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【連載版】死にたがりの悪役令嬢はバッドエンドを突き進む。  作者: 采火
死にたくない悪役令嬢は

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トゥルーエンドを模索する13(side.エルバート)

オズ……ではなく、エルバート様注意報。

流血描写、残酷描写があります。

 オズワルドを牽制したセロンはそのまま前へと踏み込む。横薙ぎにした剣の軌道から逃れるようにオズワルドは後退し、下段から突き入れた剣をセロンが打ち払った。


 互いに間合いをとって静止する。


 僕は一つかぶりを振って、剣を握り立ち上がる。脳が揺れたせいか一瞬たたらを踏んでしまったけれど、すんなりと立ち上がれた。


 視界の端でピンク色の髪がちらついた。シンシア嬢がエレに駆け寄ったのだろうか。考えるだけに留めて、セロンとオズワルドの動向を注視する。


「兄上。あなたはやり過ぎだ。何故覇道を突き進む。兄上ほどの力があれば穏便に皇位を継ぐことも出来たはずだ」

「詭弁だな。皇位争いに血が流れるのはつきものだろう」

「だからといって、国を出た俺や……シンシアまで巻き込むな」


 静かな怒気が、セロンの身体から発せられる。オズワルドは白けたように鼻をならした。


「ふん。俺の知ることではないな。俺が望むのは、俺以外の血を持つ者の死だ」

「それなら僕のエレも巻き込まないで欲しかったね」


 頭に上っていた血が下がり、いつもの冷静さが戻ってくる。全く、エレが関わる事にだけは過敏になる自分が情けない。


 オズワルドを見据えてセロンに並ぶ。奴は口の端をつり上げて喉の奥をくつくつと震わせた。


「あの娘は俺が巻き込んだのではない。アレの親が売り込んできたから貰ってきたのだ。問題があるのか?」

「なに?」


 スーエレンの親と言えば、クラドック元侯爵? 田舎で監禁されているはずの彼らが、何故?


「解せぬという顔だな。腑抜けた親が俺に庇護を求める代わりに女を売ったんだ。不要ではあったが、腰抜けの第六皇子を吊る餌を大人しくさせるのに都合が良かったと言ってユリエルが連れてきただけだ。まぁ伽に命じたのは存外俺の好みに合ったからだが」


 チャキ……と剣の金具がなる。僕は思っていたよりも動揺したらしい。いつの間にクラドック元侯爵がオズワルドと接触していたのだろうか。


 そもそもクラドック元侯爵が、エレが僕の婚約者であるのを忘れてオズワルドに売るなんて……万死に値する。これは後で詳細に調べておいた方が良いだろう。


「聞きたいことはそれで終わりか? 冥土の土産にもう少し話してやってもいいが?」

「それには及ばん。捕らえた後にでも聞いてやる」

「ほざけ」


 セロンが言うや否や、オズワルドからこちらに踏み込んできた。彼は僕より一歩前に出て、オズワルドの剣を打ち払った。


 僕は横から突きを繰り出す。オズワルドが反対へと飛び退いて避ける。セロンがすかさず追随して右から左へ一閃。今度はオズワルドがセロンの剣を弾いた。


 二人で剣を打ち込んでいるというのに、オズワルドは余裕でさばいてくる。その上、こちらが隙を見せればすかさずそこを突いてきた。


 オズワルドがそこらの騎士よりも強い覇者であるのは嘘ではなかったらしい。技術も、パワーもある。不足なんてどこにもない。


 これが皇位の才能というものだろうか。本人の才能と、皇族として受けられる最高の教育の賜物なのは間違いない。その確固たる力に舌を巻く。


 にわかに背後が騒々しくなる。多数の人の気配。だけど僕ら三人が激しく打ち合う中には割り込む気配がない。


 敵か味方か。どちらか掴めなくて背後に気を取られた隙を突き、オズワルドが僕の首を狙い突き入れてくる。首を傾け、剣でガードすれば、頬に一筋血が滲む。


「外したか」

「あいにく、貴方を殺さないことには気がおさまらないので」


 剣を弾きながら、先程のお返しとばかりにオズワルドの腹に蹴りを入れる。剣の動作分力は入らなかった上に、オズワルドが後退して避けようとしたので、浅くしか入らなかった。


 でも、それでいい。

 そうやって誘導するのが僕の役割だ。


 オズワルドが間合いをとり体勢を整えようとする。そこで漸く何かがおかしいと、違和感に気づいたらしい。

 咄嗟に気配を探り、剣を奮おうとするけれど。


 それじゃ遅い。

 それを許す僕のバディではない。


「ぐ、ぅ……ッ!」


 背後から背中を一閃。

 オズワルドが呻きながらも背後に剣を奮う。セロンは剣でそれを弾く。オズワルドが僕に背中を見せた。


 僕は遠慮なく、彼の利き手の肩めがけて剣を突き刺す。


 ずぶ、と肉を貫く嫌な感触が手に伝わった。


「がぁッ……!」


 オズワルドの手から剣が滑り落ちて、絨毯に落ちた。


「よ、くも……やってくれたな……」

「一度僕を組伏せたのが命取りになったな」


 一度僕を叩きのめしたオズワルド。そのおかげか、僕が他の事に気を取られがちな人間だと錯覚し侮った。


 確かに一度は叩きのめされた。

 だから僕はそれを利用した。


 セロンと共に打ち合い初めてすぐに気づいた。オズワルドが僕を下に見ていることに。

 セロンとの共闘は役割分担がある。それは基本的な僕とセロンの戦闘パターンだ。


 僕が囮でセロンが影。

 僕が敵の剣を誘い続け、セロンは絶対の隙を突く。


 そのために僕はわざと一回目よりも弱く見せるように手を緩めた。セロンも僕が弱く見えるように庇いながらの剣運びをした。


 錯覚させるには充分だっただろう。後は何をきっかけに、僕の油断を装うか。

 そこに現れる数多の気配。利用しない手は無かった。


 いつまでも愛剣をこんな奴に刺しておくわけにもいかないと、オズワルドの肩から剣を抜いた。オズワルドの低い呻き声と共に、血が溢れ出る。


 剣を振って血を払っていると、不意に一人の男がセロンに声をかけた。


「セロン殿下、お話が」

「……誰だ?」

「ディープブルーのキーロンと申します」

「オブリー家か」


 誰かよく分からないが味方らしい。セロンには思い当たる名前だったらしいので、警戒はしつつも過剰になることもないだろう。


「応援が到着したのを見たユリエルが逃亡しました」

「……どうやってだ。ここの階は階段が一つしかないだろう」

「部屋の窓から飛び降りました」


 脳裏にグレーの男を思い浮かべる。三階は決して低くない高さだ。そこから飛び降りて逃亡するなんて器用な事を……。


 そう思いながらセロンに視線を向ければ、セロンはキーロンに「兄上を捕らえろ」と短く命じた。オズワルドは脂汗を浮かべながら、床に跪いて大量に血を流していく。


「……死なれたら困るんだが」

「そうだね」


 セロンが渋い顔をしてくるので飄々と嘯く。剣を抜いたことを責められているのだろうが、それくらいは許してもらいたい。僕にとってオズワルドの生死なんてどうでもいい。むしろさっさと殺したいくらいなのだから。


 今でも心臓の裏側はオズワルドを殺せと叩いてくる。でもそれを騎士としての理性で抑えているだけだ。殺すより生かした方が騎士団にとって国にとって旨味があると。


 まぁ極論、僕と……エレの視界にさえ入ってこなければいいだけだ。


 そう、エレ。

 僕はエレに会わないと。


「キーロン、だったかな。エレ……スーエレンはどこにいる?」

「隣の空き部屋におります。城内が混乱しておりますので、逃げるよりはお守りした方がよいと判断しました」

「そうか」


 セロンに視線を向ければ、行ってこいと頷かれたので遠慮なく部屋を出た。


 エレ。

 僕のエレ。


「先輩ご無事でしたか」

「エルバートさん、すまねぇ。逃がしちまった」


 アイザックとチェルノが何か言っているけれど僕はそれを無視してエレがいるという部屋に入る。


 エレはベッドで上体を起こしながら、ベッド脇に椅子を持ってきて座るシンシアと話をしていた。彼女は肩にどこの誰かのものか知れないローブを羽織っていた。


「エルバート様」


 エレが僕に気がついた。

 エレは安堵の色を浮かべながら、緊張をどこかへ置いてきたかのようにふにゃりと笑った。

 僕もつられて笑みが浮かぶ。


「エレ。もう大丈夫だ。城内が今混乱しているから、落ち着いたら移動しよう」

「聞き及んでます。エルバート様、助けに来てくれてありがとうございました」


 僕がエレに歩み寄ると、エレは嬉しそうにぽんぽんと自分のすぐ側を叩く。ここに座れと促された僕はその通りにベッドの縁に腰かけた。


「エルバート様、落ち着くまでどれくらいかかりますか?」

「さぁ……たぶん階下から徐々に制圧していくだろうからね。安全な経路を確保するなら一時間以上かかると思う」

「そうですか。それならスー、やっぱり少し横になった方が良いかも。顔色が悪いわ」

「でも、エルバート様ともう少しだけ……」

「いちゃつくのは元気になってからでもできるでしょ」


 シンシア嬢に説得されて渋々とシーツに潜り込むエレは、寝苦しそうに羽織っていたローブを脱いだ。

 そういえば、このローブは誰のものだろうか。僕が突入したときには、こんなもの着ていなかった。もちろん、僕らシンシアの騎士のものではない。


 何だか心が冷えた気がした。

 キシキシと何かが軋んでいる。


 シンシア嬢にローブを手渡したエレを見つめた。


「……エレ、そのローブは誰のものだい?」

「これですか? キーロンに貸してもらいました」


 それは無意識だった。

 キーロンという名前が、先程僕らに進言してきた男だと気がついたときには、エレをベッドに押し付けていた。


 ふわりとエレの金糸の髪がシーツに広がる。僕の影が、エレの顔にかかる。


 エレの赤い瞳に映る僕は、とても暗い顔をしていた。


「エルバート、様?」

「君はその唇で、僕以外の男の名を呼ぶのかい?」


 困惑しているエレ。

 愛しているはずなのに。

 愛しいはずなのに。


 それ以上にどろどろとした黒い憎悪が渦巻く。


「ねぇ、エレ。エレは僕を愛してくれている?」

「勿論です」


 エレは即答するけれど、口でなら何とでも言える。


 そっと彼女の細い首に指をかける。


「君はいつになったら僕を見てくれるの。ようやく生に執着してくれると思ったのに、僕以外の男を選ぶなんて」

「えるばーと、さま」


 苦しそうにエレの顔が歪んで、僕の腕を掴む。


 限界だった。

 何が足りない。

 何が不満なんだ。

 ずっとずっと僕はエレだけを見てきたのに、彼女は一人で死のうとするし、閉じ込めても僕以外の手を取って外へと出ていくし、挙げ句の果てには夫である僕を差し置いてオズワルドなんかに抱かれたいという。


 すぐそばに僕がいるのに、どうして彼女は僕を頼ってくれないんだ。


 僕は君をこんなにも愛しているのに。

 狂おしいほどに愛しているのに。


 なのに君は。

 僕以外を選ぶ。


「……エレ、君が他所に目移りするなら二人だけの世界に行こう。そうしたら、君は僕を見てくれるよね?」

「…………っ、……ぁ」


 エレの首にかけた指に力を込める。

 エレの目尻に涙が浮かぶ。

 泣きたいのは僕の方だ。


 エレ。エレ。

 僕の可愛いエレ。

 僕だけの奥さん。


 僕を見てくれないなら、僕も君もこんな世界にいる必要なんてないだろう───






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