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第五話 渡る世間は意外と優しいようなもの。

修正報告

(2019)7/21第七話との辻褄を合わせるため修正しました。

 応接間を出て、和さんに寮まで案内される。

 会館から続く渡り廊下を歩いて少しすると寮が見えてきた。

 裕福な奥様方が住んでいそうなきれいな外装の建物だった。


「ここが寮です。中に入るのでこちらのカードをかざしてください」


 そういって和さんが渡してきたのは巾着袋から取り出したシンプルな白いカード。カードには104号室と書いてある。

 あ、さっき支部長が投げて寄こした中にはこれが入ってたのか。

 そして和さんに言われるまま扉横についているセンサーっぽいものにカードをかざす。

 するとカチャっと音が鳴った。鍵が開いたみたい。

 和さんに続いて中に入ると中は、綺麗にされているが生活感の出ている、そんな暖かい空間が広がっていた。


「あら、和さんですか?こんな時間に男の人を寮に連れて帰ってくるなんて隅におけないですね」

「違います。この人は今日からNATに所属することになった椿陽介さんです。決して私のパートナーだとかそういうことはありませんから」


 声が聞こえた方を見ると和さんが一人の女性と話をしていた。

 そして俺の姿を見てキラキラと目を輝かせていた。

 やばい人だ……。


「あなたが和さんの彼氏さんですか?和さんは頭は回るのですがこういうことには疎いですから、もしかしたら男の人より女の人の方が好みなんじゃないかって思っていたんです。それがしっかり男の人を……っとこれ以上はからかうのはやめておきましょうか。和さん、せっかくの水色の綺麗な目がとても怖くなっていますよ?」


 ごめんなさいと謝る女性の目は、相変わらず生き生きとしながら和さんを見ていた。


「はぁ……。杏朱(あんじゅ)さん、そういうのはやめてくださいっていつも言ってるのに……」

「そんなこと言わないでください、和さん。それで、和さんが遅くなるのは琥珀から聞いていたので特に問題はないのですが、隣にいる男の人について説明していただきたいです。どうして寮に男の人が?」


 そう言いながら怪訝な顔をしてこちらを見てきた。


「そ、そんなに見つめられても……何も出ないですよ……?」

「いえ、何故かあなたから懐かしいものを感じまして……」

「懐かしい……?」

「杏朱さん、椿さんが困っているのでその辺で止まってください」

「あ、ごめんなさい。多分勘違いですね、気にしないでください」

「は、はぁ」


 その後は何もなかったかのように柔らかな笑顔をしていた。


「杏朱さんには事情を説明して構わないですね。こちらの椿陽介さんは転移者としてこの世界に紛れ込んでしまった残念な人ですよ。そして椿さん、先ほどあなたを見つめていた失礼な人は、ここの寮母をしている八雲やくも杏朱あんじゅさんです」


 あれ?いま俺のこと残念って言ったよね?和さん俺のこと嫌い?ってこの人寮母さんなんだ。

 寮母さんってもっと歳のいった人、みたいなイメージだったんだけど、えらく若いし美人な人だ。


「あ、そうなんですか。それで、琥珀がここで面倒見ると?」

「はい。NATで活動していく、と」

「そうですか……」


 何か不都合なことでもあるんだろうか。そりゃ急に人が来たら不審がるものかもしれないけど。


「琥珀から部屋のカードはもらっていますよね?なら部屋まで案内してあげてください。きっと客室でしょうし。よろしくお願いしますね」

「わかりました。……あ、遅くまで待たせてしまってすみません、杏朱さん」

「それくらい気にしないでください。確かに遅くなったのはいけませんが、事情が事情ですので。和さんは真面目過ぎます。もっと肩の力を抜いてください。」


 そう言いながら和さんの頭を撫でる杏朱さんは紛れもなく寮生を優しく包み込む寮母さんそのものだった。

 そんなされるがままの和さんを見る。――顔真っ赤にしてめちゃくちゃ照れてるわ。


「杏朱さん撫ですぎです……」

「ちょうどいい高さなんです、許してください」

「もう行くので手をどけてください」

「仕方ないですね……。ほら、行ってきてください」


 自分で手をどければいいのにそれをしないのはそこまで嫌がっていないからだろうか。

 名残惜しそうに手を離した杏朱さんは少し寂しそうだったが、それはさておき。


「椿さん、そろそろ行きましょうか。ここに長居するとまた杏朱さんに絡まれます」

「私の扱いについて少し不満がありますよ?」

「気のせいですよ。それじゃ案内してきます。おやすみなさい」

「おやすみなさい。寝坊はいけませんよ」


 なかなか面白い人だったな。

 でもあの人俺を見て懐かしいとか言っていたけど……俺この世界に来たの初めてなんだけど。

 一回来たことあるのかな。いやまぁそんなことないと思うけどね。

 杏朱さんと別れた俺は再び椿さんに寮の説明をしてもらっていた。


「先ほど支部長がおっしゃってましたが、この支部には女の子しかいません。なので男性寮というものが存在しません。ですが、椿さんが女性寮の一室を利用するとなると風紀的に問題があります」


 それは確かに。支部の子達だって俺みたいな男が女子寮にいるのは不安だろう。

 俺だって一人の方が気は楽だ。


「安心してください。女子寮に入れられないから野宿だ、なんて野蛮なことはしませんから。では改めて説明を。寮棟の左手は女子寮になってまして、基本的には椿さんは立ち入らないようにお願いします。ですが杏朱さん監視のもと寮母さんの仕事をするのであれば、その際は不問となると思います」

「わかった」

「これから椿さんに住んで頂くのは、今歩いている玄関から右手に伸びる廊下をこのまま進んで突き当りにある、客人や食客を泊めるのに利用している部屋の一室です」


 説明をされながら歩いて行った先にあったのは上へと続く階段と、さらに奥に女性寮より綺麗に整えられた空間に扉が並んでいた。

 それぞれ101、102というようにプレートがはめられており、104まである。


「階段を上ると201からまた部屋があります。先程カードを渡したと思いますが部屋番号は何番でしたか?」

「104ですね」

「あの……部屋……ですか……。あそこは……」

「どうかしたんですか?」


 なにか小さな声でボソボソと言っていたがなんだったんだろう。

 よくある曰く付きの部屋だったりするのかな。

 ……なにそれ面白そう。


「あ、いえ。なんでもないですよ。104は一番奥の部屋です。行きましょう」


 そうして部屋の前まで行くと和さんは俺にカードを通すように言う。

 あ、カードを読み込む機械が扉の横にある。

 こういうのって高級なホテルとかにあるやつじゃない?金かけてるなぁ。

 カードを通すとガチャっと鍵の開く音がした。

 中はどうなってるんだろ外がこれだけ綺麗なんだから高級ホテルくらいなんだろか。客人用の部屋だって言ってたしおもてなしも最大限にしないといけないんだろなぁ。


「さぁ、どんな部屋が待っているのかな……っと?」


 扉を開けてすぐに目に入ったのは綺麗な玄関に並べられたスリッパ。

 奥の廊下に目を向けるとよく手入れが行き届いていて心做しか輝いて見える。

 奥まで歩いていくと、客人用だからだろうか。部屋はワンルームなどではなくリビングにダイニング、キッチンが分けられており家具も大体のものは揃えられているようだった。

 だが……綺麗なのだが玄関と比べると、所々に傷や、キッチンも何故か使い込まれているような跡が見えた。

 うーん。掃除とかほかは綺麗にされてるのにどうしてここだけ……?

 前にも誰か住んでたのかな。


「椿さん。この部屋がこれからの住処になります。社会で浸透している家具などは一通り揃えてますので生活に困ることは無いと思います。それと食事に関してですが、自分で作るか食堂が朝から空いてますので、そこで済ませられると思います」


 やった。色々準備しなくて済む。それに食堂があるんだ。料理は……別に苦手じゃないけどわざわざやるのは面倒だからな、助かるね。


「あと、生活するのに不足しているものがあったら先ほど会った杏朱さんに頼んでみるといいです。大体のものは用意してくれますよ。まぁ街からそう遠くないので自分でお買い物に、ということもできますけど。そして着替えですが、この部屋に備え付けてある浴衣がタンスに入っていると思います。自分の衣服を調達するまではそれを着て過ごしてください。杏朱さんに頼んでもいいのですが、届くまで時間がかかるので明日にでも買いに行くことをお勧めします」

「何から何まで行き届いてて助かるなぁ。あ、あの、突然来た部外者なのにこんなによくしてもらって少し申し訳ないです」

「そんなことですか。支部長の琥珀さんが住んでいいって言ってるんです。少なくとも私はあなたがここで生活することを嫌だとは思っていません」

「……ありがとうございます。少しずつここに馴染めるようにします」


 この異世界で生きていくならNATの寮を使わせてもらうのが一番だ。なら自ら馴染んで行く努力は必要だろう。

 こうして和さんは部屋の説明を丁寧にしてくれた。

 内装も俺の知ってるホテルとあまり変わらない設備で不自由なく過ごせそうだ。

 部屋を物色していると後ろから俺を呼ぶ和さんの声がした。


「椿さん」

「なんですか?」

「これで部屋の説明は以上になります。何かわからないことがあれば寮母さんに聞いてください。もちろん私にでも構いません。――あ、連絡先の交換をしておきましょうか」


 そう言われて俺はアプリのMINEを見る。連絡先には友達や家族、そして彼女のものも。

 この世界の住人と連絡先の交換をするのか……。ちょっと新鮮だな。


「コードを読み込んで……っと。あ、できましたね。それじゃあ何かあれば連絡してください。今日はもう遅いので、私も部屋に戻ってゆっくり休むことにします」

「ほんと、こんな時間までありがとうございます。何かあった時は頼らせてもらいます」

「えぇ。それでは」


 そうして少し微笑むような表情をこちらに向けて、和さんは部屋から去っていった。


「つ、疲れた……」


 朝から大学に行って帰ろうとしたら突然なにか黒いものに襲われて研究室っぽい場所行き。そのまま二人組に誘拐され女の子四人組に助けてもらえたと思いきや、あれよあれよという間にその子たちが所属しているNATに俺もお世話になることになった。

 あ、そう言えばあの四人と誘拐犯は今頃どうしてるんだろ。四人はもう流石に家に帰っただろうか。誘拐犯は……ナームー……。


 さて、明日から俺は何をするのかよくわからないけれど、何をさせられてもいいように早めに寝よう。

 そのためには……ふ――


 静かな部屋に着信音が響いた。

 俺は今から風呂に入りたいのに!この至福の時間を遮るのは誰だよ……。

 


『椿陽介か』

「支部長さん……?」


 スマホのから聞こえてきたのは支部長だった。

 なんだろうか。なにか伝え忘れでもあったのかな。


「どうしました?」

『あぁ、うちのメンバーはみんな下の名前で呼ぶようにしてるからあんたも陽介と呼ぼうかと思っていてね』

「俺は別に構いませんよ。好きに呼んでください。……で、本当は何なんですか?」


 流石にそんなことで連絡をしたと信じたくはなかった。

 いやなんでこの人俺の連絡先知ってるんだ。


『おぉ。よく分かってるじゃないか。実はちゃんと用はあるんだ。実は陽介に言っておきたいことがあってね。それはこのNATで活動する上で気をつけて欲しい点が一つあるということだね』

「気をつけて欲しい?」

『そうだ。それは陽介が転移者だということを知られないようにする、ということだ』

「何かバレれば不都合なことでも……?」

『それは単純にNATが人外で構成されていることに起因する。転移者という言わば人間種を入れたと例外を作れば、政府からの圧力でNATに人間種を採用せざるを得なくなる自体が起こりかねない。そいつは間違いなくスパイとして送り込まれた刺客になるだろうね』


 どんな社会でもそうだ。

 学校でも会社でも例外を許せば、俺も私もとわらわらとそこにつけ込もうとする輩が生まれる。

 ダイエット中に『今日はお仕事頑張ったからデザート食べても大丈夫!』とかって食べると、あとはズルズルと……。みたいなのと同じだと俺は思ってる。


「分かりました。ここでお世話になるんです。それくらいちゃんと聞きいれますよ」

『聞き分けが良くて助かる。今回あんたを保護した二番隊の子たちとここまで運んできた天羅、そして和と杏朱には既に口外するなと連絡を入れてあるからね。多分これで外部に漏れることは無いはずだ』


 そうか……。俺に関わった人はみんなに秘密ができるのか……。なんか悪いことしちゃったかな。


『あ、そもそもここは人外が主体の部隊だ。人間種にどういう感情を持っているのか私も把握しきれていない。つまり人間種とバレた場合庇いきれなくなるだろうということだね。だから私たちも気を付けるし、陽介も十分気をつけるんだ』


 人外の住む場所。

 友好的に接してくれる人がいるとはいえ俺にとってはアウェーな場所なんだ。気を引き締めないといけない。


「気を付けます。俺も変なことに巻きもまれたくないですから」

『』れならいい。ならもうこの話はしまいだね。そうだ、日中はどうするんだ。NATに所属する子たちは大体が学校に通っているからここにはいないんだ』

「俺は掃除でもしときますよ。それくらいしかできることなんてないでしょうし」

『わかった。ならとりあえずは杏朱に世話になるといい』


 杏朱さんって言ったら……あ、さっき会った寮母さん。


「杏朱さんにですか?」

『そうだ。あいつには話は通しておく。あいつは寮内の管理を主に任せているからね。ちょうどいいだろう』


 確かに渡りに船かもしれない。ついでに杏朱さんにこの世界の話とか聞かせてもらうのもいいかもしれないな。


「なら、そうさせてもらいます」

『よし。今のところ伝えることは伝えたね。なら今度こそ終わりだよ。明日から頑張ってくれ』


 疲れない程度に働こう。

 そもそも働きたくないし。ダラダラしたいし。


『あ、お前の正体を聞かれたら遠い先祖が人魚とでも答えておけ。それで何とかなる。後、あんたの疑問に答えてやろうかね。あんたの電話番号は拾った時に勝手に確認した。以上だ』

「勝手に何してくれ――」


 最後まで言い終わる前に電話切られた。

 ほんと勝手に人のスマホ開くな。ロック機能の面目丸つぶれじゃないか。

 そして俺の正体か……確かにこのまま人間種と答えたら隠している意味ないもんな。素直に人魚の末裔って答えとこ。なんで人魚かは知らんけど。


「よし。気を取り直して風呂に入ろ」


 異世界最初の風呂を楽しんだ俺は、疲れに押しつぶされるように布団に吸い寄せられていった。

 明日から忙しくなるぞ……。

 働きたくないけど働かざる者食うべからずとはよく言ったもんだよね。

 もう……起きられないや……。


「おやすみなさい」

どうも、お芋の人です。


第四話を何も考えず書き上げてすぐ投稿したせいで、第五話までの間に少し期間が開いてしまいました。

まぁだからって投稿するインタバールを調整するとかそんなことはありません。許してね。


今回は寮母さんの登場回になりますね。この寮母さんこと八雲杏朱さん。NATの寮で寮母しているということは……、はい。わかりましたよね。この人も人外です。

何の力を持つ女性なのかは作中で出てきますのでそれまでお待ちいただくか、皆さん自身で想像して当ててみたりしていただくと面白いかもしれませんね。

※もし万が一何かの間違いで『○○がモチーフですよね?』と感想をいただいても、ネタバレに関するものの返信は自粛する予定ですので了承ください。


次回は寮母さんと寮内の掃除をしながら色々お話を聞いていくことになります。楽しみにしていただけると幸いです。


それでは、次回もお待ちしております。

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