勇者-2『職業と再起』
まだ、回想回は続きますよ。
結局、元の世界に戻る手段が、魔王・・・ひいては虐殺者を討伐することで発現する称号を得ることのみと知った俺たちは、アガルス王国ひいては人類側の戦士として戦争に参加することにした。もっともクラスメイトの何人かは渋っていたが、帰る方法が称号を得るしかないので了承するしかなかった。
「では皆さん。このクリスタルで貴方達の職業を調べたいと思います」
この部屋に俺達を案内した王国お抱えの魔術師であるマーサさんの話によると、部屋の中心に鎮座されているクリスタルに触れる事で、職業……RPGでいうジョブが分かるという。
職業によって、使えるスキルや魔法が違っているらしく、中には職業特有の固有スキルというのも存在するらしい。
そんな事を考えながら大きなクリスタルを見ているとクラスメイトたちが騒めき出す。
「うわ。あると思っていたけど」
「定番だね」
「転移系や転生物の小説では、この結果次第で俺TUEEルートか追放ルートになるんだよな」
「鍛冶師や治癒師だったら、ワンチャン見返せるかもしれないけど、遊び人とか変な職業になった日には最悪だよな」
そう。なろう系の小説では、この選定によってこの異世界における人生が英雄ルートと役立たずルートになるといっても過言ではないだろう。
そんな不安げなクラスメイトたちを安心させるようにマーサさんが笑みを浮かべる。
「・・・遊び人なんて職業は存在しませんし、一部の職業以外なら熟練度が上がれば、ジョブチェンジが可能です」
その言葉に周りがざわつき、緊張気味に犬井が問いかけた。
「ジョブチェンジってことは、外れ職でも熟練度が上がればレアな職業になれるってことですか?」
「レアかどうかは分かりませんが、ジョブチェンジした職業はどれも有用なので、役に立たないということはありませんよ」
その言葉に、俺を含めて何人かがホッと息を吐く。
外れを引いても大丈夫なら、幾分か気が楽だ。
職業によって剣に炎を纏わせたり、魔法陣から召喚獣出したりする事ができるらしい。あまり現実感が沸かないが、そういうことができるというのは心が躍るというものだ。
「では順番に触ってみてください」
俺は一体どんな能力になるんだろうか……そんな思いを抱きながら、俺は自分の順番が来るのを静かに待った。
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そして、現在勇者になった俺は、敗北と虚無感を抱えて敗走する船の・・・甲板の上にいた。
「・・・・どうしてこうなってしまったんだろう」
そんな俺の独り言に対して
「レアだね。君が其処まで意気消沈するなんて、やっぱり初めての敗北はそれなりに答えたようダナ」
一羽のカモメが答える。
「・・・・磯田か。流石に耳が早いな」
「勇者パーティーの情報担当だからナ。これくらいのことができないとクビ決定ダロ♪」
そう言って、カモメ・・・・・正確にはクラスメイトであり、憑依師である磯田姪が羽の付け根を竦ませる。
「で、他の皆はどうしたんダ?」
「他は船内・・・自室で休んでる。やっぱり今回の敗北と敗走は色々堪えたからな」
「・・・・・何人かが敗走中に逸れたってマジなのか?」
本当に耳が早い。流石は勇者パーティの情報担当官。
自分の職業が憑依師・・・・その下位互換であるイタコであることが発覚して早々、戦闘訓練を放棄して情報収集のノウハウを学んでいたことはある。
「あぁ、マジだ」
「ソウカ・・・じゃぁ、どうする?私の方で、探すカ?」
「できるのか?本体はセレスティアの港にいるんだろ」
そう。上位職『憑依師』の固有スキル『憑化』は、レベルの低い生物に自分の意識を乗り移らせる代わりに、活動範囲が決められているらしく、それを超えると、意識が途切れて強制的に意識が本体に戻るらしい。その為、海の向こう側・・・・ヘルシアで逸れた仲間たちを探すのは不可能なハズだ。
閑話休題
因みに、この話を聞いた時、まるで携帯の圏外みたいだなと言ったら、顔面をグーパンで思いっきり殴られた。
「まさか!?ヘルシアに乗り込むつもりじゃないだろうな。上位職とはいえ、最弱のレッサースモールスライムにも負けるくらいお前じゃ一瞬で殺されるぞ」
「失礼な!?レッサースモールスライムならイーブンだわ」
「其処は勝つと言ってくれ。悲しくなる」
そう。磯田は戦闘訓練を10日でやめたため、ステータスが戦闘向きではない上、向こうでも運動神経がなかった。自他共に認める勇者パーティ最弱キャラクターである。
そんな磯田がフンスと嘴から息を吐き、羽先を左右に動かす。無駄に器用な奴だ。
「チッチッ、戦闘筋肉馬鹿のヘタレ勇者と違い、姪ちゃんは日々進化しているのダヨ。チェリーボーイ」
「・・・よし、こんがり焼いてやる」
「嘘嘘!?冗談だって!?」
俺が掌に炎を出すと磯田が慌てる。
全く、このウザさがなければモテるのだろうに、本当に色々残念な奴だ。
「コホン。最近、熟練度が上がってね。姪ちゃんはジョブチェンジして最上位職『憑依神』になったのダヨ」
「・・・マジで進化だな」
「もっと褒めるがいい」
俺は驚きながら、カモメ・・・磯田の頭を撫でる。
「そして『憑依神』の固有スキル『魂分身』は、『憑化』と違い距離制限なんかない上----」
「最大10体の生き物に意識を分割憑依することが」
「できるのダヨ」
「分かったカ」
「チェリー勇者」
「ドヤ」
俺の周りにカモメや鴉、雀、鳩・・・計10体の鳥類が降りてくる。
「素直にすごいな」
クラス最弱の癖に。
「フフン。だから、姪ちゃんは王宮にいながら情報を集めてくるでありますヨ」
10羽の鳥類が敬礼し、俺も敬礼で返す。
「皆は必ず見つけ出すから、お前もしっかりヤレヨ」
磯田のいつになく真剣な言葉に、俺は思わず吹き出す。
本当にコイツ、性格さえ真面なら、文句なしにいい女だったのに。
「世界最弱系残念ヒロインの癖に、余計なお世話だ」
「にゃんダト!?」
「分かった。そっちは任せたぞ。情報屋」
「任せとケ。勇者」
そう言って、磯田たち(?)は羽を広げてヘルシアへと飛び立った。
その背中を見送った俺は、決意を新たに仲間が待つ船内へと歩を進めた。