第二話 世界を垣間見るようなもの。
やっと袋を出られたと思ったら、俺は周りを女の子達に囲まれていた。あ、すごい驚いてる、この子達。
そんなに驚かなくても……。いやまぁ袋から人が出てきたら俺でも驚くか。
しかもすでに外は真っ暗だ。
「魅代ちゃん。ちょっと支部に連絡入れてくれませんか?天羅さんの派遣をお願いして、誘拐犯とこちらの男の人を送ります。なので桜娘ちゃんはこちらの男の人の手足を縛っておいてくださ――」
「紗苗さん!男の人っすよ!袋から出てきたっすよ!!」
あ、黄緑色をした髪の少女が話を聞かずにさっきまで喋っていたさなえという名の長身の女の子を揺さぶっている。
ん?いやまって?今俺のこと縛るって言った?言ったよね。なんか悪いことしたっけ。
「桜娘ちゃん」
「はっ!!」
おぉ、一度名前呼んだだけで動きが止まった。すごいなぁ。しっかり教育されてんのかなぁ。
ん?ちょっと揺れてる?違うわ。怯えて震えてるよ、あの子。
「桜娘ちゃん、話はしっかり聞きましょうっていつも言ってますよね?」
「ち、ちゃんと聞くっす!!」
「はぁ……。それじゃ、もう一度言いますよ。結女ちゃんと一緒にこちらの男の人の手足を縛ってしまってください。盗人の二人を縛った時に使った縄でストックが最後でしたので」
「わかりましったす……」
ねぇやっぱりあの人たち俺のこと捕獲しようとしてない?だって手足縛るって。しかもどっか連れていこうとしてるし。
あ、さくらこって名前の黄緑髪の少女がこっち来た。
「すいませんっす、おにいさん。うちの隊長の指示なんで縛っちゃいますね」
さっき黒髪の人がこの子に俺を縛るの頼んでたけど、どうやって縛るんだろ。あれかな、縄とか持ち合わせてるのかな。
ん?自分が縛られることにはもう反応はないのかって?
ちょっともう色々あって疲れたわ。それに縛られる件に関してはさっきリアクションとったしね。
「よっと」
黄緑髪の少女が何でもないように声を出した瞬間、黄緑色の髪の毛が長く伸びだした。
伸びた髪の毛は少しづつ濃い緑色へと変色していく。
「なっ、なんだ!?急に髪の毛が!!」
「ん?どうしたっすか?おにいさん。ただの蔓っすよ?」
「いやなにいってんの!?」
「髪が蔓に変わったぐらいでなに驚いてるんすか?変な人っすね」
黄緑の髪の毛が次第に俺の手足に巻き付いていく。胡坐かいてたはずなのにどうやったあの人……。
おかしいよ。髪の毛がぐんぐん伸びて気づいたときには身動き取れなくなっていました。髪の毛が伸びている事態が既におかしいんだけどさ。
とりあえず、髪が蔓に変化しているのは勘違いだな。きっとそうだそうに違いないそうであってください。
なんて考えていた俺は体勢を崩し、地べたにゴロンと転がされる。そのまま、転がった先にいた少女の元へとたどり着いた。
透き通るような水色の髪を持った少女。たぶんこの子がゆめって子なのかな。俺が近づくとさっと距離を取った。
怖がられてるのかな。
「天羅、すぐ来るって」
そういって近づいてきたのは先ほどみしろと呼ばれていた女の子だった。
「ありがとうございます。天羅さんのことですからすぐに来ると思いますのでここで待機としましょう」
「あ、あの紗苗さん。先ほど捕まえた二人組はどこへ行ったんですか?」
そう言われた黒髪の女の子はあっと声を漏らし辺りをきょろきょろと見渡した。
そして少しした後、見つけたとつぶやき走り出した。暗闇の中女の子の動きは見えなかった。
だけど疲れからの幻覚かな。お尻のあたりから二本の尻尾が見えた気がした。
少しした後。暗闇に紛れて姿は見えないがあの女の子は俺を誘拐したらしい二人を見つけたようだ。
二人の言い合いをする声が聞こえてきた。
「こいつが今なら逃げ出せるかもって言ったのよ!!悪いのはこいつよ!!」
「いいえ、あなたが足が痺れて痛い、もう無理。とおっしゃるのでそう助言したまでです。私はあなたに無理に引っ張られたのです」
「そんな言い訳通るわけないでしょうが!!」
「あくまで事実は言っただけですよ。そもそもNAT相手に逃げ出すのはほぼ不可能ですからね」
「二人とも、黙ってください。これ以上騒ぐのなら――わかりますよね?」
黒髪の女の子が少し言葉を切ったかと思うと、月明かりに照らされてきらりと何かが光るのが見えた。
刃物……なのかな。こんな夜中に刃物なんて。警察が来たら大変だろうな。
そんなことを考えているうちに話し合いは終わったようだ。
女の子がこっちに戻ってきた。
「あの二人は?」
「夢を見せておきました。まだ起きないと思います」
「置いてきたの?」
「ここまで連れてくる手段がなかったんです」
まぁ大の大人というか、人二人を女の子が運ぶには少し荷が重い気がするよね。
「じゃあ、仕方ない。桜娘に運んでもらう」
「そうですね。お願いしましょうか」
いやぁ、桜娘ちゃんってたぶんあの黄緑髪の明るい女の子だよね。いくら元気って言ってもさすがに無理なんじゃないかなぁ……。
「桜娘ちゃん。先ほどの二人組をこちらに運びたいので着いてきてください」
「あ、はいっす」
二人はそのまま暗闇に消えていき、シュルシュルと音がしたと思えば黒髪の女の子と黄緑髪の少女が戻ってきた。
その後ろには仮面をつけた二人が宙に浮いていた。
なんで空飛んでるのあの二人。ふわふわと……ん?暗くてあまり見えなかったけど近づく二人をよく見ると腰に何かが巻き付いている。あれは、俺の手足にも巻き付いている蔓?
巻き付いた蔓はそのまま黄緑髪の少女の髪へと伸びていた。
やっぱりさっきの勘違いとか見間違いとかじゃないわ。だってほんとに蔓だもん頭から伸びてるよ。
なんなんだこいつらは。人じゃないよ絶対。それとも俺がおかしくなったのか。
縛った二人を地面に降ろす黄緑髪の少女を尻目に、桃髪の女の子は目線を夜空に向ける。
「天羅、来たよ」
その時、空から柔らかい何かが何枚かひらひらと地面に舞い落ちてきた。
「羽根……?」
それは夜の闇に溶け込むほど黒い羽根。
「烏森天羅、ただいま到着しました!お待たせしてませんか?」
何十羽もの烏を連れてきたのは背中から黒く大きな羽根を羽ばたかせた女の子だった。
羽根を持つ紫色の髪の女の子はふわふわとゆっくり降り立つ。
「こちらが誘拐されかけていた男の人ですか?」
「ええ、そうです。後、誘拐犯の二人も捕縛しているのですが天羅さん運べますか?」
「もちろんです!私に任せてください。輸送班、天羅が責任をもって支部まで運ばせていただきます」
「ありがとうございます。流石に三人を運ぶのは骨が折れますから」
俺はどうやらあの紫髪の女の子にどこかへ連れていかれるらしい。
正直どこに連れていかれるのかわかったもんじゃないが、抵抗したらあの二人組みたいに何かされそうだ。大人しく従う方が身のため……だと思う。
あの女の子、確かに烏のように黒い羽根を持っていた。大きく、きれいな羽根を。コスプレだと思いたかったけどあの羽根しっかりと動いていた。というか空を飛んでいた。もうこの時点で俺の知る現実じゃあない。
結局この状況を説明できる材料はなく途方に暮れる俺に黒髪黒羽の女の子が話しかけてくるまでに結論が出ることはなかった。
もうすでに俺以外の二人は移動させられていた。
「あの、本来輸送物は輸送専用のかごに入れて烏たちに運んでもらうのですが、あなたは手足が縛られているとはいえ意識があります。なので私が運びます」
「わ、わかりました。あの、さっきまでいたあの四人は何処に?」
「あ、二番隊の方々ですね。先に支部に向かわれましたよ」
もう移動していたのかあの人たち。ということは到着した先でまた会うのかな。
……あ、そういえばさっき俺を運ぶって言った?どうやって運ぶんだろ。まさかお姫様抱っこなのか?することはあってもされることなんてないと思っていたのに。仕方ない、腹を括ろう。
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風を切りながら暗闇を羽ばたいていく。俺は夜空を飛んでいた。
「なるべく揺れのないように飛んでいますがこれは物を運ぶためのものなので。身体は大丈夫ですか?」
背負子でした。いやまぁ背負子に座る経験もなかなかレアだからさ、別にいいんだけどね?なんか違う。
「あの、返事がないとどこかに落としたのではと少し不安になります」
「あ、すみません。ちゃんと後ろにいます。揺れもあまりないので快適です」
「よかったです。支部まであと少しなので、もう少し我慢してください」
「わかりました」
流れに流されてここまで来てしまったけど、『支部』と呼ばれる彼女らの拠点はどんなところなのか。
もしかしたらあの黄緑髪の少女やこの黒髪の女の子みたいにあり得ない力を持つ人たちがいるのかもしれない。俺の知らない力を利用する人たりがいるのかもしれない。
まだ知らないことが多すぎる。
まぁ、何をするにもまずは支部とやらに向かうのが先だ。
それまでは彼女の背中でのんびりと夜景を楽しませてもらおうかな。
そう思って下を見下ろすと、
「あれ?真っ暗だ」
俺の知っている街は電気が煌々と輝き、星空に負けず劣らずの光景が見られたはずなんだけど……。
ビルや建物に電気はほとんどついておらず、月明かりと街灯が主な光として地上を照らしていた。
「あの、すみません。」
「なんですか?あ、私は烏森天羅。天羅で構いませんよ」
「それじゃあ天羅さんと呼ばせてもらいますよ。少しお聞きしたいんですけど。地上に全然光がないのはどうしてです?停電ですか?」
そう聞いた俺に天羅さんは驚く表情を見せた。
「あなた……ではないですね、えっと――」
「陽介、椿陽介です。椿でも陽介でもどちらでも」
「なら陽介さんですね。……もしかして妖怪種の一部が最近暴れまわっていることを知らないんですか?未だに妖怪種と人間種が相いれることを良しとしない派閥が存在するらしくて、それで――」
「ま、待ってください!妖怪種?人間種?一体何なんなんですかそれ!?」
「え……?陽介さんもしかして記憶喪失ですか?人間種と妖怪種、そのほかにもさらに二つの種があるのは常識なんですけど……」
「き、聞いたことないぞ、そんなの」
そもそも妖怪、種?なんて存在するわけない。あれは人間の想像で生まれるものじゃないか。
「ほ、本格的にまずいみたい。これは支部についたらそのまま擁護室行きのほうがいいかもしれないわね」
「い、いや、俺がぼけてたみたいだ」
「そ、それならいいんだけど……」
怪訝な表情を浮かべこちらを見た天羅は何かに気づいたのか視線を前に向けた。
「前に建物があるんだけど、見える?あれが支部なのよ」
「あれが……」
誇らしげに支部を指さす天羅。確かに遠目から見ても結構豪華な見た目になっている。
外観は会館のようになっていて、結構な広さだ。
「じゃあ、着陸するから振動に気を付けて。なるべく注意するけど」
「わかった。まかせる」
実際は後ろに乗っているだけで特にすることがない、というのが正しいのだが。
そして、敬語いつの間にかなくなってたなぁ。なんて考えながら天羅に背中を預けていた。
どうも、お芋の人です。
今回やっとこのお話で軸となる人間種、妖怪種の二つのワードが出てきました!このほかにもあと二つ種が出ていませんが、それは追々ということで……。
まず、この世界で初めてあり得ない力(陽介談)に触れることとなった陽介ですが、順応性が高いわけではありません。ですので目の前で空を飛ばれたり髪の毛が変化したりと見せつけられた陽介はパンク寸前です。パンクしていない理由は「一旦棚に上げる」行為を頻繁にしているからです。これによって陽介の心や思考は守られているのです。
次回ですが、支部に陽介が来ることになりました。ここで陽介はこの世界の常識を知ることとなります。人間種や妖怪種、そのほかの種も出てきますので楽しみですね。
それでは次回もお待ちしています。