もふもふ! 蛮族! 聖女様!
なろうラジオ大賞用に書いた短編となります
1000文字と言う制限のため、色々な説明を省いています
ああ、神様。どうして私に彼らを守り導けなどと……そのような神託を下したのでしょうか
そしてどうして彼らは弱いくせに……その力も無いくせに、こんなにも蛮族思考なのでしょうか。
「皆さん、もう一度お聞きします。
もしお腹が空いたらどうしますか? 欲しい物があったらどうしますか?」
そう問いかける私の目の前には、簡素な作りの服を着た二足歩行のワンちゃん達が居ます。
いえ、正確にはフェンリルという名前だけは立派な獣人……らしいのですが、茶色のもふもふの毛で覆われたとんがり耳、すっと伸びた鼻筋、激しく振り回される尻尾を見る限り、獣人と言うよりはワンちゃんと呼んだ方がどうしても正しく思えてしまうのです。
「わぅーん! ちからづくでうばう!」
「りゃくだつ! りゃくだつ!」
「しゅうげき! りゃくだつ! うはうは! わぅーん!」
出来もしないのに好き勝手なことを口々に言うワンちゃん達。
実際の彼らの生活は、近隣の別種族からの餌付け―――じゃない、寄付で賄われていて、実の所彼らは生まれてこの方、一度も略奪などといった行為をしたことが無いのです。
「違います! ダメ! 略奪ダメ!
ちゃんと働いて、お金をお給金として頂戴して、そのお給金で買って手に入れなきゃダメなんです!」
私がそうやって大声を上げると、途端にワンちゃん達は尻尾を足の間に挟み込み、耳をぺたんとヘタレさせて怯えだしてしまいます。
この有様で口だけは達者なんだから……本当にもう。
肩を怒らせていた私は、膝を折ってしゃがみ、彼らとの距離を縮めながら優しく語りかけます。
「略奪をされた側というのは、今の皆さんのように本当に怖くて怖くて、悲しい思いをしてしまうのです。
それはとってもいけないことで、絶対にやってはいけないことなんです。
ですから皆さん……もう略奪だとか、そんなこと口にするのは止めて、今日から私と一緒に、真面目に働きましょう?」
出来る限り優しい声で、優しい想いを込めて私がそう言うと、途端にワンちゃん達は元気を取り戻してしまいます。
「やだ! りゃくだつする!」
「うばう! うばう!」
「わぅーん! わぅわぅっわぅーん!!」
ああ、神様……何故私に彼らを守り導けなどと……。
私、初日だというのに、もう心が折れてしまいそうです。
なんてことを考えつつ、私はついつい大声を上げてしまいます。
「蛮族! ダメ! 絶対!!」
そんな私の大声に彼らはまたもその耳をへたれさせてしまうのでした。
お読み頂きありがとうございました。
もふもふで蛮族って……良いよね