恋ってどんなものかしら?
にゃあにゃあ=娘さん
しましまに=しましまに
しまっしま!=しなさいよ!
夜、ニルアドミラリ博士は、自分の居室で、新しいねんどろんこを前に、やさしく語りかけていました。
「ああ、粘土板の文字で読んだ通りだよ。横から見ると、鼻梁は完璧な線を描き、続く頤はあくまでも細く、月のような静けさをもたらしている。身体は、とても素敵なまろみだね。正面からは、天の星々を閉じ込めたかのような瞳が……。う~ん、瞳は今度、マラカイトの粉でも、はためかせてみようか。なに、貯えを削れば、少しなら融通してもらえるだろう。」
今度は、どのように色を付けようかと考えています。
居室の窓から入る月明りに、もっとよくねんどろんこを照らそうと移動させた、その時です。
一体の文字の精霊が、博士のねんどろんこに入りました。
すると、なんということでしょう!
いびつな形の赤黒い土の塊が、ヒトのような肌の色をし、ヒトのようななめらかな動きをし、ヒトそのものになったのです!
博士と、ヒトになった彼女が見つめ合ったその時、時間は止まったかのようでした。
蠍の毒に当たって痺れてしまったかのように、二人の体は細かく震えています。
博士は、静まり返った居室で、自分の心の臓が、恐ろしいほど高鳴っているのを感じました。
ふと、天の星々を閉じ込めたかのような瞳と、目が合いました。
気付いたら博士は、理想そのものの彼女へ手を伸ばし、その指先へと触れました。
すると、どうでしょう。
何かびりびりするような、甘い疼きが身体中を駆け巡り、博士の頰は瞬く間に紅潮し、お互い驚いた顔で、思わず手を離しました。
「君は……貴女は、どなたですか?」
博士の声はかすれ、うわずっています。
「あたしは、モジカ。文字の精霊、モジカ。ヒトの器があったから、みんなの力を借りて、入ってみたの。……ずっと、あなたを見ていたわ。」
モジカの瞳が熱を帯び、博士をじっと見つめてきます。
博士は何が何だか分からなくなって、気付いたら、月神が沈み、また太陽神が昇るのを見たのでした。