饂飩
うどん派か、そば派か?
何て話し合いをしてますと、大体 目立ちたがりが~そばを選ぶ。この質問は大概がうどん派て答えんだろ?え?おいらはどうかって?そんなの決まってらぁ~、おいらはそば派よ。
次のは、饂飩を食べたいお客と、店主とのやり取りを描いた話で。ちょいとコシがつよいもんで、万が一途中で飽きちまったときにゃ、新しい話にいってもらってもええ。美味しくないもんを我慢してえ食べる必要はねえ!
目が覚めて昼……
「饂飩がたべたい」
そう思ったからには絶対に饂飩を食べたい。
饂飩を食べるために家を出て、饂飩屋を探してみるがそうそうには見つからない。
歩いて歩いてさらに歩いたところにやっと、饂飩屋を見つけた。ところがここよ……有名な人気店ということと昼時ということもあってか、満席ですぐには食べられそうにない。
「30分、いや、そうまで待てん」
せっかちなもんで、待ち時間を聞いては諦めることにした。次を探そうと、再び歩き始める。
しかし、しかし、困ったことに歩いても歩いても先ほどの倍以上は歩いてたのに饂飩屋は見つからない。先の店に戻ろうかと思ったが、意地が許さない。次にあることを願って先を歩いてみる。しかたねー、しかたねー、ここまできたら先でうまい店でも見つけて大盛にして食べようかね……と期待ばかり膨らむ。
さあさあ先には饂飩屋は見つかるのか……
力尽きるが先か、こねられた饂飩が先か。
進む進む、ようやく茶色い看板にそれらしきものを見つけた。
「蕎麦処 そばに」
蕎麦処からのそばに、蕎麦推しの店が見つかる。蕎麦屋に饂飩は置いてあるだろう、饂飩屋に蕎麦が置いてあることも稀ではない。
そばにに、ちょいと、寄ってみることにした。
うまい饂飩が……いいやこの際、饂飩が食べられればなんたっていい。欲を言えばオレンジおあげのきつね饂飩が食べたい。出てき際すれば多少まずかろうが、おあげがこあげでも目をつぶろうと思う。
いや~ひやひや、目をつぶったら何にも見えずに饂飩が食べられないではなかろうか。
「へいらっしゃい!!」
「蕎麦や蕎麦でそばからようこそ蕎麦処そばに で食べるのは、あんた蕎麦しかないんやないの~」
店主のインパクト!!
あんたそこまで蕎麦を推さんでも、独特な口で招かれ、これはもう去ることはできぬか。
「どうぞ、どうぞ、どうぞ……狭い店やがちょいと寄ってて、うまい蕎麦。ここにはあります、さあさあ蕎麦を召し上がりまし~」
煩い店主に案内されて椅子に座る。店主のいうとおり店は狭い、長い机が2列に椅子は8つといっぺんに8人しか食せないではないか。親戚一同ご来店の場合は、叔父はそこらでさようならか外でた所で吸って一服、煙まくうちに雲隠れというか1人。
「へい、なんにしやしょう」
「たぬき蕎麦、きつね蕎麦、にく蕎麦にやさいてん蕎麦までそろってる、さあさあ何にしやしょうか?」
店主と○○は静かに限る。これよこれよとしゃべる店主の作る料理は対してうまくない。味で勝負ができぬから、人柄だけで勝負しようて魂胆なんや、分かる、この店はうまくなーと。
メニューをちょいと見てみる。鉛筆でしゃしゃしゃーと殴りかかれた文字はある意味 味がある。
「にく蕎麦、れい蕎麦、たぬき蕎麦」
「きつね蕎麦、やさいてん蕎麦、かれー蕎麦」
「てんぷら蕎麦、とろろ蕎麦ときて、おにぎりの横にひっそりと書かれた、ただのうどん」
「よほど蕎麦を推しているのか、種類は、蕎麦8に対して饂飩は1。あらやだ可愛そうに……ちょいと~ひどいんなや~の?蕎麦のパレードに饂飩が参加できないやないの?」
驚くことがこの店の値段設定。
蕎麦の中で一番高い にく蕎麦が450円なのに対し、ただのうどんは1680円。饂飩に何かされたのか?饂飩1杯で蕎麦が3杯も食える、これでは60円のおにぎりをまいど1個食べたとしてもお釣りも出る。
普通なら饂飩を諦め蕎麦を食べるか、諦めて店を変えるのが普通のだろうが、歩いて、歩いて、歩いてで こちらもだいぶ頭がどうかしているよっ。ぽっぽー。
「すいません、ただの饂飩1つ」
「へい?おきゃーさん?わし耳がとおてなー、注文が聞きとおれんかったんですよ。もいちど注文してくれませんかのー?」
「ただの饂飩を1つ」
「へ?おきゃーさん、今 うどんやいいました?おやおやおきゃーさんもったいない、そんなうどんやなくて蕎麦をお食べ、今ならきつね蕎麦にたぬき追加しちゃうよ、ていへんだねこりゃ。変化変化で化けあい合戦がはじっちゃーよ」
「構いません ただただ ただの饂飩が食べたいんです」
歩いて歩いてさきさきと歩いて、饂飩のために歩いたのだから、頼もう!ただの饂飩でいいから1つ、饂飩を食わせてくださいな。
「うどんは3時間、3時間かかり~ますけど~」
「蕎麦ならちゃちゃいとさっさっさ~と出せちゃいますけど、どします?どしますどします?」
店主は、おかしなことを言い出して、饂飩と蕎麦の提供時間に差があるという。どんなやねん!
ちゃちゃいと出来る蕎麦……むしろ怖い!
引いたら敗けだとこっちも思ったもんで、出るとこは出させてもらおう。
「待~つ!待たせてもらおうではないかー」
「3時間もかかるという饂飩を~」
へいへいと饂飩の注文に不満をもったのか、店主のやつめ、めんどくさそうに厨房にいく。やる気、やる気、やる気、少しはそちらの持っている、やる気とやらを見せてもらおうか!
こっちは客だぞと背中を押したくなるような猫背!ニャーちゃん?ニャーくん?おやすみね。
そこに飼っているのはアメショーか?それともマンチカンか?さっさとさっさとつくりやーれ!3時間かかるという饂飩とやらを。どうやどうや、待つだけの価値や…………
「へい、お待ち!」
あら早い、3時間と思っていたのに10分足らずで出てきたではないか。さあさあどれどれ一口と。
「にく蕎麦でございやあす!」
何つくってんねん!
頼んどらん頼んどらん……頼んだのはただの饂飩や!にく蕎麦なんて1言も言っとらん。
ただうまそうやな~甘そうな肉の匂いにKOされそうだが、いかんいかんと体勢を立て直す。まだここで倒れるわけにはいかん。饂飩を食べねばまだ死ねぬ。
「違います。自分は、饂飩を1つ頼みました」
「にく蕎麦は頼んでいません」
店主の驚き顔を見て驚く。こちらが悪いような顔をしているが、ちゃんと注文したからな!と怒るわけにもいかんので、落ち着いていこう。
「ありゃ?そうえしたけ?うどんれしたっけ?」
「いやーサービスで……この蕎麦無駄にするわけにゃーいかんので、サービスで食べてくだせえ!蕎麦を無駄にするのは蕎麦屋のプライドが許しません!」
大きな声を張って威張るけど、その蕎麦屋のプライド~~注文を間違えんようにすんのもプライドの1つに入れとけい!
饂飩が食べたいと思っていたけど、ただの言われちゃ~食わんわけにはいかねー、向こうがいいって言うんだがら、食っちゃっても罰はあたんねー。饂飩なら6杯は食える、1杯くらいにく蕎麦を食ったところでお腹はぽんぽこぽんぽこつってんたぬき腹にはならないだろう。
綺麗に木の箸を割って、蕎麦の匂いを嗅いでみれば、くぅ~~たまんね~~。それではにく蕎麦の方を頂くとするか……
「ふぅふぅ、はぁはぁ、ふぅはぁ」
舌に猫を飼っているもんで、熱いものをすぐには食べれねーで。これのせいでどれほど損をしてきたか……まあこの話は次回にでもするとして。
にくと蕎麦を箸で同時に挟んで口にいれる。この技を「ダブルブッキング」とでも名付けようか、ああ名付けた時には2代目なんて、襲名のことも考えなきゃあいかんのおと。
「どうでっか、どうでっか?蕎麦の方は?」
店主は笑顔で人の顔ばっか見とる。そんなことしとらんとはよ~饂飩を作ってこいよと……
「普通に美味しいです、このにく……」
「おや~そうでしょう?うちの蕎麦をそこらの蕎麦と一緒にしてもらあちゃあ困りますなあ。蕎麦に命をかけてるんでそこらーとは違うわにゃ~」
「あれあれ、もしやおきゃーさん、うどん派から蕎麦派に変わっちゃあたとか……?」
「いえいえ、自分は、このにくに感動しています。このにくならばにく饂飩にした方がもっと美味しいと思いますけど?」
「ほひゃ?」
「にくは美味いが蕎麦は不味いと?」
「いえいえ、不味いとは言ってません。美味しいけど蕎麦の方に何かが足りない。あくまでこれなら饂飩の方がうまくなるはずだ。と頭の中で想像しました」
「やっぱり饂飩をください」
うまいうまいに違いない、ただただ何かが足りないのは口が饂飩になっていたからか?饂飩、饂飩の饂飩、饂飩、店主よ、饂飩を早く作ってくれって言ってんだ!
「さっきゃーすいやへんね。とんだ勘違いをしてまいやして、こりゃあたまげたたまげた」
「へい、お待ち!」
にく蕎麦が運ばれてきて15分後、ひょうきん店主が顔を出す。美味しそうなだしの香りを連れてきて。
「こ、これは?」
「ごぼうてん蕎麦でございやあす!」
お~い!何やってんだ、何やってんだ!
学習能力がないんかぁ、またも饂飩ではなく蕎麦を持ってきやがる。3時間の料理が15分で出てきたんだあ、怪しいと思ったが、やはり蕎麦!
「違います。自分は、饂飩を1つ頼みました」
「ごぼうてん蕎麦は頼んでいません」
この次に店主が言うであろう台詞に予想がつく。この蕎麦も恐らく食べるはめになるのか……ただだから別に、怒りはしないけど、そろそろ饂飩が食べたいぞっと。
「ありゃ?そうえしたけ?何うどんでしたっけ?これはうっかりしすぎてやした」
「ただの饂飩です。ここにはただの饂飩しかないんですよね?」
「ありゃりゃ、そうえしたか。てっきりおきゃーさんは、ごぼうてん蕎麦と思ってやした。おきゃーさんの顔にごぼうてんって書いてあんだからややこしいややこしい、冗談は顔だけにしてくだせえ!」
おいおいおい、ごぼうてんなんて書いた覚えはない、神に誓っても。起きてから饂飩、饂飩、饂飩!顔には饂飩と書いたつもりだ。もしやこの漢字が読めないのか……?
「しかたなかあ、しかたなかあ、これはサービスで……この蕎麦無駄にするわけにゃーいかんので、サービスで食べてくだせえ!蕎麦を無駄にするのは蕎麦屋のプライドが許しません!」
その言葉、2回目~。無駄にしない方法を教えてやろうか。蕎麦を作らずにさっさと饂飩作りに取り掛かること。こっちは蕎麦を求めてない。饂飩、饂飩、饂飩、饂飩。こちらは饂飩が食べたいの。
「どうでっか、どうでっか?ごぼうてん蕎麦?実は~ごぼうてん蕎麦が3番目に自信があ~あるんでいあるんでい」
店主は笑顔で人の顔ばっか見とる。そんなことしとらんとはよ~饂飩を作ってこいよと……
「ええ……」
ごぼうてん蕎麦の味の感想は割愛!
「はやく、饂飩を作ってくださいな」
「へいへい、了解いたすた~」
おやおやおや、店主が了解といってから20分がたつのに、へいお待ちが聞こえない。3度目のチャレンジでついに、ついに、饂飩が出てくるのかあ~。ただ笑えない。饂飩には3時間かかるらしいからここからさらに長丁場。話し相手になってくれそうな客はいなけりゃ、暇潰しになりそうな雑誌は1冊も置いてない。テレビもねえ、ラジオもねえ、これまた置いてないんですよ。何があるんだこの店には?ああ、アンサーは、蕎麦と蕎麦好きの店主。
「くんくん、くんくんくん……」
何だかいい匂いが厨房からこちらに。ほんのりスパイシーな懐かしい香りは間違いない、みんな大好きカレー!ライスがあったらライスと食おうねの売り文句でお馴染みカレーではないか!
「スパイシ、スパイシ、スパイ、スパイシー」
カレーの匂いで頭がぽーぽーになり、普通の思考回路が麻痺した可能性もあるが、嫌な予感がする。次に恐らく出てくるのはっ……ジャジャジャジャジャジャジャン、カレー蕎麦でしょう!とぼけて店主がカレー蕎麦を持ってくるに10万円かけま~す。カレーではなく10万円をかけま~す。
「なっるほど、カレー蕎麦だから時間がかかっていたんだ~へぇ~」
「なっるほどって言うてる場合か!なるほどやないない、饂飩を食べたいのに、蕎麦、蕎麦食ってる、蕎麦、蕎麦食ってのカレー蕎麦。余力は饂飩に残しておきたい」
「へい、お待ち!」
「すいやへん、久しぶりに作ったもんで多少時間がかかってもおて、でも味はスパイシーーですから」
「カレーライスでございやあす!」
カッカッ、カレーライス!こりゃまた驚いた。10万円負けとるやないか!なんでや、なんでまたまたカレーライスや。
「いやいやてーへんでしたよ。おきゃーさんがカレーライスなんか頼んじゃうから、蕎麦のていでいたのに困りますな、困りますな」
「カレーライスなんて滅多にでないんでどぞ」
「自分、カレーライス頼んでませんけど」
待った待った待った~、人のせいにするではない。カレーライスなんて頼んでない。そもそもここにカレーライスがあること自体知らへんかった。自体や自体。回る回るは時代で、忍者っぽいやつもジタイヤって名前ではなかったはず。
「せっかく、時間をかけーつくったーに、カレーライスを頼んどらんときた~あ」
おお、この展開。蕎麦3はきつかったが、カレーライスは別、カレーライスは別。ただで食べられるのならカレーライスは食べたいなっと。そういえば、聞いたことがある……蕎麦屋のカレーライスは美味いと!
「どうするんです?そのカレーライス?」
こいこいこい、そのカレーライスこっちへ、こいこい。別に~花札を~やってるわけではないんですけど、よかったらそのカレーライス食べてあげても。
「これは、まかないっすな~」
「カレーライスは温めなおせば食べれるんでえい、無駄にはなりやせん」
悔しき。歯を食いしばる。 スパイシーな匂いだけ匂わせ食べさせてもらえない。まさに、芸をしたのに、ドックフードを貰えなかった柴犬のようだ!ワンワン。
「なるほど、カレーライスはまかないですか。それはそうと、饂飩はまだですか?」
「あっやっへ、そうえしたっけ?」
「うどんやいいやしてみょーうちは蕎麦に次ぐ蕎麦でい、われーけど、うどんいったーてただのうどんしかなーよ?それでもえーんきゃおきゃーさん、おきゃーさん、おきゃーさん」
あまりにもしつこい!何回このくだりやんねん!課長クラスがここにきてみ、あんたクビやで~!
まあええ、別に急いどらん。こうなったらとことん饂飩が出てくるまで付き合ったろうやないか。次はどんなものが出てくるんですかねえ?逆にこっちとしては楽しみですは、分かった、あんたは蕎麦屋のうてエンターティナーやないん?人を誉めれば自分もいい気になるもんで、ハッピーかけるハッピーはダブルハッピー、相乗効果でハッピーに。こういうの一般的には、あーでした、あーでした、何とかの関係って言うんですよね、確か。
「おきゃーさん、確認おねがいしやーす」
「ただのうどん 3つでよろすかってでしょうか?」
「はい、ただのうどんを……くださいな」
「あらよってい、よろんで、よろんで、はいよろんでえ、つくらしていただきやす、ただのうどんをつくらしていただきやす」
はいはいはい、こちらが学習させていただきやした~~!ぴんぴか頭で学習能力、この次も~饂飩は絶対にきやしない。エンターティナーにこちらも勝負。次出てくる蕎麦を勝手に当てようクイズをこちらとしたら開催させてもらあう!
にく蕎麦、こぼうてん蕎麦ときて、カレーライス。これって、法則性はなーい。五十音順、そんなはずなし、にからこになりこからかになる。遡っとるやないか。山の神ならぬ、蕎麦の神降臨!言っとる場合か!て誰にたいしてつっこんでいるのか。
くんくんくんくん、みるみるみるみる、そーっそーっそーっ、くちゃくちゃくちゃくちゃ、あいたたっあいたたっ、お猿もビックリ、五感を使ってこの問題当ててやろう。
「き、き、決めた~!」
店主はここで、中華そばを運んでくるに違いねえ、エンターティナーのやりそうなこと、中華そばや中華そばに、10万かけよう。オッズを教えてくださいな。え~オッズ、オッズは59です。そのオッズに偽りなし!こいこいこいこい、中華そばよこい。
35分、十分時間がかかっとるやない?
どうしたどした?ああ、慌てない。ここらで慌てたらいかん。中華そばだ。なるほどだから時間がかかっとるんや、麺を茹でるのに。蕎麦屋の頭に中華はなかったってか?
「へい、お待ち!」
「すいやへん、ただのうどんでございやす。かぁーかぁー、蕎麦じゃあのおてうどんをつくーとのは実に何年ぶりでえ、味は保証しまへん、あちは蕎麦屋なんで蕎麦以外自信はありゃーせん」
おおおおおおおおおい、中華そばやないんかい!念願の饂飩が出てきたあいうのに何故かこの感覚。がっくりしとるのはどおしてどおしてどおして?
今日で20万円やられましたわ、すっからかんち。
大きい大きい、大きいよ、中華そば予想が外れた。オッズ59 うわあああああ。
「おきゃーさん、食べねーんしか?」
「おきゃーさんがうどん、うどん、うどん、うどん、さどんいってたーいうおに、食べねーてどうゆうことっせか?おやおやおきゃーさんさてははまりやしたね、蕎麦に?」
「だからあいったあしょ?うどんなんかよーか蕎麦がうみゃあってことをしゃー」
せかす店主、店主がそういうのも無理はない。あんなに饂飩と叫んだんだ、待って、待って、待ったんだ、やっと饂飩を食べられる。
でははいと、お手を合わせて合掌
「いただきます」
白い太めの麺を口に入れるとあらやだ、すでに分かるこの美味しさ。蕎麦屋って言ってるけどやるやん、やるやん、もちゃもちゃ美味いやないですかい。
「おいしっ、この饂飩美味しいです」
どうしてだ?誉めたのに店主は不満そうにこちらを見ている、何が、何が、何が気に入らないのだ?
「うどんがおいしいにゃんて、おきゃーさんなめとんやとちゃいまっか?うちは蕎麦屋で蕎麦専門でやらしてもらーてんでらっしゃい、うどんなんて出してやせんよ」
確かに饂飩を食ってたはずが、器の中に入っているのはどう見てもそばだ。何をした、何をした店主。
「おきゃーさんすいやせん、店じまいやでい、うちはうどんをでしてーひまったら店じまいやでい、さあ帰った、帰った」
店主にけつを叩かれ店を出る。また来てねの声も聞こえずに外へ出ると、夜は更けとった。そんなに蕎麦屋にいたもんかね?またこよう、そう思って店の方を振り返って見たのに、その場に蕎麦屋はなんてものはなかった。先程までと大きく違っていることがある。いつのまにやら、饂飩派から蕎麦派になっていた。