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【連載版】死にたがりの悪役令嬢はバッドエンドを突き進む。  作者: 采火
死にたくない悪役令嬢は

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トゥルーエンドを模索する11(side.スーエレン)

R18ではないですが女性に性的暴力を加えようとする描写があります。苦手な方はご注意。

 ユリエルの膝から降りて、寝室を経由して浴室に向かう。ユリエルとはその時点で別れたけれど、浴室には侍女らしき女性が二人いて、二人がかりで全身を磨かれる。ぬるま湯でほっと息をついたのもつかの間、時間が無いとすぐに浴室から引き上げられて、肌の手入れをされる。


 エルバート様の屋敷でも全身のケアはされていたけれど、慣れない場所、知らない人、これから起きることを考えると全身が強ばって、全然リラックスできない。


 私が緊張しているのが伝わっているのか、侍女達は労るように色々話しかけてきてくれる。けれど同情を向けるだけで助けてはくれないなら、慰めなんて欲しくなかった。


 どんなに嫌でも時間は刻一刻と過ぎていく。全身のお手入れがされた私は、これは着る必要があるの? むしろ服? 正気? みたいなスケスケなネグリジェを着せられた。ショーツは履いてるけど、この世界にブラなんてなくて、胸元が心もと無い。


 侍女達は部屋を出ていってしまった。ポツリと寝室に私だけが残される。


 部屋を見渡して、何かしら悪あがきは出来ないものかと捜索をしてみることにした。


 まずベッドのすぐ後ろに大きな窓がある。月明かりをいっぱいにベッドに注いでいるそこを開けてみる。三階の高さ。飛び降りれるかな……やめたほうが無難かな……ベッドの天蓋引っ張ってきても……無理だな。


 次に壁際に置かれていたキャビネットを開けてみる……おぉう、とても刺激的なお洋服が入っている。でもそんなに数は入っていない。たぶん段々と増やされていくのだろうと考えて顔がひきつった。


 最後、ベッド脇のチェストを調べる。一番上には水差しとコップ。チェストの中には、何か前世でも見たことのあるような無いような感じの大人のオモチャが入っていた。真顔でベッドの後ろの窓から全て投げ捨てた。


 あんなもの使われたらたまらない。エルバート様を見習え。体一つで勝負を仕掛けてくるぞ。


 チェストの中には私が投げ捨てた物以外にも、小瓶に入った薬のようなものがあった。絶対ろくなものじゃないと踏んで、トイレに流す。中に水を足してダミーにしてやった。


 ……逃げ場所は無かったけれど、何もしなかったら地獄の一夜が開幕していたので悪足掻きとしては中々に上々だったのでは。


 さて、後はどうしてくれよう……逃げる、隠れる系の選択肢を選ぶとシンシアに害が及ぶかもしれない。だから私は、演技でも良いからオズワルドを受け入れる選択肢を選ばないといけない。


 嫌だな、と思う。

 出来るだけそうならないように、頑張りたいけれど───


 私の悪足掻きは中々に時間を食っていたらしい。思案にくれ始めてすぐに扉がノックされた。


「オズワルド殿下がお見えです」


 ユリエルの声。

 とうとう、きた。


 私は緊張して、部屋の中に立ち尽くす。


 体の横で拳を握り、二本の足でしっかりと絨毯を踏みしめる。


「……どうぞ」


 扉を睨み付ければ、ゆっくりとドアノブが回された。緊張しているせいか、時間の流れがやけに遅く感じる。


 扉が徐々に開いていく。ユリエルが扉を開いた。背後から、がっしりとした体躯の男が姿を表す。


 ナイトウェアというくつろいだ姿で嫌な笑みを浮かべながら入ってきたのは、当然の事ながら第二皇子のオズワルド。片手には装飾過多ではという剣が握られている。


「それではごゆっくり」


 無情にも、ユリエルが扉を閉める。


 パタンと扉が閉まる。


 私は、真っ向からオズワルドを睨み付ける。


 一歩、オズワルドが歩く。


 一歩、私は下がる。


 オズワルドがニヤリと口角をあげた。


「逃げるな。逃げればセロンの女を殺すぞ」


 オズワルドの卑怯な命令に、私は従う。ううん、従わざるを得ない。


 オズワルドが私に歩み寄る。至近距離にまでやって来て、オズワルドは剣を持たない方の手で私の顎をくいっと上に向かせた。


 緑の瞳と視線が絡む。

 強く睨み付ければ、面白そうにオズワルドが嗤う。


「良い目だな。流れる血の色だ。くすむ事のなさげな鮮紅だが……俺はこびりついた血の色の方が好きだな。お前に飽きたら、その目を抉って濁らせるのも良い」


 緑の瞳に映る私の表情が歪んだ。


 カタカタと体が震える。

 怖い。

 平気で残酷な事を言うオズワルドが怖い。


 私の怯えを正確に読み取ったのだろう。オズワルドがますます面白そうに口角をつり上げた。


「だがそれはお前が俺を満足させることが出来なかった時だ。せいぜい楽しませてくれよ」


 顎から手を離され、顔でベッドに上がるように差し向けられる。


 逆らったら即死。

 この男のお気に召すことが出来なかったら、目をくり抜かれる。

 逃亡したらシンシアが死ぬ。


 まさに八方塞がり。死に芸シナリオライターの好きそうな展開だ。唯一、死亡フラグを回避するにはこの男を楽しませるしかないわけで。


 こんなことならチェストの中身を投げ捨てたりするんじゃなかった……! 今から取りに外に出たらセーフですかね!? アウトですよね無理ですよね知ってた!!


 内心の焦りが酷いままに歩みは止められず、ベッドにまで辿り着いてしまう。唇を噛んだ。


「さっさと上がれ」


 まさに断頭台だ。ふかふかなベッドもシーツも、それは首を乗せるための台とギロチンにしか見えない。


 緩慢な動作で私はベッドへと這い上がる。オズワルドが手に持っていた剣をベッド脇のチェストに立て掛け、私に続く。私は身じろぎもしないで、ベッドにじっと座り込む。オズワルドが楽しそうに口元を歪ませて、私の肩を軽く押した。


「……何の真似だ」


 オズワルドの顔が一瞬、厳しくなる。

 オズワルドは私の肩を押した。本来なら、私はそれに身を任せてベッドに倒れ込むべきだ。


 でも私は、そうしなかった。

 私を征服したいと思っている下衆に、そう簡単に服従してなるものか。ギリギリを見極めて、抵抗させてもらうに決まってる。


「あら……何の事でしょうか」


 今の動作に何の意味があったのかとすっとぼけて見せる。

 オズワルドは僅かに顔をしかめると、今度は強引に私の肩をベッドに押し付けた。ベッドの弾力に背中が弾む。


 ものすごい力で押し倒されて、私は息が詰まった。素早くオズワルドは私に跨がった。私を下に組み敷いて、獰猛な笑みを浮かべる。


「生娘でもないだろうに……分かっているだろう」

「殿下、雰囲気というものをご存知ですか? あるのと無いのとでは盛り上がりが違いますのよ」

「そんなもの、性欲の足しにはならん」


 露骨な言い様に顔がひきつりそうになるけど、ここで止まっちゃ駄目だ。なんとか私のペースに持ち込まねば……!


「今までどんな爛れた生活をしてきたのかは知りませんが、愛もない営みなど虚しいだけだとは思いませんか?」

「空想的だな。女はすぐにそういうものに拘るが……俺には関係ない。俺が貪るのに、そういったものは不要だ」


 私を組み敷いた男は、丈の短いネグリジェの裾から、手を差し入れて私の腹を無遠慮にまさぐる。


「お前の男はその雰囲気とやらを大切にしたのだろうが、快楽以上に閨に求めるものがあるのか? この腹に詰まっているのはお前の男の快楽の印だろう」

「そんな事ありません。それだけで子を成すような無責任は致しません」


 この世界にだって避妊の概念はある。子供を作るには、どの世界だってそれなりの責任が伴うんだってことを現在進行形で体感している。


 ネグリジェがめくられる。下着しかはいていない私の下半身があらわになる。


 下着に手をかけられて、私の体が緊張で強張った。

 それまで散々強がりを見せていた私の表情が変わったのを見て、オズワルドが喉の奥をくつくつと震わせる。


「良い顔だな。どうだ? その責任が伴うという子を孕みながら、他の男に蹂躙される気分は?」


 青ざめながらも、内心の動揺を飲み込んで必死に表情を作る。


 しまった、煽りすぎた。

 雰囲気作りを促してそれなりに充足感を満たしておけば、私の拙い寝技でもどうにかなると思ったのに……! 焦って流れを読み違えた……!


 無意識のうちに下着にかかる手を止めようと、オズワルドの腕を掴む。だけれど、オズワルドは空いている手で力任せに私の腕をひねあげる。


「痛……っ!」

「その顔だ。もっと感情を剥き出しにして泣き叫べ」


 最低だ、変態だ、鬼畜だ、下衆だ、屑だ。

 両腕を頭上で拘束される。暴れようにも、オズワルドの腕はびくともしない。


「さぁ、股を開け。可愛がってやる」


 下着にかかっていた手が、下へとさがり太腿を掴んだ。


 やだ。

 やだ。

 やだ。


 恐怖で視界が歪む。

 一回くらいなら我慢できると思った。赤ちゃんのため、シンシアのため。私の身体を差し出すことで、皆が助かるならと。


 でも、無理だ。


 エルバート様以外が私の身体に触れている、私の身体を貪ろうとしている。

 気持ち悪い。触らないで。あっちいって。


「えるばーと、さま……!」


 恐怖に喘ぎながら、愛する人の名前を呼んだ。


 オズワルドが私の片足を持ち上げて大きく開く。その表情には、私の反応を面白がる愉悦が含まれていて。


 絶望して、諦めて。

 恐怖心から心を手放そうとして。




「エレ!」




 今一番欲しかった人の声と共に、けたたましい音を立てて扉が破られた。






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