言葉を最後に俺の意識はまるでテレビの電源ケーブルが抜かれたように、プツンとキレた。
俺は死んだのだろうか。
なんだ?これは冷たい。
それに息苦しい。
まるで寝ている間に、冷たいプールに落とされるどっきりにあった気分だ。
これがあの世の冷気という奴なのだろうか?
「・・・・どう・・だ?・・モルモットの・・・よう・・・・は?」
「・・バイタル反応は・・・・も安定・・・・転生・・・可能・で・・・す・・・・」
そんな馬鹿なことを考える俺の耳がくぐもった声が聞こえ、眼を開ける。
この声は?
「・・・おや、目覚めたようだな?ご機嫌用。モルモットくん」
「ゴバっ!?(魔王!?)」
白衣姿の如何にも知的そうな魔族に囲まれた魔王、ディノバルトが其処に居た。
「ゴババ?ゴバ?ゴボボボ?(どういうことだ?コレは?それにこれは何だ?)」
SF漫画などにある怪しい研究所に登場する細長いガラス容器に緑色の怪しい液体と一緒に詰められた四肢のない俺が呼吸器越しに叫ぶ。
「何を言っているか分からないけど、なぜ君が生きているのか?そしてなぜ君がこんなことになっているのか教えてあげよう」
俺は手足の代わりに繋がれた複数のチューブを一瞥してから、魔王を睨む。
「知っての通り、異界人は珍しくそしてこの世界の人間より丈夫な素体だ。いくら中級職のカスでも、そのレア度は変わらない。ならばその素体性能を使って強力な魔物を創ろうと思ったんだよ」
「!!?」
この男は何を言っているんだ?
人を魔物に変えるだと?そんな事でできるわけがない。
人と魔物では肉体構造が根本的に決定的に違うのだから
「言いたいことは分かるよ。魔石を持っていない。それが魔物と人間種の大きな差だ」
そう魔物は人間種と違い2つの重要な器官を体に持っている。
一つは魔石。
そこには魔力と、魔石自身の生命力が存在している。
純度が高く、通常外に出ることは無い魔力が詰まっている。
その純度が高い魔力を、少しずつ体内に行き渡らせる。
もう一つは核と呼ばれる人間種でいう所の心臓だ。
血液や栄養素といったものを全身に巡らせる。
心臓がない代わりに核がその代わりとなる。
この二つは配置こそ違うが、共通することが一つある。
それは、核が破壊されても魔石は単体でも年単位生き続けるということだ。
伝説級や王級クラスの魔物の魔石だと数百年生き続けているものもあるらしい。
そのため、この世界では、電気の代わりに魔石がその役割を担っているのだ。
だが・・・・
「魔石は魔物からしか取れず、人工的に作るのは勿論合成するのも不可能。それが世間の常識だった」
だった?
その違和感に俺は眉を潜めると、ディノバルトが嬉しそうに笑みを零す。
「そう。だが超古代文明『ゼノビア』は人工的に魔石を創ることに成功していたんだ。人間種を魔物に変えることでね。最も弱いその辺の人間種だと、魔物に成れずそのまま絶命してしまんだがな」
その言葉に俺は怖気が奔る。
「だが、この世界の人間より丈夫な異世界人である君なら、きっと魔物になれるはずだ」
この男は俺を仲間にしたいわけでもなければ・・・・
クラスメイトへの人質にしたいわけでもない。
魔物として使役したいわけではない。
コイツは、上質な魔石・・・・・膨大なエネルギー資源を得る為に俺を魔物に変えるつもりなんだ。
そんなのって・・・・
「・・・・さぁ、家畜くん、上質な魔石を生む為に人間を辞めてくれ」
まるで家畜みたいじゃないか。
ディノバルトはそう言って、無慈悲にガラス容器の傍に鎮座されているモノリスのスイッチを入れ、繋がれたチューブから何かの液体が雪崩れ込んできた。
「あ? ――ッ!? アガァ!!!」
突如全身を激しい痛みが襲った。
まるで、錆び付いて切れ味が悪くなった包丁で滅多刺しにされ、出来た傷口に芥子味噌を塗りつけられたような感覚だった。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。
「ぐぅあああっ。――ぐぅううっ!」
俺は呼吸器越しに悲鳴を上げ、それを見てディノバルトは
「ハッピーバースデー♪家畜くん♪」
楽し気に笑いかけた。
だが、そんなことはどうでもいいと思えるほどの耐え難い痛み。俺は容器内で藻掻き苦しむ。
俺の体が痛みに合わせて脈動を始めた。
ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。
至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。
浸かった緑の液体の効果だろうか。
俺の意識がどんな痛みを受けようが、気絶を許さなかった。
俺は呼吸器越しに絶叫を上げ容器内をのたうち回り、頭や体を何度も強化ガラスに打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。いっそ殺してくれと誰ともなしに願ったが当然叶えられるわけもなくひたすら耐えるしかない。
しばらくして、俺の体に変化が現れ始めた。
まず髪が抜け始める。
許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん抜けていく。次いで、筋肉や皮膚、臓器がまるで硫酸にでも溶かされたように溶けていき、奥にある骨が露になる。その代わり、骨がその分、肥大化し始め、なくなった手足が再生し始める。
閑話休題
魔物の肉は人間にとって猛毒である。
過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。
そういえば、転移直後の授業で言っていたな。
魔物は魔石という特殊な体内器官を持つが故に、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮し、その過程で変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているって。
おそらく、魔物にするにあたり、俺の体内・・・・いや骨に変質した魔力が巡っているのだろう。その証拠に、骨の表面に赤黒い線が数本走っているし。
そうこうしているうちに、俺の空になった肋骨内部に心臓ではなく赤黒い結晶・・・・拳サイズの魔石ができ始めるのを俺は、ガラスの反射ごしに確認する。
まるで、アイ〇ズだな。
家畜ではなく、よくあるアンデット化だな。
いや・・・・・違うか。これはどっちかというと。
俺の肋骨が出来た構築された魔石を守るように肥大化し、それに合わせて他の骨も肥大化し始める。
そして・・・・
「アンデット系かとおもったら、ドール系か。しかも『パペットマン』って。D級モンスターか。職業といいツクヅク中途半端な奴だな。君は」
解放された容器内から投げ出され倒れ伏した俺を、ディノバルトは期待外れの結果を出したモルモットを見るかのような眼を向ける。
「ま、でもそれなりの魔石は製造できていたみたいだし、よしとするかな」
そう言って、ディノバルトが俺の肋骨・・・・いやボディである胸部を貫き
「魔石ゲット」
俺の体内で生成された魔石を抜き取る。その瞬間、冷気など感じるはずのない人形の体に途轍もない寒気が奔る。
「魔王様。残った素材はどうしますか?バラして有効活用しますか?」
「いや、D級素材なんかいらないし、蟲毒釜・・・・ゴミ捨て場に捨てときなよ」
「了解しました」
薄れゆく意識の中、俺は、ディノバルトの命令に従う兵士によって担がれ怪しい研究室からつまみ出された。
To be continue