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プロローグのようなもの。

修正報告

(2019)5/27 NHO→NAT

5/29 本部→無事

5/30 独り言つ→今回の任務に少しの疑問を抱いた

5/30 魅白→魅代

 日の光はとっくに落ち、人々は寝静まる時間帯の丑三つ時。

 ビルがそびえ建つビジネス街は暗闇に包まれ、物音はせず人気ひとけも全くない。聞こえてくるのは風ののみ。

 日中は人通りの多いこの道も夜は誰も出歩かない。ここ"東京"に住むものならば小学生でも身につけている知識が大きな理由となるのだが、それはこの時間が奴らが出歩きだす時間帯だからということ。

 なのでわざわざ外に出て危険にさらされる必要はないのである。


 さて、何が住んでいるかは――あぁ、街のほうで動きがあったようだ。これを見たほうが早い。



 二つの影が風に紛れて闇を縫って駆けていく。

 黒い衣装に身を包み仮面をつけた小柄な影は長い髪をたなびかせながら、横に視線を向けることなく聞こえるぎりぎりの限りなく小さな声で、こちらも少々模様の異なる仮面をつけ並走する大柄な影に確認を取る。

 大柄な影は肩に人一人が()()()()()麻袋を担ぎ走っていた。


「ちゃんと持ってきたの?落としてきたとか言ったら減給してやるんだけど」

「当たり前です。これくらいの仕事でへまをするような人間はこんな仕事をしませんから。あなたこそ、最近近くのカフェでおいしいケーキを見つけたとかで入り浸っているじゃないですか。それで体重が増えふべらっ!!」


 女の握り拳がしっかりみぞおちに入った。大柄な男の呼吸が一瞬止まり前のめりに四つん這いになる。

 その姿を見た女は足を止め隠すことなく呆れた表情を向け、男に対する声に怒気を含ませる。


「それ以上喋ったらここで囮にするわよあんた」

「い、意識飛ぶかと思いましたよ。殺す気なんですかバカなんですか。あぁ、頭に行くはずの栄養が全てその無駄に肥大化した脂肪の塊に吸収されてしまっているようですね。残念です」

「あんた、無事に帰ったら殺してあげるから。……いや、やっぱりここで殺す。あんたの死体を見た追手が引く程度にはバラバラにしてあげるから。そしたら報酬はあたしの総取りでいい事ばかりね」


 攻撃的な二人のやり取りはいつものことで、同僚が見れば見慣れた光景だと苦笑いを浮かべながら通り過ぎるだろう。

 まぁ……女の方は少々殺伐としすぎているきらいが頭をのぞかせているのだが。


「あなたはもう少しお淑やかになるべきだと思いますよ。いつまでもパートナーが見つからず落ち着けないのはその性格のせいですね。同情します」


 男のほうも先ほど殴られたことは意に介さない風に毒を吐く。

 忌々しくにらみつける女はすぐに表情を真剣なものに変化させた。軽口を言い合っている余裕はなくなったらしい。

 突然周囲な空気が張り詰めたものに変わり、男も周囲の異変を察知した。


「ねぇ、どうやらやつらに見つかったようね。でもおかしいわ。証拠なんて残してないから明日の朝まではバレないとタカを括っていたのだけれど」

「あ、施設を出る前に手近にあったあなたの顔写真にこれまた何故か手元にあったマジックペンをお借りしてサインを書かせていただいたんですよ。なかなかうまく書けたと思いますよ、渾身のできです。しっかり監視カメラから見える位置に置いてきましたから監視員がやつらに通報していたんでしょいだいっ!!」

「何してんのよあんたは!」


 こいつはなぜ余計なことしかしないのか。この仕事が終わったら別のパートナーでも探そうと心の中で決意しながら、女は懐に入れている愛用の得物を握り追跡者の位置を探る。


「前方から二人、後方からも一人か。閃光弾で逃げ切れるか……?」

「いえ、もう一人前方さらに奥にいますね。こちらからはかろうじて見えるのですが、向こうは見えているのでしょうね。そして非常に残念ながら逃げる時間は与えてくれないようですよ。完全に捕捉されてるみたいです」


 腰に帯刀している刀に手をかけ心底嫌そうにため息をついた。


「はぁ……報酬が惜しいけど捕まって牢屋行きとか嫌だしこいつ渡さない?」


 女は男の肩に担がれた麻袋をにらみながら提案する。


「珍しくいい提案なのでそれには賛成ですが、おとなしく逃がしてくれるでしょうかね」

「そんなの話してみないとわからないわよ。相手も交渉位させてくれるでしょうしね。ほら、近づいてきたわ。交渉してきなさい」

「わかりましたよ。とりあえず私だけ保身に走っておきますね」


 何を言い出すつもりなのかと慌てて口を塞ぎにかかったが少し遅かった。


「この隣の女が私を無理やり巻き込んでこのような事態になってしまったんですよ。ですので捕まえるならこいつだけにしてください」

「はぁっ!?裏切ったな!!あんただけ逃がしてたまるか!!」


 そう口走った女は男の背後に回り首筋に針を刺す。針先は何かで濡れており、的確に男の首筋を突いていた。

 突然の首筋の痛みと即座に全身を襲う痺れに体勢を崩し、力の入らない顔を向ける。


「こ、これは麻痺毒の毒針じゃないですか……。か、身体が全くうごきません。私を止めるためにこんなもの使いますか、普通……。もう……喋るのも難しくなってきました……」

「時間が経てば毒は抜けるわ。そんなことあんたが一番知ってるわよね!ちょうど手元にあったから打ったんだけど相変わらずの効き目よね。と、まぁこんなだからあたしの代わりにNATに捕まりなさ――ひっ!!」


 女は突然騒ぐのをやめて、黙りこくった。男は妙なこともあるものだと女が見ていた方向へ視線を向けるとその意味を悟った。


「これは分が悪いどころではなさそうです……ね」


 視線の先には月明かりに照らされ、笑顔でこちらを見つめながら歩いてくる女の姿があった。ただの笑顔なら、月の光があるとは言え暗がりに紛れてさっさと逃げる選択肢もあっただろう。

 だがこの女の笑顔、全く目が笑っていなかった。こちらとの距離が近づくにつれて圧力が増していき、二人の目の前に着く頃にはすっかり借りてきた猫のようにお行儀よく正座して待っていた。


「こんばんは。私はNAT東京支部二番隊隊長の犬巻いぬまきです。お行儀よく待ててとってもえらいですね。まぁ変な動きを見せた場合でも、私小々夜目が利きますのですぐに捕まえられたと思います」

「逃げ出さなくて正解だったと思うっすよ。この人喋り方こそ丁寧っすけど、性格は褒められたものじゃないんで何されるかわからないっす。あの猫目なんて反則っすよね、真っ暗でも昼間と見えるものは変わらないそうっすから。ま、よかったっすね」

桜娘さくらこちゃん、支部に帰ったら訓練が必要なようですね。今日はそこまで動いていませんし、しっかり訓練しないといけません」

「うっ、植本うえもと桜娘さくらこ!周囲の警戒に行ってくるっす!」


 焦ったように宣言した桜娘はそのまま遠くに走り去っていった。


「はぁ。あの子にも困ったものですね……。気持ちを切り替えましょう。では少々苦しいかもしれませんが縛らせていただきます。逃げられたらまた追いかけないといけませんし」


 手際よく二人を締め上げている様子から、犬巻がこのような事態に慣れていることが分かる。

 瞬く間に手足を縛られた二人はもう身動きを取れる状態にない。

 犬巻はそのまま男が運んできた麻袋へと向かいながらスマホでどこかへと電話をかけ始めた。


魅代みしろちゃん、制圧完了しました。保護対象の安否を確認次第支部に帰りますから、こちらまで来てください。後方で待機してくれている結女ゆめちゃんにもこちらに来るよう伝えてください。桜娘ちゃんと待っていますので。え、もう連絡は入れた?さすがよくこちらが()えていますね。助かります。ではよろしくお願いします」


 連絡を終えると犬巻は今回の任務に少しの疑問を抱いた。


「なぜ麻袋一つに私たち二番隊が駆り出されたのでしょう。ただの盗人相手にわざわざ出る必要もないと思うのですが……」


 ある条件を通過した存在のみが所属することが許される組織、通称NATでは現場に派遣される部隊は隊ごとに分けられている。

 数字が少ない隊が支部の中では上位のメンバーで構成されることとなる。

 よって犬巻率いる二番隊は東京支部では相当の実力を持った者たちが所属しているのである。だからこそ犬巻の疑問は晴れない。


「――なえさん」


 二番隊を動かしている以上この麻袋にはそれだけの何かがあるということかしらね。


「さーなえさーん!!」


 何をするにも三人を待ちましょうか。勝手に動いて何か起きた後じゃ遅いもの。


「性悪猫隊長!結女ちゃんと魅代さん来ましたよ!」

「桜娘ちゃん」

「はい」

「少し夢見ていてください」


 犬巻の言葉とともにすっと姿勢を崩した桜娘は突然唸りだした。「あぁ!もう見たくないっすぅぅ……」といった声が聞こえているが犬巻の耳には聞こえていないようだ。


「何を見ているのでしょうね」


 無意識に口角が上がっている犬巻を見た結女は若干引きながら話しかけていく。


「い、犬巻さん、桜娘ちゃん大丈夫なんですか?すごく苦しんでますけど……」

「大丈夫です。肉体的に疲労はありませんし、支部での訓練には支障はありませんよ。結女ちゃんは何もありませんでしたか?」

「あ、そういう心配をしたわけじゃないんですけど……。こ、こちらへ向かう間特に異変はありませんでした」

「そうですか。ならいいんです」


 もぞもぞ


 そして魅代の報告を聞こうと顔を向けると

紗苗さなえ、桜娘泡吹いてる」

「あっ」


 しっかり忘れ去られていた桜娘はブクブクと口から泡を出し地面でおかしな挙動をしていた。犬巻は少しだけ申し訳ない表情をしながら桜娘を起こす。


「桜娘ちゃん、起きてください。起きないと訓練を――」

「お、起きたっす!今起きたっす!もうおめめぱっちりっすから訓練も悪夢もやめてくださいっすぅぅ……」


 もぞもぞ


 少し涙目になっている桜娘の姿を見て、ちょっとやりすぎたようですと反省の色を見せる犬巻は、今度こそと魅代の報告を受けた。


「巡回したけど特に異変無し。だけど人間種に近い何かが付近に紛れ込んでいるみたい」

「それは、まさかコレのことではないですよね……?」


 足元でもぞもぞと動いている麻袋は絶妙に不気味だった。


「い、犬巻さん、この袋気持ち悪いですよぅ……」

「なんなんっすかこれ!さっきからずっと動いてるっすよ!?」

「紗苗、早々に中を確認したほうがいい」

「わかりました。何かあると困りますので皆さんは離れていてください」


 その言葉とともに三人は麻袋から距離を取った。そして犬巻は麻袋に手をかける。


「では開けます」


 麻袋の口をゆっくりと緩めていく。紐を緩めきり中をのぞく――


「あ、やっと出られた。ってここどこ?」


「に、人間種の男の人……?」


 外界に出られた喜びと環境の変化に驚く人間種の男がそこにいた。

 お読みくださりありがとうございます。お芋の人です。

新作として『人外の住む世界にようこそ。』をぼちぼちゆっくりと書いていければと思っております。

基本筆は遅いタイプですので気長にお待ちいただければ……いいかなぁ……こほんっ。


本作はガッツリとした戦闘シーンを書く予定はございません(というか書けません)。

私はほのぼのが書きたいです書かせてください癒されたいんです。


それでは、どれほどのお付き合いになるかはわかりませんが、次回もお待ちしています。

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