復讐者-4 『冥界の住人たち』
ブックマーク登録者が増えていて、嬉しく思います。
ほそぼそと地道に頑張ります!!
目を開く。
目に映ったのは、赤黒い大地と空。
るで赤い血で出来たようだ。
そこに、血風が吹き荒れ、赤黒い空から常に雷鳴が轟く。
私————瀬之口美由紀は身体を起こして、キョロキョロと当たりを見渡す。
「ここが冥界・・・・地獄とも呼ばれるだけはあるわね」
ん?
何かあるぞ?
立ち上がって近寄る。
「――ぅッ!?これって・・・」
人骨?
「げっ」
しかも白骨化された遺体はほぼ半分しかなかった。
残り半分はどこにいったの?
そこで、私は息を呑む。
真っ二つに、されていた。
誰に・・・
「…………」
決まっている。
ここは冥界。
だったら――――
「・・・・悪魔や怪物なら、人を殺すことくらい簡単よね」
バクバクと鼓動を立てる心臓を落ち着かせ、私は息を整える。
ここは、裏切り者を処刑する冥界。
寝惚けていた意識がハッキリしてきたせいなのかしら。
こめかみのあたりがドクドクと脈打ち始める。
単純に考えれば、瀬之口美由紀は、死ぬ。
アイツ等にタンカを切ったはいいけど、あの世界への生還は難しいだろう。
尋常ではない汗が噴き出し始める。
何しろ腰に帯刀していた愛刀は、没収されたので、今の私は丸腰だ。
「ただでさえ危機的状況なのに、武器がないなんて最悪すぎるでしょ」
刀。せめて剣が欲しい。
そんなことを切に願う私の前にある人骨の表面が突然緑色に染まる。
頭蓋骨が、何かの光を反射している……?
「――――――――」
いる。
私の、
背後に、
何か、
いる。
私は振り返らずに咄嗟に左に避ける。
するとさっきまで私が避けたことで遺体の髑髏が緑色の光線に貫かれる。
緑色の光を放った何かが私を嘲笑った。
「ぎゃぎゃ……今のを避けるか?久々にイキがいいのが堕ちてきたな」
嗅覚が可笑しくなりそうな獣臭。
下卑た声。
蟲のような悍ましい視線。
振り返りたくなかったが、逃げるにしても戦うにしても敵を見ないのは自殺行為に等しい。
私は深く深呼吸して、振り返ると一つ目のサイクロプスが緑目から煙を立てながら笑みを浮かべていた。
「よう。冥界へようこそ。人間」
目は緑色。
筋肉質な緑色の身体。
首には人骨でできた悪趣味なネックレス。
腰には何かの獣から剥ぎ取って作った黒い腰布。
手には大木を噛み千切って作ったような粗悪で巨大な棍棒。
スキル『生命眼』を持たない私でも分かる。
コイツは今まで出会った奴らよりも圧倒的に強い。
とても一人で倒せる敵じゃない。
ましてや、今の丸腰状態の私では話にならない。
「そして、頂きますって、奴だ♡」
じゅるりと涎を流しながら、サイクロプスが棍棒を振り下ろし私は、慌てて避ける。
だが、風圧に吹き飛ばされた私は、ゴツゴツした岩場に背中を打ち付ける。
「・・かはっ!?」
直撃でもないのに、なんてパワーだ。
肺に溜まった空気が一気に吐き出してしまう。
圧倒的な力の差に倒れる私に手を伸ばすサイクロプス。
その手を遮るように、サイクロプスの背中を誰かが斬り付ける。
「ごばっ!?」
「おいおい。折角のご馳走を何一人で喰おうとしてやがる!」
牛の頭部を持つ人型の魔物————ギリシア神話に登場するミノタウロスが手に持った刃こぼれの激しい巨斧を振り下ろしていた。
目は琥珀色。
筋肉質な黒色の身体。
腰には何かの獣から剥ぎ取って作った黒い腰布。
手には、血のりや衝撃で錆びて欠けてしまった粗悪な巨斧。
「先に見つけたのは、俺さまだ!引っ込んでろ!!」
サイクロプスが斬り付けられた背中の痛みを無視して、背後にいたミノタウロスを睨み付ける。
「こんな美味しそうな匂いを漂わせて、我慢できるわけねーだろーがい!!」
ミノタウロスが巨斧を振り回し、サイクロプスが棍棒でそれを受け止める。
餌である私を取り合って争う怪物たちを前に、私は痛がる体を叱咤して立ち上がる。
チャンスだ。今はとにかく此処から逃げなければ・・・・
そんな私の腰が何かに捕まれる。
「もーらーい!!」
突然の浮遊感に襲われた私の耳に、チャラついた声が届く。
「おい。兄貴!!俺らにも喰わせろよ!!」
「黙れ!俺が見つけたんだ!」
「いいじゃねーか!!目玉でもいいから分けてくれよ!!」
「なんで一番うまい所なんだよ!!」
私を掴んだ炎を纏った怪鳥———不死鳥が同じ種である不死鳥と言い争う。
朱色の瞳。
炎を纏った巨大な体。
孔雀のように長くて装飾が施されたような綺麗な尾羽。
「あ!?この馬鹿鳥が!!」
「俺の肉を返せ!!」
サイクロプスとミノタウロスが投げた棍棒と斧が2匹の不死鳥――――その心臓部を貫き、私の体は固い地面に叩きつけられる。
受け身が不十分だったのか、地面が固すぎたのか。
私の両足に激痛が走り、私はその場に倒れ伏す。
「肉!!」
「逃がさねーぞ!!」
ドシン!ドシン!と粗悪で巨大な足音が響く中、私はもう逃げられないと悟り、その辺の赤石を拾いあげる。
こんなものでどうにかなるとは思わないが、私にも意地がある。
「石を詰まらせて死ね!化け物共」
倒れ伏す私に喜色の笑みを浮かべるサイクロプスとミノタウロス。
そして、私に近づこうとしたその時、2匹が足を止めて顔を青ざめる。
「な、なんで・・・・」
「さ、最悪だ」
私という餌を取り合っていた圧倒的な力を持つ二体の怪物が、ホラー映画で怖がる子供のように怯え始める。
端からみたら、滑稽を通り越して可愛く見えるだろうが。
他人事ではない。
何しろ、私も背後から放たれる圧倒的な威圧に恐怖していたのだから。
「はぁっ――はぁっ! はぁっ……はぁっ――っ!」
恐怖で呼吸が乱れ始め、ゾワゾワした感覚が全身を駆け抜ける。
細胞すべてが怯えている。
歯の根が噛み合わず
ガチガチ、
ガチガチ……
小刻みに、鳴っている。
わかる。
わかった。
わかって、しまった。
これは、圧倒的な強者に対する恐怖だということを。




