復讐者-2 『嵌められた戦乙女』
新年、1発目にしてはかなり重い内容になっていますが、必要なことなので仕方ないと割り切ってください。
裏切り者である椎名の居場所を把握した私-----瀬之口美由紀は人が賑わう城下町を疾走し、ついに目的の人物である背中を見つける。
「椎名!?」
買い食いでもしていたのか、その小脇には焼き鳥の串が大量に入った袋があった。
とてもクラスメイト・・・親友を殺した裏切り者には見えない。
「瀬之口?何だよ。急にそんな血相を変えて。あ、焼き鳥喰うか?うまいぞ」
椎名は戸惑った表情を浮かべながら、香ばしい匂いを放つ数本の焼き鳥を差し出す。
普段なら、「ありがとう」と言ってそれを受け取るのだけど、仲間を殺したことが判明した今では、私にはおちょくってるようにしか見えない。
その行動に怒りが沸き、私は差し伸べられた串を腕で乱暴に弾き飛ばす。
串が人込みの中に落ち、私の怒りに歪んだ表情に、椎名だけでなく、周りの通行人たちも戸惑いを浮かべる。
「ありゃりゃ、勿体ねーな。何、ダイエット中?」
「大人しく付いてきて来る」
「此処では話せないことなのか?」
「えぇ、お互いにとってもね」
「穏やかじゃねーな。・・・もしかして―――――」
椎名は肩を竦めて、私に近づき――――
「犬井を固有スキル『傀儡掌』で置き去りにした件についてか?」
「な!?」
突然の自白に私は呆気に取られる。
その一瞬の隙を突くように、椎名の懐から一本のナイフを引き抜く。
ナイフが私と椎名の間で強烈な光を放つ。
「まさか、爆裂剣!?」
魔剣『爆裂剣』
ランク:Aランク
剣の形状をしているが、使い捨ての希少な魔道具。
魔力を込めることで、剣聖などの剣士系統上位スキル『爆裂』を使うことができる。ただし、普通の『爆裂』と違い、前方ではなく周囲一帯に爆発を起こすことから遠距離の投擲武器として用いられている。
そんな武器をこんな至近距離で使うなんて、私はスキル『縮地』を使って、咄嗟に飛びのく。
間一髪で躱した私と違い、『爆裂』で起こった爆発が椎名と居合わせた通行人たちに飲み込む。
「何の騒ぎだ!!」
肉が焦げたような異臭と悲鳴が当たりに響き渡る中、後方から人込みを分けて兵士たちが現れる。
通行人を巻き込んだ突然の戦闘騒ぎを聞き付けたのか?
いや、それにしては対応が早すぎる。
まさか姪が応援として手配してくれたのだろうか?
そんな推測を抱く私に、兵士たちを率いていた隊長格である兵士が声を掛ける。
「どうやら遅かったようだな」
「はい。ですが、腐っても勇者パーティー。この程度でやられる球ではありません。捕獲をお願いします」
「そうだな」
その言葉に、兵士が私の言葉に同意し、懐から取り出した手錠を嵌めた。
「・・・・・え」
片腕が焼けただれ苦しむ椎名の腕ではなく、私の両腕に。
「・・な、何を」
戸惑う私に兵士が冷たい視線を向けながら
「裏切りの剣聖、瀬之口美由紀。勇者パーティーである犬井巧ならび磯田姪、殺人の容疑で貴女を逮捕します」
冷たく言い放った。
「は!?何を言って―――」
私が裏切り者?
何を言ってるの?
裏切り者は――――
「椎名殿、大丈夫ですか?」
「は、はい。間一髪助かりました」
「待っててください。応急処置ですがスグに傷を癒します」
「俺は大丈夫です。それより、巻き込まれた皆さんの治療を優先的にお願いします」
治癒師からの治療を拒み、通行人の治療を懇願する椎名の姿に、私はある事実に気付く。
「椎名。貴方————」
そこで椎名と目が合う。
椎名がほくそ笑む。
兵士を読んだのは、萌ではなく目の前にいるコイツだと言う事に。
「お前——!!」
その事実に私は衝動的に叫ぶ。
だが―――
「暴れるな!!」
「おい!大人しくしろ!!」
「離しなさい!!」
多勢に無勢。
魔封じの効果が付与された手錠で拘束された私は、あえなく取り押さえられる。
結局、『裏切り者』のレッテルを張られた私は、ほくそ笑む本当の裏切り者の眼前で、王城に連行された。
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