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短編集

女神のブラシ 〜ぼくは、その日、天使という存在をはじめて知った。幼馴染との恋物語〜

作者: 光乃永
掲載日:2020/06/13


 ぼくは、その日、天使という存在をはじめて知った。




 透き通るような細い髪の毛。

 長い髪が風になびいていた。

 振り向いた彼女は、まるで――




 ぼくは、その日、天使という存在をはじめて知った。




 ぼくは、その日、お母さんに聞いてみた。


「おかあさん、あのね、あのね、もりの、おはなばたけ、にね。おんなのこがいたの」




「あら、そうなの。お友達になれた?」


「うーん、わかんない!」




「なんて名前の女の子だったの?」


「うーん、わかんない!」




「どんな子だったの?」


「うーん、わかんない!」




 ぼくが首をかしげると、お母さんはクスリとわらって、ゆっくり思い出すようにぼくに言った。

 ぼくは、お母さんのおひざの上に乗って、ゆっくりゆっくり考えた。




「さぁ、どんな子だったかなぁ〜?」


 ぼくは、ゆっくりゆっくり考えた。


「えーっと、えっとね。髪がきれいだった」




「そう、それで? それで?」


 ぼくは、ゆっくりゆっくり考えた。


「えーっと、えっとね。髪がながかった」




「そうなのね。それで? それで?」


 ぼくは、ゆっくりゆっくり考えた。


「えーっと、えっとね。髪がおはなと、いっしょに、わさ〜ってなってた」




「そう、亜麻色の天使みたいな子なのね」


 ぼくは、おかあさんの言葉をくりかえした。


「うーん、てんし?」




「そうよ。


 亜麻色の天使様は、子供の姿をしていて、とても綺麗な髪をお持ちなの。


 そして、綺麗なお花畑に住んでいるのよ」


 お母さんは、ぼくの髪をそっと撫でた。


「あなたも、亜麻色の天使ね」




「うーん、あまいのてんし? おかあさんの、くっきー、みたいに?」


「うふふ、そうね。おやつにクッキーを食べましょうか」


 ぼくはお母さんのクッキーをたべた。

 おいしかった。



 おやつを食べたから、あそびにいく。


「さぁ、私の天使さん。これはお母さんが作ったブラシよ」


「今日見つけた貴方の天使ちゃんにプレゼントしてあげなさい。そして、友達になってらっしゃい」


「うーん、プレゼント、ともだち、なれるかな?」


「大丈夫よ。いってらっしゃい」




「うーん」


 ぼくは、ゆっくりゆっくり考えた。


「おかあさん、いってくる!」


「気を付けるのよー!」


「もりのぬしさま、いるから、だいじょうぶ!」


 ぼくは、お母さんにてをふってから、あそびにいった。




 ぼくはその日、天使という存在をはじめて知った。




 その日、ぼくは天使のともだちができた。







***







「汝の心は天使の御手へ、汝の心は女神の元へ。どうか、我らの願いを聞き入れ、安らかな眠りを与えたまえ……」


 村の墓地では、すすりなく声が木霊していた。

 母さんは、村で、とても人気者だった。


「なんで……っ! 泣かないのよ……っ!」


「なんで、お前が泣いてるんだよ」


「あんたが……っ! 泣かないからでしょ……っ!」


「あぁ……。俺には、父さんがいるから……」


「いいから、強がってないで……一緒に……泣いてよ……っ!」


「あぁ……。あぁ……わかったよ」


「う……うえーん……っ! えーん……! えーん……!」


 こみ上げる涙は、まぶたを溢れて、降り注ぐ雨と一緒にながれていった。


 俺の胸には、泣きじゃくる、彼女のあたたかさが、深く、深く沁み渡っていった。


 俺は、こいつの透き通るような細い髪と一緒にその肩を抱き締めて、声をだして泣いていた。





***







「ねぇ、貴族様だってよ」


「あら、村長とこの子。見初められたってかい?」


「あいやー、おれは断るって聞いたけんの」


「ばっか、ことわってみーな。税金上げられちまうってばよぉ」


 村の連中が、遠巻きに、好き勝手に話していた。


 俺は、アイツが今朝ウチに忘れていった、上着を強く強く握り締めていた。




 晩になると、アイツが家に来た。


「ねぇ……断っちゃった……。どうしよう……」


「どうしようって、断っちまったものは、しょうがねぇだろ……」


「領主様が、森の主様を倒すから、森の開拓を進めろって……」


「森の主様を?」


「うん、領軍動かすって、森の主様がいなくなったら……そしたら税金上げても払えるだろって……」




 そして、貴族は領軍を連れて森に入り、森の主を怒らせた。







***







 一度目は、なんとかなった。




 二度目は、親父が腕に怪我をした。




 三度目は、親父が死んだ。




「ねぇ、お願い! やめてよ! アンタまで死んだらどうするのよ!」


「この村のまともな狩人は、もう俺しかいねぇんだ……」


「だからって! アンタだけが背負う必要なんてないじゃない!」


「馬鹿野郎。親父と母さんは、逃げ延びたところを、この村に受け入れてもらったんだ。だから俺は逃げられない」


「お願い! じゃあ、私と逃げて!」


「俺が死んだら、お前は領主と結婚しろ。森の主は、親父が手負いにした。領軍でも倒せるはずだ」





 そして俺は、森の主に止めを刺すと、大きな大きな奴の体の下敷きになって、死んだ。







***







「待って! 待って! アゼルはまだ死んでないわ! お願い! 触らないで! あっちに行って!」


「あぁ……仕方ないさ。仲が良かったからなぁ」


「でも、よく倒してくれた。主の体を売れば税金なんて」


「しっ……聞こえるだろ。まぁ、明日の朝になれば、落ち着くって、ほら、出た出た」




 その夜、村の教会に、私は一人、膝をついていた。


「あぁ……。あぁ……どうかお願いです。


 聞いているのは、分かっています。


 どんな代償でも、お支払い致します


 亜麻色の天使様……。女神様……っ! 神様……どうかっ!


 お願い、誰か……! アゼルを助けてよ……!!」




 そのとき、私はたしかに聞いたのだ。

 亜麻色の天使の声を……あるいは女神の声を。

 その日、私は天使という存在をはじめて知った。







***







「お前、すっかり髪が短くなっちまったな。男みてぇ」


「それ言わないでよ。はずかしいんだから」


「そんなんじゃ、嫁の貰い手がいねぇな」


「ひっど! 私、一回貴族の婚姻を断ってるんですけど?


 大体、そんなこと言うならアンタが貰ってよね!」


「あぁ、俺が貰ってやる」


「え……いま、なんて……?」


「だから、お前は俺が貰ってやる」


「ねぇ、もう一回」


「貰ってやる」


「私、はげてるよ?」


「知ってる」


「こうして、バンダナずっと巻くのよ。あなたが褒めてくれた髪、もうないのよ?」


「分かってる」


「わたしのせいで……領主様が、森の主を怒らせて……それで、あなたのお父さんまで……」


「かんけぇねぇ」


「怒ってないの?」


「あぁ……お前の所為じゃねぇ……」


「じゃあ……もう一回……」


「もう、言わねぇ」


「どうし……。ん……!」







 その日、とある小さな村に、一組の若夫婦がうまれた。



 その仲睦まじい様子は、村の誰もが羨むほどであった。



 そして、何よりも、その妻の美しく長い髪は、王国一と称えられた。



 二人の日課は、妻の髪を夫が軽口を言いながらも、丁寧に梳かすことであったという。



 彼女の使うブラシは、亜麻色の天使のブラシ、あるいは、そう――女神のブラシと呼ばれていた。




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