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落ちこぼれと、問題児?

この世界に召喚術を広めたのは『アーサー・ディ・セルベリア』……そんな事は、小さな子供でも知っている常識だ……。

二千年前……、この世界に まだ国と言う概念が無かった頃の事……。世界中、至る所で様々な種族が領土を巡って争いを繰り広げていた……。

そんな中、召喚術の力で争いを制し、初めて国と言うモノを創ったのが、初代セルベリア国王『アーサー・ディ・セルベリア』だ。

あの当時、この世界には召喚術と言うモノが まだ浸透しておらず、アーサーの力を目にした者は皆、その不思議な力に驚愕し、畏敬の念を抱いたと言う……。



あれから二千年 経った今……、世界は多くの国で溢れている……。

そして、召喚術師も当時とは比べ物にならない程 増えていた。だが、未だ`アーサーが使っていた召喚術´を知る者は、セルベリアの王族以外には居なかった……。

その為、他の召喚術師達は皆 独学で召喚術を研究し、学んできたのだ。

だが、幾ら研究してもセルベリアの王族のような強大な力を手にする事は叶わなかった……。

それは、召喚方法の違いだけで無く、才能の差と言うのも、多分にあった。王族達は初代国王であるアーサーの血を引いているのだ。

つまり、それ程にアーサーの才能は優れていたのだ……。


召喚術が広まった今でも、ドラゴンを召喚 出来るのは、セルベリアの王族だけだと言う……。





これは、そんな世界で召喚術師を夢見ている俺が召喚術師として王宮で働く事に なるまでの紆余曲折を綴った物語だ……。


 ここはセルベリア国の王都『シルビア』、その中心に位置する場所にある『セルベール学園』だ。

 セルベール学園とは、今から二十年程前に現国王『アレックス・ディ・セルベリア』に よって創設された召喚術師の育成施設だ。

 若い才能の発掘と育成を目的に創られた この学園は、セルベリア国の他に その同盟国であるウルタニア国とマグダリア国、その三つの国の十八歳 以下の貴族が主な対象として集められている。

 全寮制の この学園は、現在 二週間の休暇を経て、ちょうど新年度に入ったところ だった。

 皆が期待と不安を胸に登校している中、俺ー『アキ・ウォレスト』は、不安と緊張と焦りと恐怖と情けなさと虚しさと……とにかく様々な負の感情を胸に、一際 暗い顔で学園の門をくぐるのだった……。



 何故、そんなに負の感情に囚われているかと言えば、このセルベール学園は本来 三年間の講義を経て卒業となるのだが、成績が芳しくなければ留年をする事もある。

 だが、何度でも留年 出来る訳では無い。二度目までは許されるが、それでも進級 出来ない者は`才能 無し´と見なされて退学になる……。

 そして、俺は今……二度目の留年を経て再び……いや、三度みたび一年生として学び直さなければ いけないのだ……。

 しかも、今年 進級出来なければ退学だ……。緊張したり焦ったりしても、無理は無いと分かって貰えただろうか……。



 ……そんな訳で、俺が浮かない顔で学園の廊下を歩いていると、不意に後ろから頭を叩かれた。

 何事かと振り返ると、そこには同期生の『フランツ』が立っていた。

「よぉ、落ちこぼれ。そっちは、一年の教室だぜ?」

 そう言って、フランツは俺を馬鹿にしたような嫌味な笑みを浮かべる。~おそらく、俺が また留年した事を誰かから聞いたのだろう。~

 すると、フランツの周りに居た取り巻き達が可笑しくて堪らないと言った様子で言った。

「そんな事 言っちゃ可哀想ですよ、フランツさん。コイツ、また進級 出来なかったらしいですからww」

「そうそう! だから、今年も一年生なんですよww」

 すると、フランツは声を上げて笑った後、こう口にした。

「マジかよっ!? じゃあ、今年も進級 出来なきゃ退学じゃねぇかwww お前、どんだけ落ちこぼれ なんだよwww」

「ホ~ント、今年から特別講義を受けるフランツさんと同期生とは思えませんよね~?」

「おいおい、こんな落ちこぼれと比べるとか、フランツさんに失礼だろwww」

「確かにwww フランツさん、すみませんでした。」

 だが、フランツは特に気分を害した様子も無く、ニヤニヤと笑いながら「まったくだぜ」と告げる。

「こんな何度も一年やってるような落ちこぼれと、俺が同じ人種な訳ねぇだろwww」

 正直、彼らの言葉はグサグサと胸に刺さるのだが、本当の事なので何も言えない。

 ちなみに、このセルベール学園では才能の抜きん出た生徒は`特別講義´と言う名目で、セルベリアの王族が使っている召喚術を教えて貰えるらしい。

 実は、この学園`王宮仕込みの召喚術を教える´

と言う触れ込みとは裏腹に、王宮の召喚術を教えて貰えるのは、ごく一部の優秀な生徒だけで、他の生徒は一般的に知られている召喚術しか教えて貰えないのだ。

 まぁ、セルベリアの王族は一人で国一つ滅ぼせる程の実力らしいので、それを考えたら誰にでもホイホイ教えられるモノでも無いのだろう。

 それに、一般的な召喚術とは言え、この学園の講師達は皆 一流と言われている召喚術師ばかりで、講義の内容は かなりレベルが高いそうだ。

 だが、これは あくまでも伝聞なので、俺自身は講義の内容に ついては、あまり詳しくは分からない。~理由は、もちろん今まで一年の講義しか受けた事が無いからだ……。~

「ははっ……、本当にフランツは凄いよね……。特別講義を受けられるなんて、才能が突出してる証拠だもんね。」

 俺が力無くそう告げると、フランツは当然とばかりに鼻で笑って、こう言った。

「当たり前だろ。誰に言ってんだよ、落ちこぼれ。」

「あはは……、だよね……。じゃあ、俺は これで……」

 そう言って立ち去ろうとするも、フランツに襟首を掴まれて止められる。

「まぁ、待てよ。ついでだから、俺の荷物 教室まで運んでけwww」

 なんの`ついで´かは不明だが、フランツは自分の荷物を俺に押し付けてくる。

「いや、あの……、フランツの教室って、一年の教室とは反対方向だよね……?」

「あ"あ"っ? だったら、なんだよ? 良いから、黙って俺の言う事に従ってろよ。落ちこぼれの癖に、この俺に意見してんじゃねぇ!」

「いやっ、違うんだ、違うんだっ!! 別に、意見とか そう言うんじゃないんだけど……」

「じゃあ、なんだよ?」

「いや、その……講義が始まるまで、もう あんまり時間が……」

 すると、フランツは さも当然のように「だから?」と言った。

「お前、もう二回も同じ講義 受けたんだから、内容なんか聞かなくても分かるだろ。」

「いや……、それは まぁ、そうなんだけど……。でも、流石に初日から遅刻って言うのは……」

 苦笑 混じりに そう告げるも、フランツは一切 聞く耳を持ってくれない。

「てめぇの事情なんか知るかよ。良いから、早く受け取れよ!」

 すると、フランツの取り巻き達も一緒になって俺を怒鳴り付けてくる。

「ウダウダ言ってないで、早く持てよっ!! フランツさんの言う事が聞けねぇのかよっ!?」

「そうだよ! このままじゃ、フランツさんまで遅刻しちまうだろうがっ!!」

「さっさと受け取れって!」

 そう言いながら、俺を小突いてくるフランツ達に「分かったよ……」と答えて、俺が仕方なしに荷物を受け取ろうとした その時だ。不意に、フランツが前に つんのめって取り巻きの一人に ぶつかった。

 何事かと思っていると、フランツ達の後ろから誰かの声が聞こえてきた。

「通行の邪魔だ。朝っぱらから、通路 塞いでダベってんじゃねぇよ。」

 その物言いに、俺を含めた その場の全員が驚愕して、思わず声のした方に目を向ける。

 すると、そこには俺やフランツとそう年の変わらない銀髪の青年が立っていた。~ちなみに、俺は十八歳で、フランツは その一つ下だ。~

 そうして、俺達は漸くフランツが前に つんのめった理由が分かった。彼が、後ろからフランツを蹴り飛ばしたのだ。これには、流石のフランツも驚きのあまり言葉を失っている……。

 それと言うのも、フランツはマグダリア国の王族で、尚且つ実力至上主義のこの学園において、実力と権力を共に兼ね備えた存在だからだ。~正直、フランツに逆らえる者など、この学園には居ないのだ。~

「てめぇ、何しやがるっ!?」

 漸く我に返ったフランツが、声を荒げて言った。だが、当の青年は何処 吹く風で「邪魔だっつってんだろ」と告げる。

「いつまで、ウダウダやってんだよ。さっさと捌けろ。」

 あまりに ふてぶてしい青年の態度に、フランツは憤懣やる方ないと言った様子で怒鳴り付ける。

「ふざけてんのかっ、てめぇ! 俺に逆らったら、どうなるか分かってんだろうなっ!?」

 そんなフランツを宥める為に、俺は咄嗟にこう言った。

「フランツ、待って! 彼、新入生じゃないかな?」

「あ"っ!? 新入生? おい、お前! そうなのか?」

「そうだけど? それが、なんだよ?」

「……っ!! 随分と生意気な口を利くが、何処の国の貴族だ……? 俺が、マグダリア国の王族だと知っての狼藉か?」

 すると、青年の口から とんでもない言葉が放たれた。

「あ~、お貴族様だったんスね。平民の俺が失礼な態度とって、すみませんでした~。」

 明らかに棒読みだが、青年は(いちおう)フランツに謝罪した。~しかし、まさか あんな態度を取っていたのが平民だったとは……。~

「てめぇ……、一般生徒の癖に俺に絡んで来やがったのか……?」

 こめかみに青筋を浮かべつつ、フランツが尋ねると、青年は またも棒読みで「なにぶん、教養が無いもんで~」と答える。

 ちなみに、この学園には一般生徒と呼ばれる平民達と、特別枠と呼ばれる貴族達、そして(これは、貴族も平民も関係なく)実力の高い特待生と呼ばれる生徒の三つに分けられており、特待生でも無い一般生徒達は、随分と肩身の狭い思いをしているのだ。

 もっとも、俺はウルタニア国の貴族だが、才能が無さ過ぎて一般生徒と然して変わらない扱いを受けていた……。

「フンッ、まだ この学園に来たばかりの平民には分からないだろうが、この学園で俺に逆らって生きていられる生徒なんて居ないんだよ。分かったら、さっさと態度を改めろ!」

 すると、青年は言うに事欠いて「はいはい」と おざなりな返事をする。

「それじゃあ、分かったら態度を改める事にするんで、今日のところは これで……。」

 なんと、青年はそう言って この場を立ち去ろうとする。

(えっ!? あそこまで言われて、態度 改めないの凄いなっ!!?)

 俺が頭の片隅で そんな事を考えていると、不意にフランツの怒声が聞こえてきた。

「てめぇ! ふざけんなよっ、平民の癖にっ……」

「わ"あ"ぁぁぁぁっ、すみませんっ!! ごめんなさぁぁぁいっ!!」

 ……ちなみに、これを言ったのは俺だ。当然、この場に居る全員が`なんで、お前が謝ってんだ?´

みたいな目で見てくる……。

「……急に、なんだよ……?」

 不審げな目を向けたまま、フランツが言った。その声に、先程のような怒気は感じられない。~どうやら、俺が いきなり謝り出した事で呆気に取られているようだ。~

「あ"っ、いや……、そのぉ……、もうすぐ講義が始まる時間なんじゃないかなぁ~って……」

 俺がそう言うと、フランツは不服そうに舌打ちして、取り巻き達に「行くぞ」と言った。その言葉を聞いてホッとしていた俺に、フランツは「お前も行くんだよ」と言って、再び荷物を押し付けてきた。

(…………やっぱり、覚えてましたか……。)

 見知らぬ青年の乱入で、うやむやになったかと思っていたが、フランツはしっかり覚えていたようだ……。

 俺は、一つ溜め息を吐いて大人しく荷物を受け取った。そうして、件の青年に視線を向けると、騒ぎを起こしかけた当の本人は、素知らぬ顔で既に一年の教室へ向けて歩き出していた……。







 その後、俺はフランツの教室まで荷物を運んでから自分の教室に戻ったが、当然の如く遅刻なので、後ろのドアからコッソリと入った。

 だが、席に着こうとしたところで講師に見咎められて、注意を受ける。

「君か……」

 遅れて入って来たのが俺と分かると、講師は溜め息 混じりに そう呟いた。

「貴方からしたら三度目の講義でしょうが、新年度の初日から遅刻とは感心しませんね、ウォレスト家の坊っちゃん……。」

 何も、こんな大勢の前で言わなくても良いだろうと言うような事を声高に言われ、俺は真っ赤になって「すみません……」と言った。

 そうして、これ以上 悪目立ちしないよう一番 後ろの席に静かに着席した……。

 だが、そこで初めて自分の隣の席に人が座っている事に気付き、俺は少しばかり驚いた。

 何故なら、貴族や平民の違いは あれど、このセルベール学園に入学する生徒は、皆一様に召喚術が学びたくて来ているのだ。当然、講義を聞く際は、皆こぞって前の席に着きたがる。

 ~基本的に生徒の席は決まっていないので、一番 前の席の取り合いになる程だ。~

 それが、まさか他の席に空きがあるにも関わらず、わざわざ一番 後ろの席に座る生徒が居るとは思いも しなかった……。

 そう考えて、俺は隣に目を向けた。すると、そこに居たのは先程フランツに喧嘩を売っていた青年だった。

「えっ、君……さっきの………」

 俺が思わず声を掛けると、青年は俺を一瞥して「アンタか……」と呟いた。

「マジで、アイツの荷物 教室まで持ってったのかよ……。」

「あ~…、まぁ……。」

 そう言って、俺は言葉を濁した。だが、大事な事なので、これだけは言っておく。

「それより、今度フランツに会ったら、謝っといた方が良いよ。本人も言ってたと思うけど、フランツに睨まれたら この学園では遣っていけないから。」

 すると、彼は興味 無さそうに「それは、アイツが王族だから?」と聞いてきた。

「う"~ん、それも あるんだけど……。フランツは特待生なんだ。この学園では、家柄の次に召喚術の実力が有無を言うから……。誰も、フランツに逆らえないんだ。もちろん、講師からも優遇されてるしね。」

 俺が そう言うと、彼は不機嫌そうに眉をひそめて「はぁっ?」と言った。

「召喚術師の学校で、召喚術の実力より家柄が優先されんのかよ?」

「あ"~、まぁ、必ずしも そうとは限らないんだけど……。とにかく、フランツは敵に回さない方が良いよ。」

「ふ~ん。じゃあ、アンタも例に漏れず`アイツに逆らえない側´の人間なんだな。」

「う"~、あ"~…、まぁ……、そのぉ……」

 俺が その問いに答えあぐねていると、気を利かせてくれたのか、単に興味が失せたのか、彼の方から話題を変えてくれた。

「ところで、さっき講師が言ってたけど、アンタこの講義 受けるの三回目なのか?」

 だが、変わった話題も俺にとって答え易いモノでは無かった……。

「う"ん、まぁ……、そうかな……。」

「なんで、三回も同じ講義 受けてんだよ? もしかして、留年か?」

「……そんなトコかな。」

「なんだよ、それ? そんで、今年も今までと全く同じ講義 受けるってのか? そもそも、アンタ何度も教わんないと召喚方法の一つも覚えられないのかよ?」

 ほとんど詰問するような その問いに、俺は意気消沈した声で、ボソボソと抗議する。

「違っ……、俺が駄目なのは、筆記じゃなくて実技だもん……。」

「実技……?」

 そう、この学園には`召喚術の知識や理解を試す筆記試験´と、`召喚した魔獣を制御したり、契約を結ぶ事が出来るかを試す実技試験´があるのだ。そして、毎年 行われる進級試験では、その どちらも試される。

 俺の場合は、筆記試験は問題ないのだが、実技の方に どうしようもない問題があった……。

「実は、俺……魔獣を一体も召喚 出来ないんだ……。それで、二年 連続で進級試験に落ちちゃって……」

 俺が そう答えると、彼は眉をひそめたまま「召喚 出来ない……?」と、首を傾げる。

「本当に、一体も出来ないのか? どの属性の、どの種族でもか?」

 その問いに俺が頷くと、納得 出来ないとばかりに唸り声を上げてから、彼はこう言った。

「そんな筈ねぇんだけどなぁ……。召喚した魔獣を制御 出来るかは ともかく、召喚するだけなら誰にでも出来る筈だ……。」

 その問いは、もう何度と無く言われてきたモノだった。だが、事実なのだ。

 俺も最初の頃は、講師達に散々「あり得ない」「何かの間違いだ」と言われてきた。それでも、実際に召喚 出来ない事を知ると、皆`納得するしか無い´と言う顔で渋々 事実を受け入れる……。

「本当に、出来ないんだ。召喚用の魔法陣が間違ってる訳でも、呪文が唱えられない訳でも無いのに、どうやっても召喚 出来ないんだよ……。」

 俺が そう告げると、彼は やはり納得 出来ないのか、難しい顔をして唸っている。だが、それは無理からぬ事だった。

 本当に、一体も召喚 出来ないなどと言う事は前代未聞なのだ。~それでも、出来ないのだから仕方ない訳だが……。~

 それ故、二週間前の進級試験は、筆記試験は ほぼ満点なのに、実技試験が零点と言う残念な結果となった……。

 そんな事を思い出して俺が沈んでいると、不意に隣から呼び掛ける声が聞こえてきた。

「えっ? ごめん、何か言った……?」

 思わず そう尋ねると、彼は気にした風も無く改めて言葉を紡ぐ。

「なぁ、今までアンタが召喚しようとした魔獣の種族を全て言えるか?」

「えっ、多分……。でも、なんで そんな……」

 言い掛けて、俺の言葉は割り込んできた声に遮られた。

「そこ! ちゃんと聞いていますかっ!?」

「えぁっ、すみませんっ!!」

 割り込んできたのは講師の声で、俺は慌てて謝った。だが、その隣では彼が落ち着き払った態度で「聞いてます」と答える。

「ただ……、セルベリアの王族の歴史には、正直 興味が無いもので。」

 その言葉に、教室が凍り付いた。だが、当の本人は至って平然としている……。

「この講義は`召喚術の歴史´ですよね? 王族の歴史とは、関係ない筈です。確かに、召喚術を世に知らしめたのは初代国王の『アーサー・ディ・セルベリア』ですけど、そんな事は誰でも知ってる事実じゃないですか。」

 続けて言った言葉も、とても穏便とは思えない内容で、隣で聞いている俺は一人 ハラハラしていた。

「なっ……、何をっ………」

 セルベリアの王族を侮辱し兼ねない その発言に、講師は顔を青くして何事か言おうとしているが、上手く言葉にならないようだった。

 だが、それすら気にならないのか、彼は更に不穏な言葉を重ねていく……。

「俺が知りたいのは、そんな誰でも知ってる一般常識じゃなく、セルベリアの王族以外が伝えてきた召喚術の歴史です。そもそも、アーサー以外の王族は大した事してないですよね? 王族の歴史まで学ぶ必要性が感じられな……」

「わ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!! なんでも無いです! 間違いっ、今の間違いですからっ!!」

 思わず そう叫びながら、俺は隣に居る青年の口を塞いだ。そうして、俺の奇声で我に返った講師は、ハッとした後なんとも言えない顔をした。

 だが、俺に口を塞がれた青年は、不満そうに眉間に皺を寄せて、俺の手を払う。~それでも、何も言わなかった所を見ると、これ以上 事を荒立てる気は無いようだ。~

 その後、講義は何事も無く再開されたが、俺は小さな声で「なんて事 言うのっ!?」と告げた。

 しかし、彼は一向に引く気が無いらしく、謝るどころか逆に反論してくる。

「アンタこそ、何すんだよ? 余計な お世話だったんだけど?」

「いや、それは悪かったけど……。まぁ、良いか。それより、君 名前は? 俺は『アキ・ウォレスト』だよ。よろしくね♪」

 そう言って俺が笑うと、彼は面食らったような顔をした後、複雑そうに眉をひそめて こう答えた。

「…………アサキだけど……。」

 アサキと名乗った彼は、ファーストネームしか口にしなかったが、俺は別段 気にしなかった。

 何故なら、この世界では ある程度の地位にある者 以外は姓を持たないのだ。アサキは一般生徒だと言っていたので、姓が無いのも頷ける。

 そう考えて、俺はアサキに言った。

「アサキって言うんだ? 俺と同じくらいに見えるけど、何歳なの?」

 俺がそう尋ねると、アサキは眉をひそめたまま「十七だよ」と答える。

「俺の一つ下なんだ。じゃあ、アサキって呼んで良い? 俺の事は、アキで良いよ。」

 俺がそう言って笑い掛けると、アサキは思わずと言った様子で こう口にした。

「年上なんかいっ! 何、年下の平民に平然と名前 呼び捨てにさせようとしてんだよっ!? アンタ、馬鹿なのかっ!?」

「えっ、気に入らなかったっ!? ごめん……。でも、あんまり大きい声 出すと、また怒られるよ……?」

「いや、誰の所為で声 張ってると思ってんだ?」

 アサキは少しばかり苛立った様子で そう言ったが、呆れたように一つ息を吐いて「じゃあ、アキさんって呼ぶわ」と言った。

「うん、分かった。よろしくね、アサキ♪」

 俺が そう言った直後、何故かアサキの口から深い深い溜め息が漏れた……。

 その時は、アサキの溜め息の意味など分からなかったが、後になって その意味が分かった。アサキは、あまり俺と関わりたく無かったのだ。しかし、それは俺の為でも あった……。

 何故なら、その後の講義でアサキは悉く講師達の反感を買っていたからだ。




 その日の講義は全部で四つ あったが、その全てで一限の時のような反抗的な態度を取っていたのだ。

 二限の`召喚術の基本´の講義では「召喚陣や召喚呪文を全て覚える事に意味は無い」と言い出し、三限の`召喚獣の特性´の講義では「召喚獣の種類に どうして魔獣しか居ないのか、何故 聖獣の説明を省くのか」と、講師に詰め寄っていた……。

 そして、決定打となったのが四限のあの遣り取りだった……。



 その時は、ちょうど`召喚獣の制御´と言う講義の最中で、講師が召喚した魔獣を生徒の手で鎮めると言う事を実践形式で行っていた。

 そこで、俺が毎度の如く魔獣を逆に興奮させてしまい、皆に呆れられていた時だった……。不意に、アサキが俺と講師の話に割り込んできたのだ。

「魔獣が こんなに興奮してるって事は、この人は水属性の魔獣とは相性が悪いって事だろ? これで宥めろってのは、無理がある。」

 おそらく、俺を擁護して言ってくれたで あろうアサキの言葉に、講師はドヤ顔で声高に こう告げる。

「残念だったな! ここに居るウォレスト家の坊っちゃんは、どの属性の魔獣でも こうやって興奮させるんだよ。」

「こうやって…って、ただ突っ立ってただけだろ。」

「……っ、ただ そこに居るだけで魔獣を興奮させてしまうんだから、仕方ないだろうが!」

 すると、アサキは またも空気を読まずに失礼な発言をする……。

「どの属性の魔獣も……って言ってましたけど、一人の術者が召喚 出来る属性は精々 一つか 二つ。アンタに、全ての属性の魔獣を召喚 出来るとは、とても思えないんですけど?」

 その言葉に、講師は苛立ちも露に こう答えた。

「……っ確かに、私が召喚 出来る属性は水属性と闇属性の魔獣だけだ。だがっ、我が校には私の他に四人の講師が居て、五人 合わせれば、炎・水・風・地・(いかずち)・闇の全ての属性を召喚 出来る事になるんだ!」

「……なるほど。全ての属性の魔獣を召喚する事が出来るのは分かりました。でも、それは全ての種族じゃないし、召喚獣には聖獣も含まれてますよ? 流石に、聖獣を召喚 出来る術者は居ないですよね?」

 アサキの言葉に、講師は歯噛みしつつ「聖獣を召喚 出来る術者は、もう居ない筈だ……」と反論する。だが、それもアサキに一蹴される。

「もう居ないのでは無く、今は居るか分からない…が、正しいんですけどね。聖獣を召喚出来る術者が現れたのは、この二千年の間に僅か二回だけ……。それだけ稀有な存在だけど、確認されて無いだけで、まだ居たかも知れないし、今 居なくても近々 現れるかも知れない。言葉の言い回しには、気を付けて下さい。」

 これには、講師も流石に黙るしか無かった……。

(……えっ、アサキって、なんで こんなに召喚術に詳しいのっ!? 幾ら一般生徒って言っても、これは詳し過ぎるよね……?)

 俺は、心の中だけで密かに そう思った。それと言うのも、この学園は元々`同盟国との親善´を目的に創られており、セルベリアを含めた三国の貴族や王族は、無条件で入学 出来るのだ。

 だが、一般生徒は そうは行かない。入学試験があり、それに合格しないと入学 出来ないのだが、それがまた難易度が高いらしい……。

 だからか、一般生徒は皆 入学時から既に、(なにがし)かの魔獣と契約を結んでいるのだ。

 だが、ここまで召喚術に詳しい新入生など初めて見た。アサキは、いったい何者なのだろう……。

 俺がそう考えていると、どうやら同じ事を考えていたらしい講師が「なんなんだ、お前はっ!?」と声を荒げて言った。

 その疑問は最もだが、その言い方では単に文句を言ってるだけにしか聞こえない……。

 その所為か、アサキも講師の問いには一向に答える気配が無い。

「とにかく、召喚術は相性が命だし、相手が魔獣の場合 相性が悪ければ殺される可能性が高い。幾ら、ランクの低い魔獣でも、講師が付いて見ていても、生徒が危険な目に遭う可能性がある方法は止めた方が良いです。だいたい、ここの講義って明らかに無駄が多いですよね? その癖、言うべき事は言わずに省略してる。簡略化すべき部分を履き違えてるとしか思えないんですけど……」

「わあぁぁぁっ!! アサキ! 違うんだよっ! あの……、全部……俺が悪いんだ………。」

「なんでだよっ!? 講義の内容と、アンタは関係ねぇだろ!」

「いや、でも……、先生方は ちゃんと遣って下さってるよ……。それなのに、何度やっても魔獣を興奮させるわ、召喚は出来ないわ、本当に申し訳ないと言うか……」

「はっ? 何 言ってんだ? 今、アンタの話してねぇだろ。黙ってろよ。」

 あまりに無体な その言葉に、俺は心の中で「えぇぇぇぇっ!!?」と叫んだ。

(最初は、俺の事がキッカケだったじゃん! なんで、そんな事 言うんだよっ!?)

 だが、そんな俺の(心の中だけの)抗議など、当然アサキには聞こえておらず、アサキは更に言葉を重ねる。

「だいたい、曲がりなりにも ここは召喚術を学ぶ為の学校なんですから、正しい知識を教えるべきでしょ。それに、なんで入学時に全生徒の性質をチェックしないんですか? それが、そもそもの問題……」

 アサキは まだ何事か言おうとしていたが、これ以上は流石に見ていられなかった俺は、慌ててアサキの口を塞いで、こう言った。

「あ"あ"~、すみませんっ、廊下に立ってます!」

 そう言うと、俺はアサキの背中を押しながら、一緒に教室から出た。~講師の指示でも無いのに勝手な事をしたと思うが、講師自身 俺達が教室から出て行くのを止めなかったので、やはりアサキが居ると講義に差し支えるのだろう。~

 廊下に出ると、アサキが俺を軽く睨み付けて「余計な事すんな」と言った。

 流石に、勝手が過ぎたと思った俺は「ごめん……」と謝ったが、これで許して貰えたかは不明だ。

 だが、アサキはそれ以上は何も言わず、再び教室に入ろうとする事も無かったので、俺は思わず安堵の息を吐いた。

 こうして、今日の講義は無事(?)全て終了したのだった……。






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