勇者-4 『動き出す情勢』
恋人だった美由紀が裏切りの使徒として、処刑されてから、この俺、天上院夜一の見る世界は色のない世界になってしまった。
そんな世界で、俺は機械的にレベル上げと軍事訓練にいそしむ。
今度こそ魔王を倒し、元の世界へ帰る為に。
そんな生活から、数カ月が経ったその頃
「よう。予想以上にしけた面してんな」
「・・・・お前は」
「久しぶりだな。天上院」
日に焼けた浅黒い肌と勝気な瞳が特徴的な少女—————川口由香が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「・・・西海部を警備していた君が王都に来たと言う事は、彼も来たのかな?」
「正平なら、陛下たちに挨拶してるわ。西部海上守備部隊の隊長だからね」
「そうか」
そこで、一陣の風が吹き、川口が口を開く。
「・・・美由紀が姪と犬井を殺したってマジなの?」
「あぁ、真相を姪から聞きだした椎名を殺害しようとしているところを現行犯で逮捕したし、姪を殺害した証拠も出てきた」
「・・・・そ。残念だわ」
「感傷に浸っている場合ではないことは分かっている。勇者パーティは敗北と裏切りによって、ボロボロになってしまったからね」
「その為の招集でしょ」
「あぁ、すべては元の世界に帰る為だ」
「・・・・元の世界、ね」
川口がどうでもよさそうに呟く。
「正直、私もう帰りたいと思ってないのよね」
「な!?」
その衝撃的な告白に俺は、呆然とする中、川口は肩を竦める。
「当然でしょ。あたしたちがこの世界へ転移してきて、1年経ったんだよ。高校2年生の夏~3年生の夏の空白期間は遥かに大きい。正直、勉強にかなりの遅れが生じてる」
「それは・・・・」
「遅れだけならまだいい。でも、考えたことない?1年以上行方知れずになっていた私たちの居場所がもうないかもしれないと言う事に」
「っ!?」
「私だけじゃない。逆にアンタみたいに向こうの世界へ帰りたいと思っている人は、もうかなり少ないわよ。だからこそ、何人かは死ぬ危険がある勇者パーティを抜けこの世界で生きることを決めたんだよ」
その言葉に、魔王軍に寝返った甲斐と堀、そして転移して数カ月後、城から姿を消した数人のクラスメイトの顔が脳裏に浮かぶ。
「・・・そ、それでも俺は――――」
「アンタが帰還の為に力を尽くすのは自由だから、止めないけど。今回の敗北と裏切り行為によって、その考えを抱く人が多くなることは覚えておきなさい」
「そ、そんな」
告げられた事実に俺は、絶望感に囚われ、そんな俺に追い打ちを駆ける様に一人の兵士が駆け込んできた。
「天上院様!川口様!各地に点在していた神の使徒が全員集結しました!!」
「だそうよ。精々頑張りなさい。勇者様」
川口は、そう言って俺の背中を叩いた。
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勇者パーティがいる人類側が再起を図る為に行動したように、魔王城があるヘルシア大陸中部でも動きがあった。
「時が満ちた!!人類の希望だった勇者パーティが敗北しただけでなく、裏切り者と犠牲者を出した。それを知った人類側は、今は不安と恐怖の渦に飲まれ、準備が整った今が好機だ!!」
ヱントラスから身を乗り出した魔王ディノバルトが身を乗り出し、眼下の・・・・数万の兵士と魔獣たち、そして機械兵共に演説する。
「知らしめてやろう!我らの強さを!!」
数万の魔王軍がそれに同意するように雄たけびを上げる。
「我が物顔で、豊富な大陸『セレスティア』を支配する愚かな人類共に!身の程を教えてやれ!!」
ディノバルトが大きく息を吸い、叫ぶ。
「雄たけびを上げろ!魔族に繁栄を!」
ディノバルトがそう叫び、後ろに控えていた甲斐と堀が酷薄な笑みを浮かべた。
「さぁ!進軍だ!!」
ディノバルトの開戦の言葉に、魔王軍のボルテージが最高潮になったその時
ドォっ、ン!!
という聞きなれない破裂音が辺り一帯に響き渡ると同時に、先程迄演説をしていた魔王の頭蓋が破裂する。
突然の魔王の死に唖然とする。
「い、一体何が・・・」
勇者パーティ圧倒した歴代魔王、ディノバルトの突然の死に唖然とする甲斐の右腕が突然弾け飛ぶ。
「う、腕が――――!!俺の腕が!!」
隣にいたクラスメイトが千切れ飛んだ腕を押さえながら蹲る。
魔王が殺された時にも聞いた破裂音と壁についた銃痕と破壊された壁に堀が、呆然とする。
「・・・この威力。まさかライフルからの狙撃」
この世界には存在しない銃による攻撃に唖然とする堀は、腕を押さえて苦しむ甲斐の襟首をつかんで急いで室内に引っ込む。
「一体、どうなっているのよ?」
堀が物陰から弾丸が飛んできたであろう方向を見ると、空中に何かが浮いていることに気が付く。
「あれは?」
この世界にあるはずがない対物ライフルーーーーーバレットM82のスコープを覗く美少年がニヤリと笑みを浮かべる。
「・・・・人間?いや魔物か?」
ロボットアニメに出て来るような機械的な翼を生やした少年が引き金を引く。
堀が咄嗟に身を隠した瞬間、銃弾が撃ち込まれる。
「・・・一体、何が起こってやがる!!」
「残念だけど、貴方達の快進撃いいえ、前座はコレで終わりよ!!」
悪態を付く甲斐の問いかけに、堀ではない人物が答える。
「え!?」
室内に突然現れた第三者が甲斐の首を手に持った長刀で斬り飛ばす。
魔王に続いて、クラスメイトの死に呆然とする堀。
その背後で爆発音と悲鳴が響き渡る。
「巧を待たせるのもあれだから、とっと終わらせるわよ」
甲斐を殺した人物が煩わし気に、フードを脱ぐ。
月明かりになって露になった顔に、堀は呆然とした表情を浮かべる。
「・・・アンタは――――」
髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、目つきが違う。
でも、堀は本能的に、この女の正体が分かった。
「久しぶり。魔王軍に敗走して以来だったわよね」
「瀬之口!?アンタ、人類側で処刑されたはずじゃ」
美由紀が以前では考えられない酷薄な笑みを浮かべる。
「宣告した通り、帰ってきたのよ。貴方たちに天誅を下す為に」
そう言って、美由紀が手に持った長刀を構える。
「ま、待って!こ、これには理由が――――」
「言い訳は入らないわ。知ってるでしょ。私、人を待たせるのって嫌いなのよね」
そう言って、美由紀はかつて共に戦った戦友でありクラスメイトでもある堀の頭蓋に長刀を何のためらいもなく振り下ろした。
なぜ、巧と美由紀が組むことになったのか、次回以降でゆっくり説明します。




