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【連載版】死にたがりの悪役令嬢はバッドエンドを突き進む。  作者: 采火
番外

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ハロウィンとお菓子と甘い悪戯と(side.スーエレン)

 秋の第二月、その末日の朝。

 かぼちゃのポタージュを飲みながら、かわいい私たちの息子が唐突に声をあげた。


「今日、ハロウィンじゃん……!」

「はろうぃん?」


 息子のアルがにんまりと笑っている。

 朝食の席で不意に声をあげたアル。

 その声に反応して、エルバート様が眉をはねあげた。


「アル、はろうぃんとはなんだい?」

「ぼくたちの前世でのお祭りの一つですよ! 豊穣と収穫の祈り、悪霊を追い払うという意味で行われる行事です。ちょうど秋の第二月の末日にするんですよ」

「秋の第二月の末日……ちょうど今日だね。具体的には何をするんだい?」


 そういえばそうねぇ。

 この世界の暦を数えれば、前世でいうハロウィンはちょうど今日だわ。

 興味がひかれたのか、エルバート様が話を掘り下げたので、私からも説明をつけ足した。


「おばけの格好をして、お菓子をねだってまわるんです。トリック・オア・トリートって言いながら」

「とりっくおあとりーととは?」

「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ……っていう意味ですよ」


 カトラリーを置いて、がおーと爪を立てるようなポーズをしてみる。

 ……ちょっと年甲斐が無かったかしら?

 アルの顔が生ぬるいものになっているので、私はそそくさと手をおろした。

 は、恥ずかしくて頬が熱い……!

 思わず前世での賑やかなイメージに吊られてかやってしまったけれど、普通にお行儀が悪かったし、エルバート様もさぞかし呆れられてーーーあ、見て後悔しました。

 表情が溶けてるっ!


「エレ、かわいい。もう一度やって?」

「や、やらないです……」

「お願い、もう一度」

「ほ、ほら、まだ食事中ですから……」


 自分からやったことなのにはぐらかして食事を再開すると、エルバート様が不満そうな顔になる。

 でも仕方なく食事を再開しようとしたようだけれど……何かを思いついたようで、途中、その口元に弧を描いていた。

 ちょっとエルバート様、その悪い微笑みはなんですか?

 ちょい悪なお顔も素敵ですけど、それは良くないことを考えているお顔ですよね?

 先行きが不安なエルバート様の表情。

 これはなんだか悪い予感がする……。

 アルに救難信号を送るべく視線を向けたけれど、アルは我関せずで既に食事に戻っていた。つめたい。



 ◇



「あら? いつもここに置いてあるお菓子は?」

「申し訳ございません、先ほど別の者が不注意で落としてしまいまして……」


 さて、食後のお茶タイムを、と思った矢先、テーブルの上に常備されている私用のお茶菓子の籠がないことに気がついた。

 控えていたメイドに尋ねれば申し訳なさそうに消えたお菓子の行方を教えてくれる。

 そっかぁ……でも落としてしまったのならしょうがない。


「そう……なら、そうね。あとでお茶菓子を持ってきてもらえるかしら? 甘いものがないとお茶の時間が楽しくないもの」

「奥さま、こちらも申し訳ありません。厨房の発注ミスで砂糖を切らしているようで……お茶菓子はあと半日ほどお待ちいただくことに……」

「あら」


 珍しいこともあるのね?

 これぞ不運に不運を重ねた……といえばいいのかしら。

 まぁ、長い人生きっとそんな日もある。

 私も前世でよく材料の買い忘れとかしたし、食べようとしたケーキを床にひっくり返したことだってあったし?

 そんなものだと納得していたのだけれど……それは間違いだったと、このすぐ後に思い知らされた。


「トリック・オア・トリート。エレ」

「エルバート様?」


 てっきり剣の修行中であるアルへ稽古をつけるために一緒に行ったのかと思っていたけれど……。

 私の寛ぎスペースである居間へとやってきたエルバート様は私の方へと歩み寄ると、ハロウィンの呪文を繰り返した。


「トリック・オア・トリート」

「……お菓子がほしいのですか?」


 意図が読めずに私は聞き返す。

 お菓子を貰うだけのハロウィン行事に、まさかエルバート様が乗ってくるとは。

 まぁたまにはそういう日もあるのかしらと、ここでも思い、「少しお待ちください」といつもなら置いてあるはずのテーブルの上の籠に手を伸ばしかけーーーあ、そういえばお菓子のストックが無いんだった。

 それなら使用人を呼んでーーーあ、砂糖が切れていてお菓子が作れないって言ってたっけ。

 ここで私ははたと止まった。

 えぇとぉ……?

 ……これ、なんか、嫌な予感がするような……?


「トリック・オア・トリート。……お菓子をくれなければ、いたずらしてしまってもいいんだよね、エレ?」

「え、あっ、エルバート様……っ?」


 朝の私のように、がおーというポーズをすると、悪戯めいた目で私の顔を覗き込む。

 そのお茶目なエルバート様についキュンと胸をときめかせていたら、エルバート様の腕がそのまま延びてきて、ドレスの裾をまさぐろうとし始めた。

 慌ててエルバート様の手をやんわりと抑えつつ、使用人の目を気にして部屋を見渡すと、いつの間にやら優秀なメイド達は皆既に退出してしまっていて。

 私はここで気がついた。

 不自然に私から遠ざけられたお菓子たち。

 これはもしかして、はめられた……!?


「え、エルバート様、その、いたずらとはいったい……」

「それはもちろん……僕にとっての甘いお菓子を堪能することさ」


 分かりきっている私の問いに、エルバート様が食むように私の唇にキスを落とす。私の心臓が突然の萌えシチュにオーバーヒートしそうになる。


「エルバート様っ! 朝! 朝ですので! こういうことはお控えに……!」

「時間なんてかんけいないよ。お菓子が用意できないエレが悪いんだから」

「エルバート様ぁっ」


 こうなったエルバート様をどうこうできる手段は私にはない。

 私はエルバート様に横抱きにされると、なんやかんやと丸め込まれて寝室へと連れ去られてしまったのだった……。






 その数時間後。

 エルバート様の腕の中で朝から濃密で甘やかな悪戯を散々ほどこされた私は、ベッドの上で考えた。


 ーーーとりあえず、ハロウィンをエルバート様に教えるきっかけになったアルには、後でドラキュラのコスプレをさせようかしら。絶対似合うから。


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