危険運転致死傷罪は何が問題なのか
前から考えていたことですが、ランキングにあるエッセイを拝読して、書いてみました。
飲酒運転で暴走し事故を起こして、その後、救護義務を放棄して逃走した事件が発端となり、2001年に制定されたのがタイトルにある「危険運転致死傷罪(以下危険致死傷と略)」なんだけれど、この危険致死傷は多く被害遺族や関係者に失望される現状があります。
一体どんな問題があるんでしょうか。
1 明確性の原則に反している
この点がこの危険致死傷の最大の問題ですね。
「明確性の原則」をまずは簡単に説明しますが、刑罰というのは罪にたいして罰を与えるために「人権」を損なう行為を要求することになります。である以上は「法の下の平等」を担保するためにも、罪の構成要件は明確でなければいけません。これが「明確性の原則」です。
さて、危険致死傷なんですが、6つほどの要件があります。
(1)飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難な場合
(2)制御不能なスピードで運転する行為
(3)無免許など運転技術が未熟な場合の運転行為
(4)妨害するような運転行為
(5)信号を無視する運転行為
(6)通行禁止の道路を走行する行為
上記の要件を見ると、明確な基準にも思えるかもしれませんが、実際にはかなり曖昧ですね。
例えば飲酒運転なら呼気中のアルコール濃度や直前の飲酒量などで判断出来ると思いますが、1番目の要件は「飲酒や薬物の影響で正常な運転が困難な場合」なんです。
2011年に名古屋で起きた死亡轢き逃げ事件では、被告となった外国籍の男性の事件当時の状況はこうです。
母国でも運転免許を取得せず、日本でも無免許でありながら、車検切れの元妻名義の車を数年間乗り回していた。
事件当日は友人とディスコにてテキーラをショットグラスで6杯、生ビールを中ジョッキ3杯ほど飲み、その後、車を運転して別の店に移動中だった。
轢き逃げ前に信号で停車中の車にぶつかり、逃げている最中であった。
轢き逃げ後は救護義務を放棄、民家の塀にぶつけてタイヤをバーストさせながらも逃走し続けて1時間以上あとに警察に確保される。
もう、何て言っていいのかわからない、危険かつ身勝手な暴走行為のオンパレードなんですが、この犯人は「過失運転致死傷」で起訴され、同罪では最も重い懲役7年の実刑判決が出ています。
そう、危険致死傷では起訴されなかったんです。
危険致死傷なら最大20年(加重ありで30年)の求刑が出来たのにです。
当時の検察のコメントは酷いものです。
「車を降りて真っ直ぐ歩けたので飲酒の影響は認められない」
「事故を起こすまでは問題なく走行していたので危険な運転とは言えない」
「無免許でも、数年間の運転経験があれば危険とは言えない」
もはや、何としても危険致死傷を回避したいとしか思えないんですが、ですが反対にこれらは検察のモラルのズレの問題だけでなく、法そのものの欠陥なんですよね。
先に書いたように明確に「飲酒運転」「ながら運転」「法定速度を○○越えて走行」「逆走」「無免許運転」「無車検車」などの明確な基準を設けていればいいんですよ。
飲酒運転ならば、飲酒検問同様の基準にすればいいんです。それを「影響で」なんて余計な文言をつけるから、現場の裁量でねじ曲げられる余地ができてしまう。
そもそも「なにを持って危険な運転とするか」は非常に難しい判断を要求されるはずです。裁判官や検事に判断する基準を明確に示さなければ、「該当していない」と事なかれになることは予想に難くないでしょう。
2 検察、裁判官ともに消極的
これは、上記した「明確性の原則」が担保されていないことで、反対に「危険運転致死傷」で起訴しても、それを立証出来ないと考えていることが原因ですよね。
名古屋の例は極端な気もしますが、実際に「上級国民」で話題となった事故、法定速度の2倍や3倍で運転していた事故、脱法ハーブのようなものを使用して高速走行して事故を起こした案件など、普通に考えて「危険」だと思われる事故が「過失運転致死傷」として起訴されている。
危険運転致死傷罪は暴走行為による重大な事故の抑止力として、また被害遺族などの報復感情を鑑みて制定された筈ですから、こうした運用は本来の目的を果たせているとは言い難いですし、何よりも司法に携わる方たち自身が、法を否定してしまっていることに問題がありますよね。
法定速度を何倍も越えて走行しても「危険」ではない、「飲酒運転」しても立って真っ直ぐ歩けるなら「危険」ではない。「逆走」も間違えただけ。
こんな事を言い出したら、法なんていりませんし、行政による検問において「シートベルトして無くても危険なんて無いだろ」「一旦停止しなくても事故が起きなきゃ問題無いだろ」が罷り通ることになりますよ。
何にでも適用出来るような曖昧模糊とした要件なので、慎重になることは素晴らしいんですが、余りにも「普通に考えて暴走行為」というのが、「危険とは言えない」と突っぱねられているのを見るのは、些か釈然としないものです。
さて、問題点を書いていきましたが、改善する点はもう明白です。
構成要件をきっちりと定めて、危険致死傷と過失致死傷とのラインをはっきりさせることにつきます。
ある程度のファジーさで情状酌量の余地などを持たせることは必要かも知れませんが、ここまで運用する中で、明らかに問題があるのを放置すべきではないと思います。
危険致死傷は適用除外されるケースが多く感じますが、それは全国ニュースになるほどの悪質で死亡被害などを含む事故でさえ、「適用除外」されているからであり、その理由がおおよそのドライバーにとって、納得のいかないものだからだと思います。
民意を反映して制定したというのなら、しっかりと現場での運用面まで考えて欲しいですし、司法サイドも制定の意味を鑑みて、もっと積極的に活用する努力を面子以上に重視してもらいたいですね。
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