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入室の許可を求められ、部屋に入ってきたのはコーネシュタイン公爵だった。

「あの……ご用件とは?」

部屋には皇帝と皇太子と自分の息子がテーブルに座っているのだ。

戸惑うのも当然だろう。

「まずは座れ」

父の言葉に、公爵がセイナムの隣に着席する。

セイナムに何事かと目線で問うているが、セイナムは顔を青褪めさせ、父である公爵を睨みつけていた。

異母姉と自分の両親の過去をセイナムは知ることになったのだ。

まだセイナム自身、受け止めきれていないだろう。


「公爵をお呼びたてしたのは私です」

公爵は外遊に出るはずの俺がいるのに疑問を感じているのだろう。

「この度、私は自身の番となる相手を探すために出ておりました。早くもその番を見つけることができました」

「それはお喜び申し上げます」

疑問符を頭に浮かべながらも、公爵が通り一辺倒の言葉を返す。

「私の番となる相手は、レイシア・アイグという娘です」

「なっ……」

公爵が目を見開いて驚く。

いつも冷徹な澄まし顔しかしない公爵の表情が動くなど、滅多にあることではない。

「公爵はこの娘をご存知ですな?」

俺の追求に、公爵は目線を泳がす。

公爵の目線が行き着く先は、息子のセイナムだ。

「東の砦にて出会った彼女は、マーナ・アイグの娘で、あなたの娘だという話だが本当か?」

公爵はセイナムの顔から全て聞いたことを悟ったのだろう。

力なくうなずいた。

「そうです。レイシアは私とマーナの間に生まれた娘です。すまない、セイナム」

息子に謝らずにはいられなかったのだろう。

しかし、そんな公爵の殊勝な態度はセイナムの怒りに火を付けてしまったらしい。

「すまない…とはどういう意味ですか?謝罪されるということは、不義があったと聞こえます!!」

ココーノの輿入れの決定時期によっては、公爵は誠実ではなかったともとれる。

俺の記憶している限り、公爵と夫人は仲の良い夫婦であった。

しかし父親には母親への想いは無かったのではないのか。

そんな考えがよぎっては、子供として許し難いだろう。

「マーナさんとは一時のお付き合いだったと、戦場での話であったと。そう言っていたじゃないですか!!」

セイナムの叫びを聞いて、目の前で父が頭を抱えている。

番にと約束していた女性を、まさか戦時下の状況で肌を合わせていただけの女性だと説明していたなんて。

たしかマーナ・アイグは先のカレント王国との戦いでかなりの功績を上げ、その成果により魔導師として最上位の位を与えられていたはず。


「お、お前はなんということをっ……」

ワナワナと怒りで父が体を震わしている。

「アイン、国のためにマーナとの間を引き裂いた事実を隠蔽していたのか?」

地を這うような父の冷徹な声に、セイナムが震え上がる。

「ココーノのためにキャナリア様が提案され、先王陛下がそうせよと……」

「お前はマーナを愛妾以下の扱いにしたのだな」

もしこの話をマーナが知っていたならば、あの怒りようも納得できてしまう。

竜族が人間を番にするということは、とても稀だ。 

だからこそその愛は重いのだと、誰しもがそう思う。

それが戦場という特殊な環境で燃え上がった恋という、いわば錯覚の恋とされては、マーナもたまったもんじゃないだろう。

ある意味、詐欺にあったようなものだ。

「愛妾以下など、そんな扱いはしておりません。マーナには、誠心誠意私の心を伝えて別れてもらいました。もちろん、きちんと別れてからココーノとの結婚を迎えております」

公爵自身は二人の女性に対して誠実であったと言いたいのだろう。

確かに二人の女性とは、そのつき合いがかぶっていないのだから誠実だ。

誠実だからといって許される問題ではない。

「マーナが皇都に出仕するのを拒否し続けていたのは、そなたのせいか、アイン!!」

ドンッとテーブルに父の拳が下りる。

「いや、アインだけではないな。キャナリアや父上の顔さえ見たくなかっただろう」

当時の王に皇太子妃、それから公爵。

この三人の計略により傷つけられたマーナは、失意のまま東の砦へと身重の体を移したのだろう。


もし、レイシアが俺の番となるならば。

先王マギートはすでに亡くなっているが、俺の母キャナリアが後宮におり、コーネシュタイン公爵もいる。

レイシアは公爵令嬢として嫁ぐことになるので、レイシアはコーネシュタインを名乗らなければならない。

レイシアがまだ何も知らなくても、すべてを知ってしまえばセイナムのようにショックを受けるに違いない。

そうなった時に、俺と番うことで一緒にいるのは苦痛になるかもしれない。

俺の番になる女性は全身全霊をもって生涯愛そうと思っていた。

持てる権力を行使して、守ろうと考えていた。

この国の皇太子妃に突然なるのだ。

それが当たり前だろう。

俺には瑕疵はないかもしれないけれど、レイシアは俺の顔なんか見たくないかもしれない。

まだろくに愛を囁いていないのに、俺は絶望に打ちひしがれていた。

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