もじをあいし、もじにあいされたおとこ〜ep.0
むうん。
モジカと博士が、共に朝を迎えた頃のことです。
ねんどろんこにモジカを送り出した文字の精霊達は、大喜び。
「やった、今回はうまくいきそうだね♪」
ニルアドミラリ博士の前任者は、書物狂の老博士。
文字をたくさん研究し、文字の精霊に美味しいご飯をたくさん与えてくれる、老博士。
文字の精霊達は、老博士を大好きになりました。
ですので、彼からものを見る力、背をまっすぐにする力を、根こそぎ頂いちゃいました。
文字を文字だと思う力も食べてしまったので、老博士はすっかり、文字が線にしか見えなくなりました。
文字に宿る意味も、文字が表すモノも――例えば、「家」という文字が線に見え、ホンモノの家も、木と、土と、石と、わらでできたモノに見えてしまうのです。
でもでもまだまだ、文字の精霊達は、老博士を愛し足りません。
ある日、この国に地震が起きました。自宅にいた老博士は、重い想いの詰まった、数百枚の粘土板に抱きしめられました。
そのまま、冥界へと連れて行かれてしまったのです。
物理的にも、愛が重い。
文字の精霊たちは、文字通り、そんなところがあるのです。
けれども今回は、なるべく長く生きてもらおうと、決めたのです!
ヒトと文字の共存を目指した方が、お互いに良い関係でいられる! うん、きっとそう!
文字の精霊たちは、美味しいご飯を末永く味わうため、そう、考えたのでした。
余談です。
私が「本好きの下剋上」を好むのは、第1話の主人公の転生エピソードが、
「文字禍」と同じだから、です。