犯人は加藤
1つ目は「犯人は加藤」って話。
君にはこんな経験はないかい?
楽しみに買っておいたはずの食べ物がいつの間にか無くなっている。食べた記憶は無いのにどこにいったのか?この話ではプリンが無くなる。何者かの手によって。プリンを食べた犯人を探すミステリーなんだが……果たして犯人は?
ええ?犯人の名前をもう知ってるだって?さあさあどうでしょう、そいつは本当に犯人なんかえ?真実は読んでみなきゃわかんねえ。
大学3年生の僕は、家賃節約のために気のあう友人と「シェアハウス」をしている。
「シェアハウスとは何か?」
ーシェアハウスー
1軒の住居を複数人で共有すること。リビングや台所、浴室などを共有し、各住人の個室をプライベート空間とする共同生活のスタイルである。家賃節約などメリットがあるが、最低限のコミュニケーションがなければ人間関係のトラブルを起こしかねない。
トラブルというものは様々で、
例えば……設備を使うタイミング。
複数人が生活している以上、好きなタイミングで好きなように使えない設備が出てくる。
「シェアハウスの問題は大半が生活のリズムが人それぞれ違うことが原因で起こります」
シェアハウス専門家の和家 逢代が偉そうに話していたが。
「ふん、生活のリズムね~。やれやれ……」
僕がら言わせればトラブルが起こるのは、住人
たちの性格に問題があるのでは……
僕はシェアハウスをして2年になるが、
今まで1回も喧嘩になったことはない。
恐らくこれからも喧嘩をすることはないだろう。
「どおぃっあああ~」
冷蔵庫を開けた瞬間に、
漫画のようなオーバーリアクションとともに
大声を出してしまったのには訳がある。
昨日スーパーで、「お高いプリン」1個500円する高級なプリンが、セールで250円になっていた。半額だ。半額というのは非常に大きい。
そのプリンは今日食べる予定だった。
ゆっ……くりと味わって。
大きな天秤に、夏休みまであと1週間の小学生と僕を乗せたときに、両者が釣り合うくらい楽しみにしていた。
「プリン、プリン、プリン、プリ~ン」
今日1日はプリンのことだけ考えていた。
愛しき茉南ちゃんに声をかけられてもプリン。
心理学の講義中もプリン。
「はっはっはっは~お前をプリンにしてやろうか~はっはっはっは~」
プリン星出身の宇宙人''カラメルン''に僕の頭の中は支配されていた。
プリンが美味しくなるように努力もした。
普段食べている昼食、学生Aランチのご飯大盛りを
今日は小盛りにした。歩行速度もいつもの1.5倍で。そう、全てはプリンを楽しむためだ。
冷蔵庫を開けると、
プリンが半分残してあるではないか……
「えっえっおっえっおあ……」
プリンを半分残すという行動が理解できない。
冷蔵庫の中にある自分の食べ物が他人に食べられるというのはシェアハウスあるあるだろうが、その食べ物が半分残してあるというのは体験したことがある人は少ないのではないだろうか。
「えっ?」
罪悪感から半分だけ食べて、そっと冷蔵庫に残したのか?それとも単純に自分が2度プリンを楽しむためにわざと残したのか?
どんな理由であれ、半分だけ残されていたとしても怒りが半減することはない。むしろ倍増したかもしれない。それならば、もういっそ綺麗さっぱり食べられていた方がスッキリする。手に入らないものが、いつまでも自分の目の前にあることほど屈辱なことはない。
「ならば犯人は誰なのか……?」
僕は犯人を知っている。おそらく犯人は『加藤』だ。80%いや90%加藤の仕業だ。
僕が何故ここまで断言できるかというと……
気のあう友人と「シェアハウス」をしていると言ったが、僕の部屋には加藤と僕の2人しかいない。2人しかいないということは、犯人はおのずと、加藤ということになる。僕は食べていないのだから。
「加藤……あいつだ。加藤がおれのプリンを半分食べた断りも入れずに。」
加藤は今、居酒屋のバイトに行っているから家にはいないが、帰ってきたら根掘り葉掘り聞きたい。
「どういう理由でプリンを食べたのか?」
その理由によっては許す……
許せる理由とは?
究極に腹が減っていて死にそうだったから目の前にあったプリンを食べたとか。
自分が購入したプリンだと勘違いしたんだとか。
「何となく食べた」
そういう理由なら僕は許さない。
「ただいま、あ~疲れた疲れた」
2時間後、バイトから加藤が帰ってきた。
「まじで疲れたわ~、」
お前の疲れたは聞いていない……今聞きたいのは、
僕のプリンについてだ。
「あれ?風呂沸いてないの?まじか~」
軽い感じで話す加藤からは、罪悪感というものは感じられない 。不倫がバレた妻子もちの男くらい落ち込まれると嘘臭いが少しくらいは落ち込んでいてほしかった。
「おかえり~ とりあえず加藤座ろっか?」
「え~何でだよ~」
「いいから、座って!」
加藤を赤いソファーに座らせた。僕は加藤に対面するようにソファーの前の小さな椅子に座った。
「じゃあ……始めよっか!」
僕の僕による僕のための事情聴取が今、始まる!
「加藤!俺のプリン知らない?」
さあ、加藤よ。君は何と答えるのか?
「プ、プリン?知らない?」
シラを切るつもりだな。だが加藤、今ので僕は君が嘘をついているというのことが分かったよ。
プリンのことを知らないと言った加藤は右人差し指で鼻を2回触った。そうこれこそが何よりの証拠だ。加藤は嘘をついているとき必ず鼻を2回触る。本人は気づいていないかもしれないが、僕は知っている。2年も一緒に生活しているのだから。
「嘘をつくな。僕が昨日買ってきたお高いプリンが何者かによって半分だけ食べられた状態で発見された。ちなみに僕は食べていない。さあ、どうしてだ?」
白状しろ~。白状するんだ加藤……
「知らねーよ。ねずみが食ったんじゃねーのか?」
加藤はまた鼻を2回触った。
嘘だね、そりゃ嘘だろうね。ねずみが冷蔵庫を開けて食べるはずないよね。しかもねずみの小さすぎる脳では、プリンを半分だけ残すという行動は出来ないはずだ……物を半分だけ残すという行動は、知能の高い人間だからできることなのである。
「いや、プリンなんか知らね~よ」
「じゃあ、誰が食べたんだよこのプリンをよ……」
それでも言い訳をするので、僕は冷蔵庫からプリンを見せて言った。綺麗に半分だけ食べられているプリンが一瞬だけ芸術的に見えた。
「あっ!」
加藤はついこぼれたように一言発すると突然、目を合わせなくなった。プリン現物を見てやっと気づいたようだな。恐らくこの反応から察するに加藤はこのプリンを自分が買ってきたと勘違いしたのだな。
「では、もう一度聞く……このプリンを食べたのはお前だな?」
「すまない……そのプリンは俺が食べました」
冷や汗をかいている。おおこれは……
謝ってくれたし、反省の色が見えるからこの辺で許してやることにするか。
「まあ、あれだろ?」
「このプリン、自分が買ったと勘違いして食べてしまった。自分が買ったものと思っていたからこそ、半分だけ残していた。僕の推理はあっているか?」
「ああ。その通りだ、すまない」
ビンゴ~~僕の推理通り。
やはり2年も一緒に生活しているんだ。
加藤のことは全てお見通しだ……
加藤は罪悪感からか、500円を僕に払うと
そそくさと自分の部屋に戻った。
(部屋に戻った加藤)
「ふぅ……あのプリン……水野のだったのか……」
「あっぶね~~」
水野とは家賃節約のためシェアハウスをしている。
シェアハウスをするにあたって2人で決めたルールが5つある。このルールを違反したものは8ヶ月間家賃を全額支払わなければならないと……そう約束したのだが。
実は3か月前から
俺はそのルールの1つを破っている。
シェアハウスルール第4条
『部屋の中に、女子を入れてはいけない』
水野のいないときを見計らって
どきどき彼女の茉南を部屋に招いている。
別に卑猥なことはしていない。ただお茶を飲んで数分間お喋りをするだけ。
「何も言わずに茉南がプリンを食べていたからてっきり茉南が買ってきたものだと思っていた」
「かー君のために半分残しておくね」
と言われて適当に返事をしたのがいけなかった。
「それにしても、水野が馬鹿で助かった。水野はよく勘違いをする。茉南は俺と付き合っているというのに、水野は茉南が自分に気があるのではと相談してきたこともあった。あのときは本当に困った。」
危ない危ない。今回は500円ですんでよかった。
ルール違反がバレていたら、8ヶ月間の家賃を全額払わなければなかったのだから……
直接は言えないが水野よ、
「プリンを食べた犯人は俺ではなく、茉南だ。茉南が家に出入りしていることを知らないお前には一生たどり着くことが出来ない答えだろうがな」