問題児と部屋割り騒動?
無事(?)その日の講義を終えた俺は、寮の部屋に戻って一息 吐いた……。
正直、新年度 初日から色々あり過ぎて この先が思い遣られるが、とにかく一日を無事に乗り切ったので良しと して置こう。
俺がそんな事を考えつつ、自分の椅子に座った その瞬間、部屋のドアが勢い良く開いて誰かが入って来た。~ルームメイトかと思ったが、そうでは無かった。~
見ると、知らない生徒だったが、なんと無く見覚えがある気がする……。よくよく思い出してみると、今日 同じ講義を受けていた新入生の一人だと分かった。
すると、その生徒はドアを開けるなり部屋の中に入って来て俺の前で土下座し始める……!
「えっ、えっ、何っ!? どうしたのっ!!?」
戸惑いつつも そう尋ねると、その生徒は顔を上げて「助けて下さい!」と言い出した。……全く状況が理解 出来ない。
俺の困惑が相手に伝わったのか、相手は続けて こう言った。
「俺っ、アイツと同室になったんですっ!!」
「んぇっ、アイツって……?」
「だからっ、アイツですよ! 講師に喧嘩 売り捲って初日から浮いてたアイツっ!!」
その瞬間、アサキの顔が思い浮かんだ……。
「あ"~、なんと無く誰の事 言ってるか分かった……。けど、助けてって言うのは……?」
すると、その生徒は再び頭を下げて こう告げる。
「どうか……、どうかっ!! 俺と部屋を替わって下さい!」
「えっ、そんなに……?」
そこまでする程、アサキと同室になるのが嫌なのだろうか……? 俺がそう思っていると、その生徒は小刻みに震えながら こう言った。
「これから一年間、ずっとアイツと同室だなんて……恐怖しか無いっ!!」
「えっ、そんな言う程……? いや、まぁ……、部屋を替わるのは構わないけど、この部屋 三人部屋だよ? 大丈夫?」
何故そんな事を尋ねたかと言うと、実は寮の部屋割りは成績に基づいて決められるのだ。
成績優秀な生徒は一人部屋を宛がわれるが、この寮は全室`二人部屋 仕様´だ。よって、成績の悪い生徒達は必然的に二人部屋を三人で使う事になる。
だが、新入生に限っては原則 二人部屋が決まりだ。そして、年度末にある進級試験の結果 如何で、何人部屋になるかが決まるのだ。
三人部屋と言われ、少しばかり悩んでいたようだが、その生徒は結局 俺と部屋を替わる事にしたようだった。
「大丈夫です。お願いします!」
「そっか、分かった。じゃあ、支度するから ちょっと待ってね。」
そう言ったのは、相手が大きな荷物を抱えて俺の部屋に来ていたからだ。~おそらく、彼はもう部屋に戻らなくて良いように荷造りをしてから来たのだろう。~
そんな訳で、俺が部屋を替わる準備をしているところにルームメイトが戻って来たので、部屋を移る事を説明して、俺はアサキの居るであろう部屋へ向かった……。
その後、俺はアサキの居る部屋を訪れたが、ノックしてドアを開けると、アサキが俺を見て「今度は、アンタか……」と溢した。
「……? 今度は……って、どう言う事……?」
「さっきから、入れ替わり立ち替わり色んな奴が この部屋に来ちゃ、俺の顔 見て出て行く……ってのを繰り返しててな……。」
……どうやら、あの生徒は他の新入生にも部屋を替わってくれるよう頼んでいたらしい。
そうして、全員に断られたのだろう……。その結果、俺にしか頼めなくなってしまったようだ。
「そうだったんだ……。ともあれ、これから一年間よろしくね。」
俺がそう言って部屋の中に入ると、アサキは「アンタは出てかねぇのな?」と言った。
「……? 今 来たばっかりで、なんで出て行くんだよ? そもそも、俺この部屋にアサキが居るって聞かされた上で来てるんだけど?」
「マジかよ……。アンタ、ホント変わってるな。」
「えっ、何処がっ!? 俺、なんか変な事 言ったっ!? アサキと同室だったら、召喚術について色々と教えて貰えそうだなって言うのも、あったんだけど……。」
「あ"~、なるほどな……。確かに、アンタが魔獣を召喚 出来ない事や、興奮させちまう事に関しては、俺も気になってた。」
「まぁ、理由は俺自身にも分からないんだけどね……」
すると、アサキは当然のように「俺に分かんねぇ事が、アンタに分かる筈ねぇだろ」と言った。……確かに、アサキの言う通りだ。
そこで、俺は ずっと気になっていた質問をアサキに ぶつけてみた。
「あのさ……。アサキって、どうして そんなに召喚術に詳しいの? 先生を黙らせちゃう程 詳しいなんて、流石に……」
すると、アサキは「ここだけの話な……」と言って、事情を説明してくれた。
「実は、俺の家は古くから続く召喚術師の家系なんだ。んで、俺も召喚獣と きちんと契約を結んだ召喚術師なんだよ。」
「……だから、あんなに召喚術に詳しかったんだ。でも、既に召喚術師として生計を立ててるなら、なんで わざわざ学校に……?」
「そんなもん、決まってるだろ。セルベリアの王族が使う召喚術ってのを学びたくて入学したんだよ。なのに、いざ入学してみれば王宮の召喚術どころか、基本的な知識さえ教えてないし、講師も王族じゃないし……。正直、期待 外れもいいトコだぜ。」
「あ"~、まぁ、あの触れ込みを見たら、誰でも王宮の召喚術を教えて貰えるって思っちゃうよね……。だけど、成績優秀な生徒は特別講義って形で王宮の召喚術を教えてくれるんだよ。」
「全員に教えるんじゃねぇのかよっ!?」
「でも、既に召喚術師のアサキなら、きっと来年には特別講義 受けられるんじゃない?」
「そう言う問題じゃねぇよ。俺は、セルベリアの王族が`アーサーの使ってた召喚術を独占してる´って状況が気に入らねぇんだよっ!!」
「う"~ん、でも、それは俺達には どうする事も出来ない問題じゃない? それに、セルベリアの王族って一人で一国を滅ぼせるくらいの力を持ってるって聞くよ? それ考えたら、誰にでもは教えられないんじゃない?」
すると、アサキは思いもよらない言葉を口にした。
「あんなもん、ただのハッタリだよ。王族全員が、そんな実力な訳ねぇだろ。実際に そんな事 出来んのは、歴代の王族の中でも初代のアーサーと、前王のアレクサンダー……、あとは…………まぁ、一人二人 居るくらいだろ、多分……。」
「えっ、そうなのっ!? 凄いっ、アサキ! よく そんな事まで知ってるなぁ~。」
すると、アサキは事も無げに「知らねぇよ」と言った。その返答に俺が首を傾げていると、アサキは溜め息 混じりに こう続ける。
「知らねぇけど、考えたら分かるだろ。王族全員に そんな力があったら、今頃はセルベリアが世界を統一してるだろうぜ。人間ってのは、力を手にしたら使わずにはいられない……。良くも、悪くも……な……。その証拠に、前王アレクサンダーの代には、セルベリアは近隣の国々に戦争を吹っ掛け捲ってたろ?」
「……そうだね。俺達が生まれる前の事だから、ハッキリとは知らないけど、その当時セルベリアは`残虐非道の侵略国´と言われて、近隣の国々に恐れられてたって聞いた……。」
「だろ? なのに、現王アレックスに替わってから、急に近隣国に友好的になった。他国と同盟を組み、こうして召喚術の知識を餌に同盟国に媚びるような真似までしてる……。そんなの、誰が見たって`アレックスに他の国と事を構えるだけの力が無いからだ´って分かるだろ。アーサーの召喚術の知識を広めようとしないのも、どうせ これ以上 脅威となる存在が増えないようにって事だろ。」
アサキの鋭さは勿論の事、批判とも取れる(いや、批判としか取れない)王族への言葉に、俺は心底 驚かされた……。
(もし、俺以外の人が聞いてたら……とか思わないのかな……? いや、講義の最中にも同じように王族を批判してたから、他の人に聞かれても大丈夫なのかな……?)
俺がそんな事を考えていると、アサキが「ところで、アンタは召喚術について何処まで教えられてる?」と尋ねてきた。
「う~ん、何処までって言われても……。」
「あ"~、そうか……。アンタにしても、他の奴らにしても、召喚術に関する知識ほぼゼロの状態で入学してんだもんな……。全容も知らねぇのに、何処までか なんて分かる訳ねぇか。つーか、そもそも あの講義じゃ正しい知識だって身に付いて無いだろうしな。よし、じゃあ、俺の方から具体的な質問をするから、アンタはそれに答えてくれ。」
「あ~、うん。分かった。」
俺が そう言うと、アサキは早速 質問をしてきた。
「じゃあ、召喚術に於いて相性が最も重要な事は、当然 知ってるよな?」
「まぁ、それは……勿論……。」
「なら、その相性を決める要素は……まぁ、これも知ってて当然だな。」
「うん。講義で習ったよ。召喚する魔獣は それぞれ 炎・水・風・地・雷・闇 のどれかの属性を持ってて、逆に人間は 火・水・風・土・雷 のいずれかの性質を持っていて、水の性質を持った人なら水属性の魔獣と相性が良い……みたいに、それぞれ自分の性質と同じ分類に属する属性の魔獣と相性が良いんだよね?」
俺が そう言うと、アサキは「またか!」と憤慨し始めた。何を怒っているのかと思っていたが、どうやら講師が正しい知識を教えていなかったようだ。
「良いか! 召喚獣の持つ属性は、それぞれ 炎・水・風・地・雷・闇・光 の七種類で、同じように人の持つ性質も 火・水・風・土・雷・闇・光 の七種類だっ!! 確かに、闇と光……特に光の性質を持つ人間は稀で、数百年に一人の割合でしか現れない……。だからって、伝えなくて良いって事は ねぇだろっ!? ……ったく、ここの講師どもは!」
「そうなんだ……。えっ、じゃあ……、アサキが言ってた聖獣を召喚 出来る術者が、二千年の間に二人しか現れてないって言うのは……」
「光の性質を持った人間しか、聖獣を召喚 出来ないからだ。ただでさえ稀な光の性質の持ち主が、たまたま召喚術師になる確率 考えたら、そんなモンだろうけどな。ちなみに、人の持つ性質は必ずしも一つとは限らない。」
「……? って事は……、二つの属性を召喚 出来る術者は、性質が一つじゃないって事……?」
「そうそう。アンタ、以外と察しが良いな。人の持つ性質は、基本的に一つから二つって事になってる。……けど まぁ、俺みたいな特例も稀に居るらしいけどな。」
「特例って……?」
「俺は、性質 四つあるから。」
「えぇぇぇぇっ!? 性質が四つって事は……、召喚 出来る魔獣の属性も……四つって事……だよね……?」
「そうだな。まぁ、俺みたいのは本当に稀だけどな。ちなみに、性質が複数ある場合、一番 多く割合を占めてる性質を`その人の持つ性質´として扱う。俺の場合は、火が五割で、闇が三割、風と土が一割ずつ……って感じだから、俺の性質は一応 火って事になる。当然、一番 相性が良い魔獣も炎属性の魔獣だ。」
「そうなんだ……。じゃあ、もしかしなくても、いろんな性質を持ってる方が多くの魔獣を召喚 出来るって事……?」
「まぁ、可能性としては そうだけど、その辺は才能次第って感じだろうな。実力が伴わないと、召喚した魔獣を制御 出来ない場合もあるし……。」
「そっか……。あの……、アサキ……。ちょっと、質問して良い……?」
「んっ? なんだよ?」
「あのさ……、自分の性質って……どうやったら分かるの……?」
そんな俺の問いに、アサキの顔が険しくなる。
「はあぁぁぁっ!? まさか、自分の性質が分かんねぇのかっ!? 普通、一番 最初に調べる事だろうが! たまたま、今日は調べなかったんだと思ってたのにっ!!」
その言葉に俺がキョトンとしていると、アサキは何かに気付いたような素振りを見せた後「本当に、調べてないのか?」と呟いた。
「……だから、あんな無駄の多い事ばっか してたのか……。でも、なんで最初に調べとかねぇんだ? わざわざ あんな事する意味が分からねぇ……。」
「えっと……、調べるって……どうやって……?」
「あ"あ"っ? そんなもん、一番 確実なのは`相手の本質を見抜く能力を持った魔獣に鑑定させる´事に決まって……」
そこまで言って、アサキは気付いたようだ。
「そうか……。そう言う魔獣を召喚 出来る術者が居ねぇのか……。確かに、そう言った特殊能力を持った魔獣は召喚が難しい……。その上、こっちの本質を見抜いてくるから、制御も困難を極める訳だけど……、まさか講師が五人も居て、一人も扱えねぇとは……。」
そう言って、溜め息を吐くアサキ……。そんなアサキに、俺は重ねて尋ねる。
「じゃあ、そう言う魔獣を使役 出来ないと、性質を調べる事は出来ないの? 何か、他に方法とか無いのかな……?」
「どうだろうな。どれも確実じゃないし、かなり曖昧だからな~。例えば、性質は持ってる人間の性格とかに影響を及ぼすから、性質ごとに`この性質は、こう言う性格´って、だいたい決まってんだけど……、それも絶対じゃないし、性質が複数ある場合また違ってくるし……。俺みたいに四つも性質があると、性格診断なんか全く宛にならないからな。」
「そうなんだ……。でも、アサキは自分の性質が分かってるって事は、アサキの家には そう言う魔獣を召喚 出来る人が居るんだよね?」
「まぁな。つーか、俺も出来る。」
「えっ、そうなのっ!? 凄いっ!!」
すると、アサキは何か気付いたようで「そっか……」と口にした。
「俺が、アンタの性質を見てやれば良いんだ。」
「えっ?」
「召喚術において、一番 重要なのは魔獣との相性! その為に、まず初めに自分の性質を知る必要があるんだ。自分の性質が分かれば、アンタが魔獣を召喚 出来ない理由も分かるかも知れないしな。まぁ、近々 アンタの性質を見てやるよ。」
「ホント!? ありがとう、助かるよ。」
すると、アサキは一瞬なんとも言えない顔をした。そうして、俺から目を背けて こう告げる。
「別に、感謝される謂われは ねぇよ……。こっちは、純粋な好奇心から遣ってる事だからな。」
「それでも、助かるよ。俺、今年 進級 出来なきゃ、退学だから……。」
そう言って苦笑する俺を一瞥して、アサキは納得がいかない様子で こう言った。
「そもそも、一体も召喚 出来ないなんて前代未聞なんだから、通常通りの講義を受けて駄目だった時点で、勉強法を変えるべきだろ。それを、何度も同じ事やらせて……、ここの講師達は本当にヤル気あんのかよ?」
「そんな事 言わないで、アサキ……。先生達は、悪くないよ。」
「いや、あんな無駄の多い非効率な講義を何度も聞かせる事 自体が罪だ。」
「酷いなっ!? 幾らなんでも、言い過ぎだよ。アサキの言う`相手の本質を見抜く魔獣´を召喚 出来なくても、どうにか生徒全員に召喚術を修得させようと頑張ってくれてるんじゃないか。」
「生徒全員に……ねぇ……。そう言うアンタ自身が、一体も召喚 出来ないんじゃ説得力がねぇな。」
「……っ、それは………」
「とにかく、同室になった以上、お互いにギブアンドテイクな関係を築こうぜ。俺は、この学園の事が知りたい。生徒や講師の実力、詳しい講義内容、その他 学園の制度や、留年した生徒への対処なんかが そうだな。その辺を、アンタから聞きたいって訳だ。その見返りに、俺はアンタに`俺の思う正しい召喚術´ってのを教えてやるよ。」
そう言って、アサキは人の悪い笑みを浮かべる……。アサキが、何故この学園について知りたいのかは分からないが、俺は とりあえず「よろしく」と言って、アサキに握手を求めた。
だが、アサキは俺の手をジッと見つめ「……何この手?」と言った。
「え~っと、一応 握手を求めてる つもりなんだけど……。」
俺がそう言うと、アサキは「マジかよ……」と言って暫く悩んだ末に、ぎこちなく俺の手を取って握手してくれた。
「アンタさぁ、俺と同室になったってだけでも、多分 講師から悪い目で見られるぜ? その上、俺と仲良く召喚術について お勉強って……。確実に、講師どもに目の敵にされると思うけど?」
「あ~、それについては大丈夫。俺、もともと落ちこぼれ過ぎて目を付けられてたから。ほら、俺も一応 貴族なのに扱いが雑でしょ?」
俺が そう言って笑っていると、アサキは呆気に取られたようなポカンとした顔で俺を見ていた……。
「アンタ……、前向きなのか、後ろ向きなのか分かんねぇ奴だな……。」
そう呟いた後、アサキは思わずと言った様子で吹き出して、笑いながら こう言った。
「ホント、変わってんな! まぁ、良いや。これから一年……よろしくな、アキさん。」
そう言って、アサキは初めて屈託の無い笑顔を見せた。~実は、アサキは朝から ずっと しかめっ面だったのだ。~
その笑顔が意外にも友好的で、俺は これからの学園生活に少しだけ希望が持てた気がした。
こうして、俺とアサキの共同生活が始まった……。