勇者-1 『逃走劇と回想』
勇者視点からの説明回です。
一応、世界観で説明していますが、此処で再度詳しく説明します。
次は、スキルなどを説明していきます。
クラスメイトであり、これまで一緒に戦ってきた仲間である犬井を見捨てて、魔王城を脱出した後のことは、よく覚えていなかった。
あるのは、一人でも多く生き残ることだけだった。
「クソ!!邪魔だ!どけ!!」
だからだろう。
「此処は、俺たちが殿を務める!!」
「勇者であるお前らは生き残る事だけ考えろ!!」
「っ!?分かりました!行くぞ!!」
魔王城からの追手を振り切る為に、俺たちをサポートしてくれた騎士団を切り捨て
「がっ!?足が!!」
「林!?」
「足が切り落とされている!!奴はもう無理だ!!」
追手の攻撃によって窮地に陥った仲間を切り捨て
「ねぇ、甲斐くんは!?すっかり姿が見えないんだけど!!」
「っ!?乱戦ではぐれたか!仕方ない。今は無事である事を願って逃げるぞ!!」
「は?ちょっと嘘でしょ!!」
「今は、一人でも多く、魔族領を・・・・『ヘルシア』から脱出するべきだ!!」
「じゃぁ、天上院くんたちはそうすれば、私は一人で甲斐くんを探すから!!」
「おい!!井谷!!」
逃走中にはぐれた仲間や自分勝手にパーティを抜けた仲間を切り捨てた。
そんなことを繰り返していたからだろう。
『ヘルシア』に密入国した時に使用した船に乗り込んだ時には、100人以上いた仲間が騎士団合わせて30人程度になっていた。
「クソ!!どうして、こんなことになってしまったんだ!!」
俺は改めて自分たちが負けた事実を実感し、勇者として選ばれたあの日を思い出していた。
浮遊感が消え、俺は床の冷たい感触を肌で感じ目が覚めた。
頭を押えて、もう片方の手を床に置くと、そこは先ほどいた教室ではなく、すべすべとした光沢
「……ん……ここ、何処だよ」
周りを見ると、煌びやかな大広間。
「おお、成功した」
「うまくいったようだな」
目の前には、玉座に腰掛ける壮年の男性と、その周りに佇む数人の老人達がいた。
寝起きでうまく働かない頭をフルスロットで動かして状況の把握に努める。
「あれって、王冠?」
クラスメイトの言葉に、俺は真ん中の玉座らしき場所に座っている男性が、高級そうな西洋風の衣服、それに加え頭には王冠を被っている事に気付く。
加えて、後ろの老人達はRPGでよく見るお付きのような服を着ている。
老人たちから、周りに目を移すと、灰色の鎧に身を包み腰に西洋剣を携えている騎士らしき人物達が横一列に並んでいる。
「美由紀、大丈夫か?」
「うん、なんとか一体ここはどこなの?」
俺は、隣で不安げな表情を浮かべる茶髪のセミロングの美少女-----恋人である瀬之口美由紀の安否を確認する。
どうやら、他の皆も無事なようだ。
俺は、周りのクラスメイト達の様子にホッと息を吐く。
「分からない。でも起きたら周りに変な格好した人が沢山いて……」
「一体、誰なんだろ?この人達」
俺たち全員が目を覚ましたことに気付いたのか、目の前で尊大に座っていた王冠を被った男がこちらを見やった。
威厳と言うのか、眼力と言うのか、なんというか気圧されてしまった。
「全員、目が覚めたようだな」
とても偉い人に見えるが、一体俺たちに何の用があるのだろうか。
他のクラスメイトたちが、ボーっと周りの状況をゆっくりと理解するようにしている中、俺は戸惑っている美由紀を庇いつつ、王冠を被った男に顔を向ける。
「あんたらは、誰だ?」
「貴様!アガルス王国の国王であるハイド様に何と不敬な!!」
王様の背後に控えていた偉そうな男、俺の不遜な物言いに怒りを露にするも、当の王様は気にした様子はなく、お付の人を手で制す。
「よい。いきなりこのような場に呼び出されれば、自ずとそのような言葉も出てこよう。あまり目くじらを立てるな」
「し、しかし――――」
「こちらはお願いする立場なんだ」
「分かりました」
「すまない。私の家臣はどうにも頭が固くてな」
「は、はあ……」
「私の名前はハイド・フォン・アガルス。このアガルス王国の王だ」
アガルス王国。聞いたことがない国だ。
「困惑しているようだが。簡潔に言おう。お主らは勇者とその御付きの者して我がアガルス王国に召喚されたのだ」
「勇者、だって?」
背後でクラスメイトたちが「それって、今はやってる異世界召喚って奴か」騒ぎ出す。
「そう、勇者だ。数年前、不毛な大陸『ヘルシア』に棲む魔人族を束ねて魔王が、我ら人族、エルフ族、獣人族の棲む豊富な大陸『セレスティア』に侵略行為を行い始めたのだ。我らアガルス王国を始めていろんな国の兵士が死の覚悟で戦いに臨んだのにも関わらず、魔王軍の力には到底及ばなかった。このままでは、我ら人族は勿論ながらこの大地に棲む種族がすべて滅ぼされてしまう。……よって我らは最後の手段をとった……それが勇者召喚。異世界から素養のある者をこの世に呼び出す禁忌の術を行う事を決断したのだ」
「素養?」
「誰彼見境なく異世界から人を呼び出すわけにはいかん。そのため魔法陣には素養のあるものを選定し呼び出す術式が施されておる」
「なるほど」
「・・・貴方がたの事情は分かりましたが、僕たちには関係ないですよね」
「それは・・・」
「分かったら、僕たちを元の世界に帰してください」
冷めた表情でクラスメイトーーー金髪の気品のある麗人を彷彿させる美少年こと今村浩二が問いかける。
「私たちも帰りたいけど・・・」
「・・・普通あんなことハッキリ言う?」
「今村グループの一人息子だからって・・・・」
そう。今村は大企業の大型グループの一人息子で、このままいけばそこの会長になれたのだ。今村にとって、こんな訳の分からない事態で約束された未来を潰されたくないのだろう。だが、現実は残酷なもので・・・・
「……帰してやりたいところだが、現状では異世界召喚は一方通行……連れてくることはできるが、帰すことはできないのだ」
「ふざけないで頂きたい!!」
「おい!?落ち着けって」
「離せ!!僕の未来をこんな訳の分からない事態で潰しやがって、絶対に許さんぞ!!貴様ら!!」
王様の返答に、今村がキレ、王様に掴みかかる勢いだったので、慌ててクラスメイトたちが抑え掛かる。
「じゃぁ、俺たちは一生帰れないってことですか?」
王の両隣に佇んでいた兵士らしき人物達の手に腰の剣へと伸びるのを警戒しつつ、俺は遠慮がちに問いかける。
「いや、我々人族を滅ぼそうとしている魔王を討てば、この世界を滅ぼす者を討ったとして称号が手に入るはずだ」
「称号」
「あぁ、その称号は世界を渡る力があると言われている。それを手に入れれば、あるいは・・・・」
「帰れるってことか」
俺の解答に王様が頷く。そして、王様が深く頭を下げた。
「「「陛下!?」」」
「勝手だと理解している。だが、我らも必死なのだ。だから、我らを助けて頂けないだろうか。頼む」
戸惑う臣下たちの様子に犬井が戸惑った表情で問いかける。
「おいおい。あんた仮にも一国の王様だろ。俺達の様な餓鬼に頭を下げていいのかよ」
「王だからこそだ!王の義務は国民を守こと!!そのためになら、頭ぐらいいくらでも下げてやるわ!」
一国の王が唯の学生に頭を下げている。
「元の世界に帰るには、称号を得るしかない。しょうがないか」
「そうだな。この人に怒っても事態も変化しないしな」
その異様な光景の中で、冷静になったクラスメイトたちは諦めたように肩を落とした。
「………先ほどの非礼、誠に申し訳ありませんでした。頭を上げてください王様。僕も、取り乱し過ぎました。……話を、聞かせてください。まずはそれからです」
「……温情感謝する」
王様に頭を下げた今井は、俺たちのほうを見ながら頷いた。
こうして、俺たちは勇者とその仲間として世界を救う・・・・ひいては元の世界に帰る為の称号を得るためにこの戦に身を投じた。