覚悟
「さぁ選んで」
リレイナは数人の青年を連れて戻ってきた。
「なんだ?」
「父の自衛軍の兵士よ」
「は?どういうこと?」
「彼らの…そうね…2人ならなんとか潜りこませられるんじゃない?」
彼らの中から見た目に不自然ではない兵士2人を生徒として(転入生にするか、リレイナの従兄弟にするかずいぶん揉めたが…)学園に潜りこませユリアスを護衛する、それがリレイナの作戦だった。
「彼らならテロワ様も気づかないわ」
「アイツらが仕掛けてくるとしたら…俺はおそらくユリアスとシェアラ、そしてリレイナが全員揃うときを狙って来ると思う。そうなると学期末の舞踏会が有力だ」
「学期末の舞踏会?!もう2週間後じゃない!」
「いよいよ明日だな」
いつもの空中庭園で2人は壁を背に並んで座っていた。
生徒として潜り込んだ2人の兵士は塔の入口を見張る時以外は、常にユリアスと共に過ごしていた。
傍から見ると、転入してきた慣れない生徒を気遣う王太子。何一つ不自然なことはなかった。
「解毒剤持ってる?明日も忘れないでね」
「わかってるよ、大丈夫だ。それより…」
ユリアスがいきなりリレイナに口づけをした。
「え?なんで?」
「もし明日何かあったら当分忙しくなるだろうから」
「いやいやいや、そういうことじゃなくて!私達もうそういう関係じゃないでしょ!」
「違うのか?レイニーは違うのか?」
「それは…でもそもそも婚約破棄したのはあなただわ!」
「人間、間違いもあるさ」
「はあ?!」
「ハハハ……でも、レイニー、真面目に聞いてほしい。
もし明日何かあったら…俺はもちろん、君も必ず巻き込まれる。でも絶対に絶対に俺が助け出す。絶対に君を守る。だから信じていてほしい。必ず俺が君を助ける」
彼はイヴァンと2人で交わした会話を思い出し、険しくなってしまう顔を隠すようにもう一度リレイナに口づけをした。
彼女も拒まなかった。
ーーーーーーー
「このままあいつらには婚約破棄したと思わせておこう」
「そうだな。けど、わかっているとは思うが、お前に何かあれば確実にリレイナが捕らえられる」
「ああ…」
「すぐに処罰はないだろうが…それでも証拠を示せるまでは牢屋……」
「わかってる」
ーーーーーーー
やはり舞台は学期末の舞踏会だった。
始まってまもなく、ユリアスとシェアラが毒を飲み倒れた。
そして悲鳴が上がる中、テロワによりリレイナは暗殺犯と断定された。
なぜか彼女の持ってきていたバッグを掲げたテロワが、中から毒を取り出したのだった。
そのままリレイナは捕らえられ牢屋に入れられた。
それは多くの人間が覚悟を決め動き始めた瞬間だった。全てはユリアスの計画のもとに。
イヴァン、イヴァンの父、そして父の同業者達、リレイナの両親、ツェルマール侯爵自衛軍、そしてオサラマンディ王国国王。
王位継承者を守る為に、リレイナを救い出す為に、若き2人を守る為に。
そして誰も知らない所で覚悟を決めた人間がもう1人いた。