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空中庭園

「はあーーっ。悪役令嬢も疲れるものね」


『空中庭園』で彼女は1人ため息をついた。


空中庭園とは名ばかりなここは、鋸壁に囲まれている以外何ひとつない校舎の屋上だ。


学園は塔を中央にして左右へ3階建ての校舎が広がっている。

生徒達が塔の階段を上がり内部に入っていくことはない。まずもって塔の入口がどこかも知られていない。


しかし入口を見つけ、錆かけの錠をはずし階段を上がっていくと…何度も立入禁止札は無視したが…1つだけ開閉できる窓があり、そこからこの屋上に降りられることを、リレイナはつい最近発見した。


てっぺんまで上がってみたが、反対側の校舎の屋上へは出られないようだった。



昼休みに1人でここへ来て本を読んだり、学園の敷地や景色を眺めたりするのが今の彼女のお気に入りの時間だ。





「あ、ユリアスだわ」

眼下を歩く元婚約者が見えた。

輝く金髪をかきあげる。黙っていると冷たい印象を与える整い過ぎた美しい顔は、けれども常にとても優しく柔らかな笑みをたたえている。


『殿下、ごきげんよう』

『ああ、ごきげんよう』

『殿下』

『やぁ、ルートガンク、元気かい?』


リレイナは彼の口真似をしながら、彼がたくさんの生徒達と笑い合い、声をかけ合うのを眺めていた。


(彼の周りにはいつも人が集まる。…私とは正反対ね)

王太子との婚約が破棄されたことでリレイナの取り巻き達は見事に誰一人いなくなった。

未来の王妃ではなくなった彼女にもう用はないらしい。



ユリアスの後ろから、これまた金色の長い髪を靡かせ彼に走り寄る女生徒が見えた。シェアラだ。


ここからでも彼女が満面の笑みで彼に話しかけているのがわかる。さすがヒロインだ。放たれる輝きはただ者ではない。


リレイナは眼下から顔を反らし鋸壁にもたれて座ると本を開いた。





「何をしているんだ」

リレイナは心臓が止まるかと思った。

「びっくりした!ユリアス?なに?」

「何じゃないだろう。こんなところで何をしてるんだ?」

ユリアスが近づいてくる。

「なぜここにいるの?どうやって来たの?」

「……こないだから君がここにいるのを時々下から見てたんだ」

「…よくここまで来れたわね」

「まぁな、俺しか知らない通路があるんだよ」

「うそっ!ズルいっ!」

「ふっ、ズルいって何だよ…いや、そういうことじゃなくて…」



「別になにもしてないわ。ここでおとなしくしてるだけよ。だからとっとと帰って。ここは私が見つけた私の場所なの」

「……高い場所は気持ちいいな」

「ねぇ、話聞いてる?」

「お、すごいな、庭園も見渡せるぞ」

「知ってる。だから…ねぇ!とっとと…」



「ん?あれは…サエドラか?」

「サエドラ?エルバーデン侯爵家の?へぇ、あれがサエドラなのね。アイツはほんとに最低よ」

リレイナはユリアスの隣に並んで庭園の端を見下ろした。


「なんだ?」

「アイツね、あそこでいつも誰かをイジメてるのよ」

「なんだって?」

「あそこは地上では死角なのよ。だからいつもあそこに誰かを呼び出して。仲間たちとイジメるの」

「………」

「なによ?」

「シェアラをイジメていたのは君だったよなぁ、と思って」

「私は彼女をイジメてはいないわ……優しくなかっただけよ」

ユリアスが驚いたように目を開いた。


「なに?」

「……いや、たしかに…なるほどなと思って」

「なにそれ」



「サエドラにイジメられてるのは誰だろう?」

「知らないわ、興味もない」


「注意しよう」

「だめ!ここから叫ばないで!この場所が見つかっちゃう!」

「見て見ぬ振りをしろっていうのか?それはひどいぞ…」


「誰が見て見ぬ振り?」

彼女はスカートのポケットから小さな木の実をひと掴み取り出すと、ユリアスの手に握らせた。


「さぁ投げて」

「は?危ないだろ」

「当てなきゃいいのよ。大丈夫!こんな小さくて軽い木の実、当たってもちょっと痛いくらいよ。自業自得よ。ほら、早く!止めてあげなきゃ!」

「は?は?」

「ほら、せーのっ!」



「伏せて!!」

ユリアスが木の実を投げると同時にリレイナは彼の袖を引っ張りしゃがませた。

そして2人はそっと壁の隙間から様子を伺った。


男子生徒達は頭や肩に手を当てながらキョロキョロと周りを見回している。


「ぶっ」

ユリアスが思わず笑った。

「さぁもう1回よ」

「また投げるのか?」

「だってほら、アイツらまだ止めてないもの。さぁ!」


そう言うとリレイナはさっきと反対側のポケットからまた木の実を取り出し、ユリアスに渡した。



「今度はもう少しちゃんと投げよう」

「立ち上がっちゃダメ!気づかれちゃう!2回目は座ったままここから投げるのよ」

「ここから…」

「だから当てなくていいんだって」

「当てたくなる」

「いいから、早く!せーの!」



2回にわたり何かわからない攻撃を受けた彼らは興冷めしたのかイジメるのを止めて校舎へ戻って行った。



「こんなことしてたらいつかバレるだろ」

「まだ今日で2回目よ。でもたしかにもうこの手は使えないわね」

「直接言えば早いだろ」

「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ」(悪役令嬢なのに)



「とにかくもういいでしょ。何回も言わせないで。帰ってよ。ここは私の場所よ」


彼女はそう言うと元いた場所に戻り、座ると本を広げた。



「それにしてもアイツらの顔…マヌケだったな」

「ふっ…」

2人は目線も顔も合わせないまま笑いあった。


※高い場所から物を投げることは危険なのでやめましょう。マネしないで下さい。



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