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転生前にする神様との無駄話

作者: A12i3e

「えぇと……ここは?」


 気がつくと、そこは真っ白な部屋だった。

 あれ?なんで俺はこんなところにいるんだろうか。確か、俺は……。


「お主は死んだのじゃよ」


 思索にふけようとした瞬間、自分以外の声に反応し意識を戻す。すると、そこには一人の老人がいた。つい先程、何もいなかったはずの俺の目の前の空間に、一人の老人が立っていた。……いつの間に?


「まあ、そう警戒する必要はないぞ。お主も薄々感づいておるだろう?」


 確かに、この状況には心当たりがある。というか、幾度夢想したことか。しかし、念の為確認はとっておこう。


「あなたは?」

「端的に言えば、神、じゃな」


 ああ、やっぱりそうか。ということは、これはアレだな?アレでいいんだよな?


「俺はすでに死んでいて、異世界に転生するということでしょうか?」

「うむ、話が早くて何よりだ」


 おぉっ、やっぱりそうだった。


「でも、なんで俺なんですか?」


 ラノベなんかでお約束の、死ぬ予定になかったのに誤って殺してしまったとか、そういうやつだろうか?


「たまたま、じゃな」

「え?」


 たまたま?ただの偶然?


「たまたま、じゃ。適当に選んだら、お主だったというだけじゃ」

「え?いや……え?実は死ぬ予定になかったとか、特殊な事情があったりは……?」

「おお、それな。日本人というやつは、本当に面白いことを考えるのぅ」


 はぁ……面白い?


「間違って殺してしまったから、お詫びに異世界に転生させてあげます。ごめんなさいと、神に土下座をさせるなんて発想が出てくるなんぞ、さすがは信仰心の薄い日本人というところじゃな」

「ああ……なんかすみません」


 お詫びに異世界転生まではまだ良いとして、俺も流石に土下座はないと思うわ。神が人ごときに土下座って。


「そもそもの話な、死ぬ予定がなかった、というのが意味がわからん。いくら神だからと言って、全ての生物の生き死にを管理できるわけがなかろう。お主らだって、自分で飼っているペットの生き死にを完全に管理なんてできんじゃろ?生あるもの、死ぬときは死ぬし、生きるときは生きる」


 人間は神のペット扱いですか……。いや、ただのたとえ話だということもわかっているし、実際に神なんて言う超次元の存在からすれば、人間なんてものはペット以下の存在であるということも事実なんだろう。ただ、それを面と向かって言わなくても良くないですかね?


「それにな、仮に誤って殺してしまったとしよう。それで謝罪?そんなことをする必要なんてないじゃろう?お主らは、ありんこを踏み潰したからといって、申し訳なく思うか?土下座までして謝るか?」


 今度はありんこ扱いですか……。いや、まあ相手は神様なんで、別にいいんですけどね。


「それにしても神様、なんか詳しいですね」

「ほっほっほっ、暇に飽かせて地球の創作物なんかも(たしな)んでおるでな。最近のマイブームは異世界系のラノベじゃ」


 えぇ……神様が異世界系のラノベって……。


「因みに、この空間もそれに(なら)っておるぞ。ほとんどの作品が、こういった場面では白い空間というふうに表現されておるでな。状況がわかりやすくてよいじゃろ?」


 いや、まあ確かにこの白い部屋をみて状況をなんとなく察しはしたけれど、それを俺相手にぶっちゃけなくても良くない?


「姿形も自在に変えられるぞ。神に形なんてものはないからな。見せたいものを見せることができる。今のいかにもな老人から、神々しい女神、名伏しがたき異形、のじゃロリ、なんでもござれじゃ。とりあえずはわかりやすさから今の姿をとっておるが、希望があれば別の姿になってもよいぞ」


 いえ、いまさら女神様とかになられても、すでにおじいさんのイメージが付いちゃってるんで違和感しかないと思います。




「さて、ちと話が脱線してしまったな。これからのことを説明しよう」

「ああ……はい、お願いします」


 うん、なんか聞かなければよかったことまで聞いてしまったような気がするけど、気にしたら負けだと思う。

 でも、これだけは言っておきたい。神様の口から、のじゃロリなんて言葉は聞きたくなかったなぁ……。


「さっきはな、お主がここにいるのはたまたまだと言ったが、正確にはちと違うのじゃ」

「え?それはどういう……」

「正確には、異世界転生に憧れている人間から無作為に選んだのじゃよ」


 うん?どういうことだろう。完全な無作為ではなく、異世界転生に憧れている人間から無作為?なんでまたそんなことを?


「理由としては単純じゃ。単に、説明が省ける」


 ああ、なるほど。確かに、異世界に憧れているような人間であれば、この白い部屋と、神様がいるという状況だけで、今後の展開がなんとなくわかるだろうしね。


「お主も察してはおろうが、記憶をもったまま異世界へと転生してもらう」


 ですよね。でも、疑問に思う点もあるんだよね。


「なぜ、記憶をもったままなんですか?いえ、確かにそれはこちらとしても望むところではあるのですが、普通に考えれば、世界を管理する者としては、異なる世界に前世の記憶を持ち越されると不都合が生じますよね?」


 いわゆる知識チートというやつだ。その世界の技術よりも高度な技術を他の世界から持ち込むことによって、技術レベルを一足飛びに引き上げる行為である。しかし、それは必ずしも良いことばかりだとは限らない。転生者が結果のみを作り出すことによって、そこに至るまでの過程というものがごっそりと抜けてしまうからだ。本来、その過程の部分で様々な試行錯誤があり、様々な教訓が生み出され、様々な失敗を経験する。それらは決して無駄なことではなく、試行錯誤から他の可能性が見出されたり、教訓から危険なものへの対策が講じられたり、失敗から思わぬ結果が生み出されたりと、たとえ本来の結果につながらなかったとしても、それは確かに意味のあるものなのだ。


「それはな、暇つぶしじゃよ」


 ……え?


「記憶を持ったまま転生した日本人というものはな、実に面白い。なまじ中途半端に異世界への憧れがあるからこそ、実に面白く動いてくれる。儂はな、それを眺めて暇をつぶしておるんじゃよ。それに比べれば、文明が多少荒らされることなんぞ些細な問題じゃ」


 うわぁ……神様性格悪っ。ペット、ありんこときて、今度は観賞用動物ですか。

 しかし、なんとはた迷惑な、と思う反面、この自分勝手さが神様っぽいよな、と思ってしまう自分がいるのが始末に負えない。


「さて、異世界に転生するに当たり、一つだけお主の願いを聞いてやろう」

「えーと、それは異世界で役に立つ能力を与えてもらえる、ということでしょうか?」

「ふむ、お主は『チート』とは言わぬのだな」

「いえ、流石に神様に面と向かって『チート』なんていうのは……」

「それが意外とおるんじゃよ」


 マジで?え?神様に面と向かって、チートとか言っちゃうの?


「神の与える力を『チート(インチキ)』扱いとは、やはり日本人は面白いのぅ」


 うわぁ……同じ日本人として恥ずかしい。確かに日本人は無神論者が多いけれど、実際にこうやって神という存在を目の当たりにして、それでも『チート』なんていう言葉が出てくるというのは、流石にどうかと思う。無礼なんていう言葉ではすまされる問題じゃないよね、これ。


「まあそれはよい。それよりも、お主は何を望む?ああそうだ、言葉なんかは気にせんでよいぞ。ちゃんと言葉の理解、読み書きもできるようにしてやろう。それと、あっちの世界の基本的な知識も与えてやる」


 言葉の理解と基本的な知識はありがたい。この二つがあるのとないのとでは、異世界生活初期の難易度がかなり変わるからね。

 これら以外で欲しい能力か……。うん、一応決まったようなものだけど、念の為確認はしておこう。


「これから転生する世界っていうのは、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界って認識でよろしいのでしょうか?」

「うむ、もちろんじゃ」


 もちろんなんだ……。いや、ここで違うとか言われてもそれはそれで困るんだけどさ。でも、だったらこれで決まりだね。


「それならば、戦闘能力をください」

「ふむ、戦闘能力か。そうストレートに言ってきた者は久しぶりじゃな」


 え?久しぶり?え?だって、剣と魔法のファンタジー世界でしょ?魔物とか跋扈(ばっこ)してるんでしょ?戦闘能力、重要じゃん?


「最近の流行りなのかはよくわからんのじゃが、やれスローライフに役立つ能力を、やれ生産に役立つ能力をと、そしてお決まりのように、戦う能力はいらないので、と口を揃えて言いよる」


 ……マジ?いや、確かにそういうラノベも流行ってるよ?でもさ、魔物がいる世界なんだよ?戦う力、必要じゃん?


「因みに、その人達って転生後、どうなりました?」

「もちろん、ほとんどが魔物や野盗に襲われて命を落としておるな」


 ですよね―。魔物がいる世界に転生するというのに、戦う力がいらないとか異世界なめてるとしか思えない。

 スローライフにしろ、生産にしろ、魔物や賊に襲われる可能性はそれなりにあるだろうというのに、自衛の手段を持たないというのは恐ろしいと思わなかったのだろうか?自分は大丈夫だという、謎の自信があったのかな?


「俺はせっかく異世界に転生できるというのに、すぐに死にたくはありません。なのでできるだけ強力な、戦う力が欲しいです」

「その願い、聞き届けよう。戦闘に関するあらゆる力を授けよう。当然、魔法もじゃ」

「ありがとうございます」


 ちょっと期待していたとはいえ、魔法を含む戦闘に関するあらゆる能力をもらえるとか、神様って結構太っ腹。武術か魔術か、どちらか片方だけと言われることも覚悟していたので、これは望外の結果だ。


「さて、それではいよいよお主を転生させることにするが、最後に良いことを教えてやろう」


 そう言って、神様は胡散臭い笑みを浮かべる。うわぁ……『良いこと』というのが、本当に『良いこと』なのか不安になるような笑みですね。


「ここまでの儂に対する態度で、与える恩恵の強弱が決まる。儂になめた態度をとっていた者達が、これを聞いたときの絶望の表情が実に愉快じゃったわ。まあ、お主はなかなかわきまえた態度をとっていたんでな、それなりに強力な能力を与えてやろう。転生後、せいぜい儂を楽しませてくれよ」


 ……やっぱり神様、性格悪っ。

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