復讐者-6 『真祖』
はい。続きです。
ぴちょん……ぴちょん……
口の中に流れ込んでくる鉄のような匂いに、私の意識が覚醒していくのを感じた。
そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。
……私、生きてる?
疑問に思いながらグッと体を起こそうとするが、下半身がないのでブヨブヨした赫肉の地面と黄色のぐつぐつした液体の中に落ちてしまう。
「・・・・右腕と下半身を切り落とされた上で喰われたはずなのに、どうして・・・・」
その答えは目の前の鳥の死骸が原因にあった。
「・・・・あれは私を攫おうとした不死鳥の・・・・」
なるほど。どうやら私は、波潤が発見する前に食べ、完全消化する前に不死鳥の血を胃酸と一緒に飲んだのだろう。
そのおかげというべきか、私は命を取り留めたのだろう。
だが、それも時間の問題だ。
体が胃酸によって溶かされていく痛みと下半身と右腕を失ったことでやってくる幻肢痛が恐怖になって私に襲い掛かる。
「い、いや。いやーーーー!!」
私の体が生き残るべく本能的に行動に移す。
「・・・死にたく・・ない・・」
私は左腕と上半身を捩って、消滅前の不死鳥の死骸へと近づき
「・・・私は必ず生き残ってやる」
野生児のようにその肉に齧りつく。
胃酸によって所々溶けた生肉、当然のように不味い。
「残飯以下・・・ゲロを食べている気分だ」
人として大切な何かが失ったような感覚を感ずるが、四の五の言ってられない。
「私は生きるんだ」
私は溶けきる前に不死鳥の生肉を齧り取る。
☆--------------------------☆
体が胃酸によって溶かされる。
不死鳥の血肉を食べる。
体が修復する。
そしてまた胃酸によって体が溶かされる。
着ていた衣服がすべて溶かされるが、元々ボロボロだったうえ、この腹の中で生きているのは私だけだったので、羞恥心はなかった。
あるのは、死にたくないという生物として当たり前の欲だけだった。
そして、そんな行動が身を結んだのか。
不死鳥を食べ切った頃には、私の体が胃酸によって溶けなくなっていた。
酸に対する耐性がついたのだろうか。
それとも不死鳥を食べた効果なのだろうか。
あるいは両方か。
でも、私にはそんなことは、どうでもよかった。
「九死に一生とはこのことでしょうね」
そんな言葉を呟く。天井から夥しい生肉が堕ちてくる。
その生肉が胃酸によって溶かされる。
その様子を見ていた私は、復讐方法を思い付き、自然と笑みを浮かべる。
「・・・私を食べた事を後悔させてやる」
私は胃液に溶かされる前に、血肉に被りつく。
その手法は、波潤が食べた肉を私がすべて食べ尽くすことで起こす餓死。
化物の吐瀉物を食べる寄生虫みたいで、嫌気がさすが、弱者が強者を殺すのに残された手はコレしかなかった。
「どうせ私には、もう何も残ってないんだ。尊厳なんてくれてやる」
☆--------------------☆
あれからどれくらいたったのだろうか?
波潤が食した獲物の血肉を私は寄生虫のように食べ尽くす。
腹が一杯だろうが、不味かろうがひたすら食べ尽くす。
排泄器官がないから満腹になると、食べた物が口から吐瀉物となって吐いてしまう。
だけど、それでも私は胃に送り込まれた肉の一欠片も残さず食べ尽くす。
すべては、波潤を殺す為に。
生き残る為ではなく、強者を殺す為に獲物を食べていた私の脳内にアナウンスが雪崩れ込む。
『666時間以上、魔物の中で生存しました。固体名・瀬之口美由紀は称号『ファラリス』を獲得しました』
『1万体以上の魔物の血肉を食しました。固体名・瀬之口美由紀は称号『エリザベート・バートリ』を獲得しました』
『ステータス差が10倍以上の魔物から1万体以上の食料を奪取しました。固体名・瀬之口美由紀は称号『アン・ボビー』を獲得しました』
『称号『アン・ボニー』を獲得しました。固体名・瀬之口美由紀は称号『メアリ・リード』を獲得しました』
称号?
称号って、あの・・・・。
あれって、一般的に出回っているスキルと違い、取得方法が不明とされているんじゃなかったけ?
そんな戸惑いを無視して、アナウンスが続く。
『固体名・瀬之口美由紀の欠損部位を確認。称号『ファラリス』の効果を発動して、失った下半身と右腕を超速再生させますか?』
「な、なんてピンポイントな問いかけ」
突然の事に驚く私。
もう二度と戻らないと思っていた肉体の修復。
勿論、YES!!
断る理由などなかった。
その返答に答えるように私の背中から赤黒い炎を纏った牡牛の頭部が複数現れ、波潤の血肉に食らいつき、齧り始める。
胃の中をいきなり喰われたせいか、私の体が横の肉壁に倒れ、波潤が激痛の声を上げる。
そんな声をBGMにして、私の失った部位が赤黒い炎に包まれ、メキメキと音を立てながら再生し始める。
「おお」
閑話休題
称号『ファラリス』
獲得条件:666時間以上、魔物の中で生存すること
効果:背中から生やした炎の牡牛に血肉を喰わせることで、自身の欠損部位を超速再生する
失った手足が戻ったことに思わず歓喜の声を漏らす私の脳内にアナウンスが続く。
『称号『エリザベート・バートリ』を得たことで、固体名・瀬之口美由紀は『トルー・ヴァンパイア』に進化できるようになりました。進化しますか?』
ヴァンパイア。
魔人族の亜種で生物の血肉しか食べない種族。
人並みの知性を持ち飛び抜けた身体能力と魔法演算能力を持っていたが、その性格は凶悪かつ残忍で、自分たち以外の種族には攻撃的だったため、全種族から嫌われていた。
200年ほど前に魔王『ディノバルト』が復活させた兵器によって滅ぼされた。
そんな曰くつきの種族に進化しますか?という問いかけ。
冥界に来る前なら、断っていただろう。
しかし、今の私は失うものが何もない。
生き残れるなら、なんだってしてやる。
私は迷わずYESと答える。
私の体がメキメキと音を立てる。
肉体を人間種から吸血鬼へと変えているのが分かる。
『固体名・瀬之口美由紀の『トルー・ヴァンパイア』の進化が完了しました』
胃液と血肉に塗れた肉体を見下ろす。
見た所、別段変わったところはない。
でも、強くなったことは分かる。
私は長い間使っていた胃液と、食い散らかされて漏れ出た血を一瞥し、腕を掲げる。
本能的に言葉を発する。
「走れ!!」
その言葉に従うように、胃酸と血液が無数の槍となって、波潤の腹に突き刺さる。
波潤がもだえ苦しむ。
閑話休題
称号『エリザベート・バートリ』
獲得条件:1万体以上の魔物の血肉を食すること
効果:目で視認した液体を自在に遠隔操作する。
間髪入れずに、波潤の巨大な腕らしきものが肉壁を突き破って現れる。
私はその突きを片腕で受け止める。
閑話休題
称号『アン・ボビー』
獲得条件:ステータス差が10倍以上の魔物から1万体以上の食料を奪取すること
効果:体力を半分消費する代わりに、平均物理攻撃力を1分間だけ上限である9999万にカンストさせる。
私は爆上がりした筋力に物を言わせて受け止めた波潤の腕に被りつく。
「い、痛い!!!!」
波潤が苦痛を上げて腕を引っこ抜こうとしたので、私はそれに従って外に出る。
懐かしの赤黒い空が私を迎え、苦痛の表情で顔を歪める波潤の前に私は着地する。
そして、口元に付着した血肉を乱暴に拭い
「・・・・・胃液もそうだけど、指もまずいわ。子供の頃食べた石鹸よりも酷い味だわ」
挑発じみた笑みを浮かべた。
コメントと高評価をくれると嬉しいです。




