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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『振りチョコ』って照れ隠しですよね!

作者: ごごまる

 バレンタインに遅刻しました!

 バレンタイン――。

 それは世の男女がクリスマス並みに浮かれまくるイベント。

 お互いの愛を再確認したり、初めて愛を伝えたり……。

 とにかく、チョコレート以上に甘かったり苦かったり酸っぱかったりする青春がそこに存在していた。


 日本のバレンタインは、基本的に女性が男性に愛を伝える。

 しかし最近は女同士でお菓子を交換する『友チョコ』なる文化まで台頭した。

 つまりは恋愛なんか関係なく、気軽に誰かと仲良くする日でもあるのだ。

 だから、客観的に今の光景を見た人は、なんの違和感もなく受け入れることだろう。


 一人の女子が後輩の女子からチョコを貰っている――。


 微笑ましくもあるシチュエーションだが、実態はそんな平和なものではない。


「先輩のために手作りしました! 放課後までに食べて、食べたらすぐに知らせてください。味の感想も待ってます。あと――」

「待って……。こっちからもお菓子あげる」

「わぁ、嬉しいです! 食べるのもったいないなぁ……。うへへ――」

「ただし、これは手切れ金だから! もう二度と私に構わないで!」


 仲良くするのではなく、それは世にも珍しい『振るためのチョコ』だった。


――――――――――――


 出会いはざっと一年前。


 学校の説明会で愛海(まなみ)を見たのがすべての始まり。

 若菜(わかな)はカッコいい先輩に一目惚れをしてしまった。


 高校へ進学する先を決めるにはいろいろな理由があるだろう。

 それは人によって異なるが、若菜にとっては愛海への好意だった。


 若菜は無事に進学。

 しかし、そこからは愛海にとって地獄のはじまりとなる――。


「せんぱーい! はじめましてですね、お初です」

「し、新入生……? 何か用?」


 わざわざ上級生のクラスを見て回り、愛海を探し出した執念。

 何も知らない愛海は少し不審に見ていた。

 不幸にもその予感が当たってしまう。


「好きです! ラブの意味で、ですよ」

「ん……?」

「あれ、ピンとこないですか?」


 唐突な告白に愛海は真っ白になった。

 恋愛感情なんて男女の間に起きるものだと思っていたからだ。


 愛海は男に人気があった。

 クールで面倒見がよく、プロポーションもバッチリ。

 告白されることもしばしばある。

 けれど、女子からの告白は人生初のことだった。


「具体的には、先輩を独占したいというか。私がお家に帰ってきたら裸エプロンで料理を作ってくれている先輩の後ろ姿があって――」

「待ちなさい。なんか下心が見え見えだけど……」

「えぇ〜? 恋なんて下心の塊ですよぅ。それで、返事はどうします?」


 愛海はその一言に違和感を覚えた。


 恋の告白をする男たちは、みんながYESの返事を期待してくる。

 言うなれば、『ぜひとも良い返事をしてください』と熱意のある態度があるはずだ。

 それなのに若菜は、まるでNOの返事でも問題ないかのような口ぶりである。


「も、もちろん断るわ……。あなたとは初対面だし、まだお互いのことを知らないわけだから」

「そうですよねー。まぁ、でも、『誰かが好きだから』とか言わなかったので()()()です」

「セーフ……?」

「はい、セーフです。じゃあ、お友達の関係から――。あ、失礼、先輩後輩の関係から始めていきましょうか」


 若菜がニコニコと笑って握手を求めてきた。

 愛海はその笑顔すら違和感のひとつに思え、応じずに視線をそらす。


「さっきのセーフって、何よ」

「あれれ、気に障りましたかね。いやぁ、もし先輩が誰かを好きだったら、私の恋は絶望的じゃないですか。まだ可能性がありそうだからセーフってだけの話ですよ」

「アウトだったら諦めてたわけ?」

「まさか! もしその時は――。ふひひひ……」


 笑い声を押し殺すも、こらえきれずに高い音が漏れた。

 にんまりと口を横に伸ばし、どこか不気味な笑顔で愛海を見つめる。


「可能性がなくなったら、その時はその時ですよ。やっぱり、恋って熱いものですからねー。ドキドキしちゃいます」

「……よくわかんないけど。なんか怖いよ、あんた」

「ひどーい。かわいい後輩にそんなことを――」

「じゃあもっと謙虚でいなさい。グイグイきすぎて疲れるわ」

「なるほどぉ……。静かめがお好きなんですねー」


 そう言うと、若菜は教室の外へ消えていった。

 別れの挨拶はなく、嵐のように過ぎ去った後輩。

 変なヤツだとは思いながらも、愛海は気楽に考えていた。


 今まで告白してきた男は全員振ったし、それでトラブルになったこともない。

 失恋も青春そのものだ言い聞かせたら、誰しもが理解してくれるのだ。


 あの後輩もいつか振ることになるだろう。

 それでも、わかってくれるはずだ。


――――――――――――


 数ヶ月後。


 愛海は若菜のことがだんだんわかってきた。

 例えば、自分のようなクール系を歪ませるのが好みだとか――。

 あとはとんでもなく嫉妬深いとか――。


 知りたくない情報まで言ってくるものだから嫌になってくる。

 正直しつこい。


 そのうえ、なんだか気持ち悪い。

 自分のことを変な目でばかり見て、男たち以上に不純な理由で付き合いたいのではないかと疑ってしまう。

 しかも同性という立場を利用してボディータッチも頻繁だ。

 先輩であるはずの自分が手玉に取られている。


「せーんぱい! 一緒に帰りましょうよー」

「ひゃぁ!? ちょっと、不意打ちで触らないでよ!」


 若菜のお気に入りは首だった。

 息を吹きかけたり、指でなぞってきたりと触り方はさまざま。


 最初はくすぐったいとか気持ち悪いなんて感想ばかりだったのに、今ではゾワゾワとした感覚に変わっている。

 触られると声やら吐息も自然と出るようになっていた。


「ふふふ、順調ですね……。先輩、素質ありますよ」

「なんの素質よ!」

「私と付き合う素質、ですかね。ちょっとずつ私のものになってますよ」


 意味がわからない。

 誰かと付き合う()()ならまだしも、()()なんて言うだろうか。

 それに、勝手に決めつけられるのはイラッとくる。

 こちらは特に恋愛感情を抱いているわけじゃないのに、勘違いしないでほしい。


「そういえば、先輩。この前もまた告られてましたね」

「なんで知ってるのよ……! 誰にも言ってなかったのに!」

「いやぁ、たまたま目撃しただけですよ。たまたま、ね」


 しかし今回もお断り。

 愛海はよく告白されるのに、一回も承諾したことはなかった。


「先輩って、どんな人が好みなんですか? 男の人を振りまくるってことは、女の子が――」

「違うってば。恋愛対象は男だけど、タイプがね……」

「じゃあ教えてくださいよー。どんな人が好みですか?」

「それは……。あなたには言いたくない」


 これを聞くと、若菜はニカーっと口を伸ばした。

 口だけが笑っているようで、やっぱり不気味な笑顔だ。


「言いたくないってことはぁ、私のことが好きなんじゃないですかぁ」

「はぁ!? なんでそうなるのよ!」

「もう、照れなくてもいいんですよぅ」

「か、勝手に決めつけないで!」


 なんだ、この後輩は。

 ずっと自分にべったりで、話せば決めつけばかり。

 他に友達の一人くらいいないのだろうか。


 というか、とにかくウザったい決めつけだけはやめてほしい。


「じゃあ言うわよ。あんまり言いたくなかったけど……」

「ぜひぜひ!」


 若菜は目を輝かして見てきた。

 さっきまでの態度が、まるで作戦だったように思えて余計に腹が立つ。


「気弱な男の子がいいの……。母性っていうか、私が(ほう)っておけない性格だから……」


 もっとお世話がしたい――。


 みんなしっかり者で、堂々と告白してきたけれどそうじゃない。

 赤面し、言葉を詰まらせながら告白してくるような低身長男子が愛海は好きなのだ。


「ん? 声が小さすぎてあんまり聞こえませんけど、とりあえずショタコンってことですか」

「ショ……!? そ、そうかもしれないわね……」

「へぇー。年端もいかないような男の子に情を持っちゃうんですかぁ。でも、それなら安心ですね」

「なにが安心なのよ」

「だってぇ、普通の男とは付き合わないってことじゃないですかぁ。私もまだまだセーフってことですよね」


 若菜は愛海に抱きついた。

 頭ひとつほど小さい若菜は愛海の肩に頬を寄せている。


「まだ現時点でもあなたとは付き合わないよ。あくまでも私は先輩として接してるからね」

「わかってますよぅ。でもでも、先輩は知らず知らずのうちに私のことを……。うひひひ」

「はぁ? だから、勘違いしないでって――」


 若菜は愛海の言葉を待たずに愛海の首を撫でた。

 指先でくすぐるような手つきで撫でると、愛海の言葉は突如遮断される。


「うにゃっ!」

「ほら。先輩、やっぱり素質ありますよ。こちょこちょ〜」


 悶える愛海に追い打ちをかける。

 指先というより爪先で、触れているかいないかの力加減で。

 愛海の目にはうっすらと涙があったが、若菜にとってはそそる材料だ。

 

「あらま。先輩、腰抜かしちゃいましたね」

「ふぇ……。私、どうして……」

「首も気持ちイイでしょ〜。私ね、首フェチなんですけど――」

「知らないわよ……! も、もうついてこないで! 一人で帰るから!」


 首をくすぐられるだけで腰を抜かすなんてこと、今まではなかった。

 異常だ。後輩のせいで体がおかしくなってきている――。


 なるべく強く突き放したはずなのに、その日以降も若菜はくっついてきた。

 しかも今まで以上に首へ執着し、暇があれば触られてしまう始末だ。


 さすがに気持ち悪い。

 この後輩、もしかして本当に私の肉体が目当てで近づいているのではなかろうか。

 

 このままじゃダメだ。

 もうはっきり言わないと。

 NOの返事を――。


――――――――――――


 きっとあの後輩は普通に断っても諦めてくれない。

 せめて最後に、なにかの思い出がなければ満足してくれないはずだ。


 どう断ろうか悩み続け、ついに運命の日はやってきた。


 バレンタイン――。

 

 きっと私に愛を伝えてくるに違いない。

 正面からの愛に、正面から断ろう。

 最後の思い出にチョコでも渡してあげれば諦めてくれるだろうか。


 いいや、もう悩み続けるわけにはいかない。

 これ以上なにかされると、おかしくなりそうだ。


 ――というわけで。


「もう二度と私に構わないで!」


 私は若菜を振るためのチョコを渡した。

 のに……。


「またまた〜。先輩、照れ隠しがバレバレですよぅ」


 こいつ、どんだけ幸せな脳なのよ!

 本気で気持ち悪いと思っているのに!


「やめてよ。ホントにあなたとは縁を切りたいの」

「えぇ〜? 本気ですかぁ?」

「本気じゃなかったら言ってないわよ!」

「じゃあアウト、ですかね……」


 いきなり若菜の顔が暗くなった。

 ただ、それは気分の落ち込みによる『暗さ』ではない。

 目つきは鋭く、殺意にも似た得体の知れぬ『闇』だ。


 でもここで怖気づいたらダメだ。

 しっかり突き放さないと。


「アウトよ! もう()()()だから!」

「そうですか……。じゃあ最後に私のチョコだけ食べてほしいです。手作りだから、感想がないのも寂しくて……」

「まぁ、最後くらいは……」


 ピンク色の容器に、がっつりハート型のチョコレート。


 本命オーラ全開なお菓子を口に運ぶと甘ったるい香りが広がった。

 固体は口の温度で粘性のある液体になり、愛海はそれを飲み込んでいく。


「ふ、普通においしいわよ。男だったら惚れてるかもね」


 愛海は無責任なフォローを言い、立ち去ろうとした。

 はたしてその足は、若菜の笑い声で止まることになる。


「んふ……。ふふ、ふふふふふ」

「な、なによ……」

「もうアウトですからね……。でもそれが今日でよかったです。私もそろそろだと思ってましたから」

「はぁ?」


 振り方が悪くて自暴自棄になってしまったのだろうか。

 少し不安になっていると、愛海は違和感に気がついた。


 なぜか体が重い。

 まるで一気に体重が増えているような――。


「違う……。力が、入らないんだ……!」

「ふひ、うひひひひ」

「あなた、何を入れたの!」

「あっははははぁ! せんぱぁい、私も、今の関係は()()()がいいと思ってたんですよ」


 全身の力が抜けていき、愛海はついに這うような姿勢になってしまった。

 人通りはほとんどなく、このままだと助けも呼べなさそうだ。


 愛海は高笑いをする若菜に恐怖を感じていた。


「やっぱりぃ、今の関係は終わりにしてもっと深いトコロまでいきたかったっていうかぁ……」

「待って! あなた、こんなことしていいと思ってるの!」


 明らかにこれは犯罪だ。

 きっとこのままだと、さらに犯罪的なことをされてしまうはず。


「わかった! もうあなたとつきあぇ――。 おりゅ……?」

「くく……。お薬入れ過ぎちゃったみたいですね。まさかお口の筋肉までゆるゆるになるなんて」

「にゃにゅ! おぅりぇり!」

「えぇ〜? 何言ってるかわかりませんよぅ。あら、ヨダレ出てますよ」


 若菜は屈み、床に顔を伏せる愛海を見下ろした。

 愛海は口を閉ざせず、チョコの少し混ざった唾液が溢れてしまう。


 そんな甘い粘液を若菜は指に絡め――。

 舐めた。


 悪寒が走る。

 女子とか男子とか関係ない。

 誰にされても気分が悪かっただろう。

 だがそれ以上に、そんな行動の後に若菜の出した愉悦の声が愛海にとっては気色の悪いものだった。


「おいっしぃー! 最高ですよ、先輩! もっと、もっとください!」


 今度は直接。

 強引に動かない体を仰向けにさせ、若菜がマウントポジションを取った。

 そのまま愛海の口に舌をねじ込む。


 抵抗もできずに口内を舐め回されるのは屈辱だった。

 それに、敏感な部分を攻められても体を動かしてごまかすこともできない。

 無抵抗かつ、ダイレクトに快感が頭に流れた。


「ふぇぇえ! んぅぉお……」


 声にならない声で叫んだ。

 もうどうにかなる。

 いや、なってしまった。

 だから、これ以上は――。


「ふはっ! 先輩、すっごい顔してますよ」


 蔑む声がするが、もうどうでもいい。

 実際、自分の顔がぐちゃぐちゃになっている感覚はあった。

 舐めとられたせいで口からはさらに粘液がこぼれ、目からは涙、しかも目と直結する鼻からも涙の雫が流れていた。

 でもそれを拭うこともできない。


 体が動かない。


「じゃあ、そろそろメインディッシュにしましょうか。私、我慢できそうにないので……」


 若菜がスカートを上げると太ももが露わになった。

 右の太ももには黒いベルトのようなものが巻き付いていて、なんとベルトの外側に注射器が固定されているではないか。


 若菜は注射器を手にし、興奮した息づかいで腕を掴んでくる。


「チクッとしますよ〜。あは、ははは! あ、針が入っちゃう、入っちゃいますよ!」


 鋭い先端が皮膚を破り、肉体へ侵入してきた。

 痛い――と思っても動くことはできない。


「はい、お薬も注入〜! あぁ、私、そこまで知識はないので目分量です。どうか死なないでくださいね」


 怖い、怖い怖い――。


 心音がやけにうるさかった。

 当然だ、死ぬかもしれないのだから。

 しかも自力では回避できない。

 強制参加のロシアンルーレット。


「はい、針を抜いておしまいです。絆創膏はないので止血は私のお口で――」


 止血は普通、圧迫するものではないのか。

 それなのに若菜は吸い出すように舐めたり、味わうように血液を口に含んでいる。


 あまりの恐怖に涙で滲んでいたはずの景色がさらにぼやけていく。

 酔っているように、ぐるぐると頭も回っていた。

 愛海の意識は明らかにふらついている。

 目も虚ろになり、睡魔に襲われているような感覚。


「お薬、効いてるみたいですね。このまま眠っちゃってください」


 できれば永遠じゃない方で――。

 その言葉を最後に、愛海は意識を手放した。


――――――――――――


 目を開けると、そこは薄暗い場所だった。


 固いベッドに純白のしきり。

 不気味なほどに静かな室内は廃病院のようである。


 愛海が体を起こそうとしてもそれは叶わず。

 壁にあと付けしたような手すりが自分の手首にある手錠と繋がっていたのだ。


「なによ、コレ……」


 体は動くし、話すこともできる。

 薬の効果は切れたようだし、幸いにも生きているみたいだ。

 まだ、若菜の魔の手からは逃れていないようだが。


「先輩、起きましたぁ?」


 愛海が回復して間もなく、若菜がしきりを開けてやってきた。

 しきりを持ったのと反対の手には銀色のボウル。


「ここはどこなの……? あなた、本当に警察沙汰になるわよ」

「元、我が家ですよ。最初のパパがお医者さんだったので」

「最初の……?」


 若菜の父は医者だった。

 しかし、彼は若菜が小学高学年ほどで亡くなってしまったそうだ。

 後に母は再婚することになったそうだが――。


「次のパパがね、あまり好きになれなくて……。虐待ってほどじゃないんですけど、ちょっと乱暴で……」

「何よそれ……。恋なんかじゃなくて、そういう大事なことを早く――」

「あぁ、大丈夫です。もうママと心中しましたから。はは、やり捨てされちゃいましたね」


 自虐的に笑う若菜に、愛海は怒りさえ覚えた。

 どうして、そんな笑っているんだと。


「まぁ、そういうことで、男性が苦手なんですよ。ふふ、先輩がいれば問題ありませんか」

「待ちなさいよ! ちゃんとそういうこと、周りの人に言ってあるの!?」

「言う必要がないですよぅ。先輩が癒やしてくれますもの。人の愛し方だけはね、大嫌いなパパのおかげで完璧です」


 若菜が持ってきたボウルの中身は溶かしたチョコレートだった。

 若菜はそれを愛海の首元に垂らしていく。


「熱っ!」

「暴れないでください! って、服も邪魔ですね」


 若菜はベッドの隣にあった机からハサミを取り出し、制服を切り裂いた。

 上も、下も。


「ふひひひ。先輩の下着姿、かわいいですよ」

「嬉しくないわよ! やめて、早く家に帰して!」

「大丈夫、先輩のおうちは今日からここですから! ほら、先輩のくれたチョコが先輩の体に……」


 首や胸、腹、脚にまで溶けたチョコを流された。

 最初にチョコをかけられた首元は軽いヤケドを負ったかもしれない。


「できましたぁ、先輩のくれた()()チョコ! さっそく、おいしいところから――」


 若菜が首を舐める。

 その瞬間、愛海の脳に電流が走った。

 自然と体がのけぞり、声も抑えられない。


 最初から若菜は、これが目的だったのだ。


「ふあぁぁぁぁ! んんっ! やめっ……!」

「ん、おいひ……。これが、先輩の味ですか」

「お願いだからぁ! おか、おかしくなるぅ!」


 つい1年前まではこんな感覚なんて知らなかったはずなのに。

 くすぐったさと快感の合体したようなむずがゆさ。

 舌先でいやらしく舐められ、愛海の体は熱くなっていた。


「先輩にもおすそわけ。舌、噛まないでくださいね」


 声を我慢しようと食いしばっていたところに、無理やりキスが落ちてきた。

 その味はただのチョコレートだったはずなのに、脳まで溶けるように甘い。


「ぷはっ……! も、もう、やめてぇ……」

「最高、最高です! これが、これこそが『愛』!」


 若菜はさらにエンジンがかかってきたようで、遠慮など微塵も見せずに食いついた。

 首から胸。腹も脚も――。

 チョコレートなんて関係なく、味わえるところすべてを。


「あぁっ……。うぅ……」

「先輩、もう脱力しっぱなしですね。抵抗する気、なくしちゃいましたか」

「あぅ……」

「あらま。意識失ってます? おーい」


 ぺしぺしと頬を叩いてみても、愛海の体は不定期に震えているだけだった。

 どうやらキモチよくしすぎたらしい。


「んふふ。今のうちに、関係つくっちゃおうかなー」


 若菜はゆっくりと下着に手を伸ばした。

 もう相手の抵抗がないのならやりたい放題。

 このまま愛に溺れてもらおう。


「愛の海なんて名前なのに、愛の激流に失神しちゃうなんて……。まぁ、だらしなく伸びてる姿も大好きですが」


 今日はバレンタイン――。


 義理チョコだとか友チョコだとか、ごまかしているのは日本くらいなものだ。

 本当は心から愛してる気持ちを伝える日。

 たとえどんな手段を使ってでも。


「そうだ。もっと先輩味のチョコを食べたいので、これから買ってきますね」


 自分の中にあるのは愛情だけ。

 今は拒絶されていても、あと数回オトせば言うことを聞くようになるはず。

 かつての自分がそうだったから――。


「ハッピーバレンタイン、先輩」


 これが私の愛し方――。

 お読みいただきありがとうございます!


 今後とも二人は末永く幸せに……。

 幸せ、ですかね?


 みなさんも誰かからもらった手作りチョコにはご用心を。

 ちなみに自分はひとつももらってませんけど!

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