魔女様、呪っていただき、本当にありがとうございます!!
タイトル通りの内容です。
サクッと読めます。
「魔女様、お願いでございます。どうかわたくしに呪いをかけてくださいませ」
国一番とされる魔女に、ローラは泣きすがった。
「まあ、落ち着いて。この婆に事情を話してくだされ」
ローラは、並外れて美しい娘だった。
淡い金髪に、若葉色の瞳。
その姿は、春の女神と称されるほどだった。
下級貴族の娘であった彼女のもとに。
求婚者は群れをなした。
「皆、わたくしのことを、うつくしいとしか言わないのです」
ローラは、嘆息した。
「うつくしいと言われて、うれしく思ったことはございません。うつくしさなど、いずれ色褪せてしまう。若くてうつくしいうちに、条件の良い嫁ぎ先を選ぶ。それも、一つの方法ではございます。ですが、見目の良さだけで選ばれたら、その後のことが思いやられます……」
彼女は、赤裸々に語った。
「引き立て役になるのは、ごめんだわ」と言われて。
友達が、一人もいないこと。
外に出ると。
男性が集まってくるので。
家に閉じこもりがちなこと。
静かに読書をしていたいのに。
一方的な恋文ばかりが届くこと。
「こんな姿に、生まれて来なければ良かった!」
だから、頼ることにしたのだ。
「魔女様、お願いでございます。どうかわたくしの姿を変えてくださいまし。うつくしくない者に……」
「そんな依頼は、はじめてだよ」
魔女は、くすくす笑いだした。
「その逆だったら、数えきれぬほどあったがね」
魔女は、ニンマリと笑った。
「この姿とお前さんの姿と、取り替えっこしてみないかい?」
「魔女様と、わたくしと……ですか?」
「ワシの姿は、うつくしくはなかろう。条件は、満たしておるのではないかえ?」
娘は、同意した。
「若い頃の、ワシのあだ名はヒキガエルだった。男共は見向きもせなんだ。よもや、ワシになりたいと思う者があろうとは……」
魔女は、しみじみつぶやいた。
「しかし、これでワシの長年の夢が叶う……」
「魔女様の夢とは、なんでございますの?」
「それはな……」
魔女の夢を聞いた娘は、にっこりした。
「それは、願ってもないことでございます」
こうして。
魔女はローラとなり、ローラは魔女となった。
とはいえ、魔女の姿では依頼が来たときに誤魔化すのが大変だ。
そのため、ローラは魔女の若い頃の姿となり。
魔女の親戚の娘で、留守番を任せられていることとした。
ローラは、一日に何度も、鏡を眺める。
鏡の中の魔女に、ニカッと笑いかける。
うつくしくはないが、愛嬌のある顔立ちだ。
毎日、なんの憂いもなく、ぐっすりと眠れる。
散歩でも、買物でも、気軽に外に出ることができる。
家にこもって、魔法書をじっくりと読みふけるのも良いものだ。
一ヶ月後、魔女が帰ってきた。
「おかえりなさいませ」
ローラは出迎えた。
「ふーん……」
魔女は無遠慮にローラの顔を眺めまわした。
「いかがなさいました?」
「ワシは自分を醜女じゃと思っていたが、中身がお前さんだと、そう醜くも見えない」
「魔女様のお顔、わたくしは好きです」
魔女は周りを見渡した。
家の中は綺麗に整えられている。
庭の手入れも申し分ない。
お茶を飲みながら。
魔女は告げる。
「お前さんのおかげで、ワシの望みが叶った。礼を言う」
「まあ……」
「言い寄る男共を、片っぱしから、こっぴどく振って、振って、振って、振って、振って、振って、振って、振って、振って、振りまくってやったわ〜!!!」
「ありがとうございますッ!!」
魔女の恨みは、深い。
器量の悪い娘の容姿を嘲り、美人を崇める男共に鉄槌を!
「見事にロクデナシばかりだった……」
「お疲れ様でございました」
「いやいや、痛快であったよ。しかしな、一通り片付けたが、まだまだ湧いて出そうだ」
「そのことでございますが、魔女様のお姿とわたくしの姿を、ずっと取り替えたままでいることはできませんでしょうか?」
「やれぬことはないが……」
「わたくしは、このまま静かに暮らしとうございます」
ローラの姿をした魔女は。
「春の女神」改め「氷の女神」と呼ばれるようになった。
今日も元気に、恋に狂った若者のハートを粉々にしている。
ローラは、魔女の弟子となった。
彼女の望みのままの姿で。
だが、彼女をヒキガエルと呼ぶ者はいなかった。
愛嬌たっぷりの魔女の笑みに。
皆つられて、笑顔になってしまうのだとか……
お読みいただき、ありがとうございました。