復讐者-1 『地獄の釜は敵陣だけでなく、自陣でも開くものである』
女主人公と書いているのに、女主人公でないじゃないですか!?
というコメントがあったので、そろそろかな?と思い、投稿しました♪
王城の薄暗い一室で、私、瀬之口美由紀はシングルチェアーに深く座り込む少女と向かい合っていた。
「・・・・極秘に依頼していた件は、どうだった?」
この部屋の主にして、魔王城に忍び込んでいた磯田姪こと姪から、一枚のリトマス紙のようなものを受け取る。
「あぁ、ミーちゃんの推察通りだったヨ。魔王城で押収されていた犬井の衣服に強い闇属性・・・・精神系魔法またはスキルを受けた痕跡があったヨ」
「ってことは、やっぱり―――――」
「魔王が『勇気ある者よ。その闘志に対する褒美として余自ら直接殺してやろう(笑)』みたいなキャラでもない限り、そういうことだろうネ」
姪からの報告では、犬井くんは魔物にされた後、魔石を抜き取られて死んだと言っていた。
「精神系魔法やスキルで捕獲したという線はないのかしら?」
「オレもそう思って実験レポートで確認したけど、犬井は物理的に捕獲されたようだゼ」
「実験レポート?」
不穏な単語に私が聞き返すと、姪も不快感を顔に出しながら答える。
「あぁ、人を魔物にするデータが貴重だったのカ。素体の捕獲までの経緯がレポートに記載されていたヨ」
「そう」
人を人と認識していない魔王の所業に吐き気を催すのをグッと堪える私に、姪は報告を続ける。
「でも、そのレポートが今回は非常に役に立ったヨ」
「どういうこと?」
「レポートにも続きが書いていたんだよ。『素体、犬井巧は既に闇魔法系統職業『傀儡王』のスキルによって精神ダメージを受けている可能性あり。実験による負荷を考慮して精神が回復する為、捕獲から2日のインターバルを開けることとする』ってネ」
「ってことは!?」
「そう。僕たちの推測とも一致していル。椎名輝幸はれっきとした裏切り者だね。しかも、親友を直接ではなくても間接的に手に掛けていル。このまま、放っておいたら何をしてくるか分からないヨ」
私は相棒である魔剣を手に取り、立ち上がる。
「・・・・何をする気だい?」
「これ以上、被害が広がる前に椎名を秘密裏に捕獲する。姪は王様と夜一にこのことを極秘裏に伝えてちょうだい!!」
「極秘裏・・・・やっぱり、大体的に伝えるのはまずいよネ」
姪がめんどくさそうに溜息を零す。
そう。魔王城での敗北・・・そのニュースは、この王都だけでなく『セレスティア』全土にまで広がり、一部では『勇者パーティ―といっても子供に任せて大丈夫なのか?』、『勇者では駄目だ。攻め込まれる前に魔王軍に寝返った方がいいのではないのか?』という声が上がっているらしい。もし、これで『勇者パーティに仲間殺しの裏切り者がいる』と広まれば大変な事になる。
勇者パーティ存続の為にも・・・・いいえ、夜一の名誉の為にも私が解決しなきゃ。
「一人で捕獲するつもりカヨ。夜一と言った方がよくネ」
決意を新たに私がドアノブを握ると、姪が問いかける。
私は思わず、甲斐たちが裏切ったと聞き、涙を堪える彼氏の横顔を思い浮かべる。
「あのお人よしじゃ足手まといだよ。だから、コレは私の仕事だよ」
それに対し、私は肩を竦めて部屋を後にした。
「健気だネ~。同性なのにキュンキュンしちゃったヨ」
部屋を後にしたミーちゃんを見送ったオレは、お気に入りのシングルソファの上で大きく伸びをする。
「さ~てト。それじゃぁ、おねえちゃんは、このことを王ちゃんにちゃっちゃと伝えに行こうカナ」
席から立ち上がった瞬間、胸に激痛が走った。
「え・・・・」
オレは自分の胸から生えた血まみれの小太刀に唖然とする。
「残念だけど・・・・君がコレから行くのは王様のいるところではなくて、犬井がいるあの世だよ」
「お、お前・・・な、んで」
オレの心臓を背後から刺し殺した人物の口元が三日月形に歪む。
「漫画でもよく合るだろ。『知り過ぎたわね。情報担当官さん』♪」
「・・・・・あぁ、『黒幕の正体を序盤で気付いた奴は死ぬ』って奴ね。・・・テンプ・・・レだね・・・・」
「君を殺した罪は全部瀬戸口に被ってもらうから、安心して死ねよ」
その言葉に私は思わず皮肉気な笑みを浮かべると、ソイツは眉を潜める。
「・・・・何が可笑しい?」
「・・・・テンプ・・レ大好き・なお前に良い言葉を送ってや・るよ。『黒幕儀どりの三下キャラは虫けらのような悲惨な死を迎えるんだよ』」
「・・・その三下キャラに現在進行形で殺されている君が言っても説得力がないんだけど」
オレの胸から小太刀が抜き取られ、冷たい床にオレの体が叩きつけられる。
自分の血によってできた血だまりに自身の体が浸かる。
体に力が入らない。
「・・・・クソ。ゲーム・オーバーかヨ」
ゴメンよ。ミーちゃん。
後は任せたぜ。
「世話のやける契約者だよね。私がいなかったら、完全に詰んでたじゃん」
私は瀬戸口の部屋から盗み出していたスペア用の小太刀をその辺に投げ捨てる。
「にしてもスキル『カメレオン』。自分でいうのも何だけど、チートすぎるよね」
スキル『カメレオン』
効果は姿だけでなく、匂いや気配といった自身から発せられるものすべてを周囲の風景に同化させる上に、発動時間に制限がないという俗に言うぶっ壊れスキルという奴だった。
私はこのスキルが発現したその日、何かに使えると思い、勇者パーティはおろか友人にも秘密にしていた。
「姪。君が勇者パーティ、イチの情報通なら、僕はさながら勇者パーティ、イチの秘密主義者なのかな」
僕の問いかけに息絶えた姪は何も答えず、血だまりの中で虚ろな目を浮かべていた。
「安心しなよ。スグに君の友達の瀬之口も送ったあげるよ。仲間殺しの裏切り者としてね」
僕は彼女の耳元にそう囁いた後、瀬之口の犯行に見せかけるべく後処理を始めた。
物語を加速させるべく、メインキャラである一人を早速殺害し、これで女主人公フラグが立ちました♪
2022年、最後の投稿に間に合いました♪
来年は、もっと人気が出るように頑張りますよ♪
それでは、よいお年を♪