2人の時間
ユリアス・デュヴァン・オサラマンディとリレイナ・ツェルマールが婚約したのは彼らが共に12歳の時だった。
12歳にして既に人目を引くに十分な美しさと凛々しさを兼ね備えていた少年は、ウェーブした薄茶色の髪に大きな目と広く艷やかな額、ぷくりと柔らかそうなピンクの口唇を持った、まるで天使のような少女にすぐに恋をした。
2人はゆっくり、しかし確実に互いへの愛情を重ねながら成長した。
いつしか彼は彼女を『レイニー』と愛称で呼ぶようになった。
彼女は彼に優しくそう呼ばれるのがとても好きだった。
そして彼女は彼を『ユリアス』と呼んだ。
甘い声で名前を呼ばれる時、彼はいつも彼女を抱きしめたくなる衝動にかられた。
そしてようやく愛を語り合う年齢になった頃、2人はすれ違い始めた。
ヒロインが現れたのだ。
ーーーーーーー
「は?」
リレイナが『空中庭園』に来ると、ユリアスが両手を頭の下で組み寝転がっていた。
リレイナは挨拶もせず離れた場所に座るといつも通り本を開いた。
「最近、おとなしいじゃないか」
「………」
「もう嫌がらせに飽きたのか?」
「………最近はここで過ごすおかげで、あなたとシェアラのイチャイチャを見る機会が減ったせいかしら」
「………」
「ねぇ、本当にここに来るのやめてくださらない?あなたが来るともれなくシェアラがついて来るんだもの」
「彼女は来ないよ」
「なぜよ」
「教えないから」
「…………」
「別にいつも一緒にいるわけじゃない」
「そ。どうでもいいわ。もう私には怒る権利もないし」
「………怒ってたのか?」
「………怒るに決まってるでしょ。婚約者が別の異性と特別仲良くしていたら。あなたなら平気なの?…まぁそうね、あなたにとっては私が誰とどうしていよ…」
「怒るな」
「…………」
「学んだことは今後に生かされてはいかが?私とここにいるとシェアラがお怒りになるわよ」
「………………」
「あなたが帰らないなら私が帰るわ」
「……………」
そんな会話とは言えないような会話がそれからほぼ毎日交わされた。
2人だけの、何の約束もない、何をするわけでもない、離れてそれぞれ好きなように過ごす2人の時間。それが今の2人にとっていつの間にか当たり前で、そして欠かしたくない時間になっていた。
そしてそれを互いに気づかないフリをしたままでいた。
「明日の舞踏会、来るんだろ?」
「…………」
「来ないのか?」
「関係ないじゃない。それともシェアラと婚約発表でもするの?私に見せつけたいの?」
「考えたこともない」
「…………帰るわ」
それは2ヶ月に一度の学園主催の舞踏会だった。
思い思い着飾った生徒達が集まり、乾杯の為の飲み物が配られ始めた頃、シェアラの悲鳴が会場に響いた。